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畠中恵の本棚

  1. 百万の手
  2. しゃばけ
  3. とっても不幸な幸運
  4. アコギなのかリッパなのか
  5. ぬしさまへ
  6. ねこのばば
  7. つくもがみ貸します
  8. おまけのこ
  9. ゆめつげ

百万の手 東京創元社
 東京創元社のミステリ・フロンティアシリーズです。
 主人公夏貴は14歳の中学生。ある日、親友の家が火事となり、夏貴が止めるのを振り切って両親を助けるために家に飛び込んでいった親友は焼死します。悲しむ夏貴でしたが、夏貴の手に残された親友の携帯から彼の声が聞こえ、画面には彼の顔が現れます。火事の真相を調べて欲しいと頼まれた夏貴は、携帯の中の彼とともに事件の謎を追いかけます。

(ネタばれあり注意)
 表紙の折り返しに書かれたあらすじによると、「携帯から語りかける友人との二人三脚で、夏貴が探り出した真相は・・・」とあります。これは、おもしろそうだと読み進んでいくうちに友人は○○○となります。ちょっと唐突すぎるのではないでしょうか。最後まで二人三脚でいって、最後に感動の別れがあると思っていたのですが・・・。期待はずれの展開となってしまいました。全体をとおしては、主人公と義父となるべき男との関わりなどおもしろい部分はあったのですが、そもそもの事件の動機が弱すぎるのではないかと思えます。少なくとも友人家族が殺される理由が今一つわかりません(それにだいたい、平日の昼間に放火して家族を焼死させることができるなんて考える人がいるのかなあ)。また、中学生を主人公とするいわゆる青春ミステリの体裁をとっていながら、重要な役どころで登場してきた中学生の女の子が、物語前半で舞台から退場していくのも納得いきませんでした。
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しゃばけ 新潮文庫
 第13回日本ファンタジー大賞優秀賞受賞作です。
 廻船問屋長崎屋の若旦那一太郎は生まれながらにして病弱で、外出もままなりません。そんなある日、黙って店を抜け出した一太郎は、殺人事件に出くわしてしまいます。あやうく犯人から逃れた一太郎でしたが、その後彼の周囲で不思議な殺人事件が続けて起きます。
 病弱な若旦那には、幼い頃今は亡き祖父が、犬神と白沢という妖(あやかし)を一太郎を守るために手代としてつけています。過保護な彼らに閉口しながら、一太郎は事件の謎に挑んでいきます。
 一太郎の周囲には、犬神、白沢のほか、屏風のぞきや鳴家、鈴彦姫、蛇骨婆等様々な妖怪が現れ、笑わしてくれます。ただ、肝心の一太郎を守る犬神、白沢のキャラクターが今ひとつはっきりしていない気がします。どういう妖怪なのかわかりません。そのうえ、護衛役でありながら意外に弱いです。彼らより、いつも犬神たちに怒られながらも反抗している屏風のぞきの方が人間的で(?)、おもしろいですね。
 シリーズ化していますので、次回の妖怪たちの活躍が期待できます。
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とっても不幸な幸運 双葉社
 「とっても不幸な幸運」とはなんておかしな題名でしょう。これって、結局のところ幸福なの、不幸なのと考えてしまいます。「とっても幸福な不運」だったらどう違うのでしょう。
 新宿の伊勢丹デパートの近くの地下にある「酒場」という名前のバー。客は常連ばかり、店長は喧嘩っ早く、客に遠慮などしない男。そんな「酒場」に持ち込まれた“とっても不幸な幸運”と名付けられた缶を開けることによって起こる騒動を描いた6章(あと序章と終章があります)からなる物語です。
 “とっても不幸な幸運”という缶を開けたことによって起きる騒動を描いているのですが、いまひとつすっきりしません。第1章では、ただ開けたときに見える幻ではなく、中に入っていたものから客たちがいろいろ考えていく体裁をとっているのに、4章では、開けたときに見えた幻がその後起きる事件のデジャヴみたいなものだったり、5章になると、開けたときに見えた幻から客の一人の昔話へとなっていきます。さらに6章には“とっても不幸な幸運”の缶は出てきません。そういう点では、すべてがその缶を巡る物語というわけではなく、ちょっと中途半端という印象を持ってしまいました。
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アコギなのかリッパなのか 実業之日本社
