部員不足の吹奏楽部に所属する幼馴染のハルタとチカのコンビが、部員獲得に奔走する中で起こる事件の謎を解く青春ミステリです。気が強い元気な女の子に、気弱だけど頭が切れる男の子、そして生徒たちに理解のある吹奏楽部の顧問という、これぞ青春ミステリという設定が青春もの好きにはたまりません。
片思いの相手を撮った携帯の画像を友人たちに見られたことから登校拒否となっていたハルタをチカが引っ張り出すところから物語は始まります。女の子が憧れる二枚目でありながら実は・・・というハルタのキャラが愉快です。登校拒否の本当の事実が明らかとなった時は唖然としてしまいましたが、謎を前にすると、このハルタが見事な推理を見せます。そのイメージの落差がすごいです。
作品は表題作ほか3話からなります。「結晶泥棒」は、要求を呑まなければ文化祭の屋台の食べ物に毒を盛るという脅迫事件と劇薬の盗難事件を絡めた話。「クロスキューブ」は、パズル好きの亡き弟が残した6面全部が白いルービックキューブの謎に隠された弟の想いを描いた感動作です。表題作の「退出ゲーム」は、日本推理作家協会賞短編部門の候補作となった作品です。演劇部に所属する生徒を引き抜くために“退出ゲーム”という即興劇で演劇部と吹奏楽部が争います。、相手の妨害を避けてその場から退場していくことを勝負する“退出ゲーム”自体の着想の面白さもさることながら、実はそのゲームの裏にはあることが企図されていて・・・それが見事にその生徒の人生の謎ときにもなってくる展開が素晴らしいです。最後の「エレファンツ・ブレス」では、“エレファンツ・ブレス”という誰も見たことのない色に隠された男の人生を浮かび上がらせます。
ラストに“1年生のときの話はおしまい”とあることから、これから2年生、3年生のときの話が描かれるのでしょう。高校生を主人公にしたミステリといえば、米澤穂信さんの古典部シリーズが思い浮かびますが、さて、これに対抗するシリーズとなりうるか。楽しみなところです。 |