南部芸能事務所に所属する芸人や彼らに関わる人々を描く7編が収録された連作短編集です。
読んだ後で知ったのですが、この作品、「南部芸能事務所」という作品の続編だそうです。もちろん、そちらから読むのがいいのでしょうけど、僕のように知らないでこちらから読んでも十分楽しめます。それにしても題名からでは続編だということがわかりませんよ、畑野さん。
かつてのお笑いブームの時のような勢いはありませんが、現在もテレビ局の経費削減の厳しい中で安上がりのお笑い芸人を使った番組が毎日のように放映されています。とはいえ、そこに出てくる顔はいつも同じ。実際にはこの作品に描かれているように、いつかは売れたいと思いながらアルバイトをして生活をしている芸人さんが大多数なのでしょう。この作品では、そんな芸人さんたちを中心に、今の自分に悩み、自分を変えていこうともがく男女が主人公として登場します。
「ファンシー」は漫才コンビ“新城溝口”の溝口を好きな同じ大学の鹿島さんが、「シフト」は“ナカノシマ”の中島がアルバイトをする映画館の社員・古淵が主人公となって、彼らお笑い芸人との関わりの中で彼女たちが自分を見つめ直し、自分の辿る道を決めていく様子を描きます。
それ以外の5編はコンビあるいはトリオを組むお笑い芸人の―人を主人公に、相方や他のメンバーとの関係に悩みながらも自分の進む道を歩んでいこうとする彼らを描きます。なかでも、「相方」は、ラストのひとことに主人公の辛い気持ちが凝縮されたグッとくる一編です。
なぜかピンの芸人の話が出てきませんが、ピンだと売れるかどうかという悩みが主になってしまいますが、コンビやトリオだと、それ以前の人間関係が大きな問題になるからでしょうか。 |