 元暴走族で腹違いの弟を養うために大学に通う傍ら、引退した元大物国会議員大堂の事務所で働く佐倉聖を主人公とする連作短編集です。
 若手政治家の勉強会「風神雷神会」の会長で、現役時代に変わらぬ影響力を持つ大堂の元には弟子筋の議員から困りごとの相談が持ち込まれます。そんな困りごとの解決に駆り出されるのが聖です。飼い猫の色が変わる謎、後援会幹部が殴打された事件の後始末、宗教法人へ入信した秘書が寄進してしまった絵画の奪還等、さまざまなやっかいごとに走り回る聖の活躍が描かれます。
 S議員のようにずぶの素人でも議員になれる時代です。政治家というものに対する世間の興味は大きなものがあります。この作品では、素人がボランティアとして政治家の事務所で働くことが描かれたり、現実の政治家の事務所の日常をちょっとだけ垣間見ることができます。
 メインの謎解きについては、それほどびっくりするほどのものではありません。日常の謎系の作品と言っていいでしょう。それよりも聖と大堂、そして彼らの周りの政治家たちとの関わりがおもしろく語られる作品です。肩肘張らずに気楽に読める作品ですね。
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ぬしさまへ 新潮文庫
 「しゃばけ」シリーズ第2作、6編からなる連作短編集です。江戸時代を舞台に廻船問屋兼薬種問屋長崎屋の若だんな一太郎を主人公に、彼と彼を守る妖(あやかし)たちが不思議な事件を解き明かしていく話です。なぜ、一太郎の周りに妖たちがいるのかについてを理解するためにも、シリーズを順番に読むのがおすすめです。
 ミステリという体裁をとってはいますが、単に謎解きだけの話ではありません。今回の連作短編集の中にもミステリとは関係のない妖の仁吉の恋物語(「仁吉の思い人」)や最初まったく関係ない話と思われたものが「しゃばけ」と繋がってくる「空のビロード」などの人情話があり、しゃばけの世界を僕らに堪能させてくれます。仁吉の片思いの恋の相手が実は○×だったなんて思いもしませんでした。
 これらの話が増えることによって「しゃばけ」の世界が広がりを見せてきており、僕自身は謎解きよりもそちらの話の方が楽しみになってしまいました。シリーズ第3作の「ねこのばば」を早く文庫化してくれないでしょうか。
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ねこのばば 新潮文庫
 「しゃばけ」「ねしさまへ」に続くシリーズ第3弾です。病弱な大店の若旦那と“妖(あやかし)”たちが活躍する人情味溢れた時代ミステリもこの作品で3作目になりました。今回は表題作を含む「茶巾たまご」「花かんざし」「産土」「たまやたまや」の5編からなります。
 おもしろかったのは「茶巾たまご」。日頃になく体調がよく、食も進んで仁吉や佐助も驚くほどの一太郎、さらには茶巾たまごから金の粒が出てくるなど幸運が重なる長崎屋には、福の神がいるのではないかと考えたが、実は・・・という話です。しかし、この物語、人を殺しても当然だと考える人間の身勝手さ、恐ろしさを描いた話でもあります。こういう人って、残念ながら今の世の中にも多い気がします。
 「産土」は、“犬神”の佐助が主人公の話です。読んでいるとどこかしら違和感のあるのですが、その正体がラストのどんでん返しで明らかにされます。
 表題作の「ねこのばば」は、猫又という妖怪になりかけていた猫の小丸が寺に預けられたと聞き、早速助けに上野の広徳寺へ。そこには“あやかし”退治で有名な寛朝和尚がいました。悪徳坊主かと思っていた寛朝和尚が意外に憎めない人物で、今後もシリーズキャラとしての登場が期待されます。
 このシリーズは時代ミステリと銘打たれもしますが、そもそもの謎にあやかしたちが関わったりしますので、謎の解決も本格ミステリのようにはいかない部分もあります。でも、そんなことより、このしゃばけの世界を楽しむのが一番ですね。
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つくもがみ貸します 角川書店
 江戸深川の古道具屋兼損料屋・出雲屋を舞台に、出雲屋を営むお紅と清次の姉弟とつくもがみたちが出会う事件を描いた連作短編集です。
 損料屋とはモノを貸して貸し賃を取る商売ということで、今でいうレンタルショップみたいなものですね。「付喪神」とは、“物”に長い年月がたって霊が宿って物の怪となったものを言うそうです。
 妖怪たちと一緒に事件を解決していくというのは畠中さんの人気シリーズしゃばけと同じ世界ですね。つくもがみが貸し出された家から情報を得てきて出雲屋に帰ってきてからわいわいと話し合う。それを聞いた姉弟が事件解決に奔走するという話です。しゃばけの“怪(あやかし)”もそうですが、こちらの“つくもがみ”たちも個性派揃い。空を飛ぶことができる根付けの「野鉄」、リーダー格の煙管の「五位」、気位の高い掛け軸の「月夜見」、好奇心旺盛な櫛の「うさぎ」など、彼らのキャラはそれぞれ特徴的で、彼らあっての作品集となっています。
 「利休鼠」「裏葉柳」「秘色」「似せ紫」「蘇芳」の五編の短編はそれぞれが独立した話とはなっていますが、全体を通してお紅が“蘇芳”という香炉を捜すというストーリーがあります。実はお紅と清次は本当の姉弟ではなく、清次はどうもお紅のことが好きなことが伺われるのですが、一方お紅は、“蘇芳”という香炉、ひいては“蘇芳”という名の男のことが気になっているという設定です。ラスト、その点のそれぞれの心の落ち着けどころの解決があっさりと納まるところに納まってしまった気がします。
 さてさて、こちらはシリーズ化されるのでしょうか。
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おまけのこ 新潮文庫
 しゃばけシリーズ第4弾の短編集です。表題作の「おまけのこ」ほか「こわい」「畳紙」「動く影」「ありんすこく」の5編が収録されています。
 「こわい」は“狐者異(こわい)”という妖の話。同じ妖たちからも避けられている狐者異に対して若だんなは優しい気持ちを示しますが・・・。いるんですよねえ。この狐者異と同じように他人が信じられない人間が。こんな人間はあまりにかわいそうだと思ってしまうのですが(思ってしまうのは傲慢ですか?)。
 「畳紙」は、若だんなの部屋にある屏風にすむお馴染み“屏風のぞき”が活躍する話です。屏風のぞきといえば、若だんなの部屋からは出ることができないと思っていたのですが(先頃ドラマ化されたときも、妖たちが倉で相談するのを自分は倉に行けないと怒っていたので)、この作品では自分の印籠を取り返すために、若だんなの部屋から出て行きます。日頃憎まれ口ばかり叩いている屏風のぞきの別の一面が窺われて楽しい作品となっています。前作ねこのばばの登場人物が出てくるところもしゃばけファンにはうれしい一作となっています。この作品集の中では一番好きな作品です。
 「動く影」は、若だんなと隣の菓子屋の跡取り栄吉が仲良くなるきっかけとなった、若だんな幼き頃の話を描きます。
 「ありんすこく」は、あの病弱で女遊びなど知らないはずの若だんなが、吉原の女の子と一緒に逃げるというのだからビックリ仰天です。でも、そんな若だんなの思いとは別に、人間のどうしようもない気持ちが見え隠れする、ちょっと悲しい話です。
 表題作の「おまけのこ」は、長崎屋に持ち込まれた真珠をお月様と思い込んだ“鳴家”が盗まれそうになったお月様を守ろうと活躍する話です。
 「おまけのこ」にしても「畳紙」にしても、若だんなとは別に妖が活躍する話です。いよいよしゃばけの世界が広がってきたように感じられる作品です。
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ゆめつげ 角川文庫
 大人気のしゃばけシリーズとは別の、やはり江戸時代を舞台にした作品です。物語の主人公は小さな神社の神官を勤めるおっとりした兄・弓月としっかりものの弟・信行。“夢告”という夢で過去や未来のことが見えるという特殊な才能を持つ弓月は家柄正しい白加巳神社の権宮司・佐伯彰彦の依頼で札差の行方不明となっている子どもの行方を“夢告”で占うこととなるが、白加巳神社に行く途中で辻斬りに襲われる。
 3人の子どもの中から行方不明の子どもは誰か占ったり、神社を封鎖している浪人者たちは何者なのか、彼らは何をしようとしているのかなど考えたりと、時代ミステリといった雰囲気の作品です。
 頼りない兄としっかりしている弟という二人のキャラクターが愉快です。普通は兄はしっかりしているものなのですが、ここでは反対。どうも、近藤さんの作品にはこうした頼りなげなキャラクターは欠かせないようです。ぜひ“しゃばけ”だけでなく、この兄弟のキャラもシリーズ化してほしいところです。
 舞台が江戸も末期のことなので、その時代背景もこの話の重要な要素となっており、楽しめます。昔は神仏混合だったのですね。
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