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春口裕子の本棚

  1. 悪母
  2. 行方

悪母  実業之日本社 
 物語は幼い娘を抱える岸谷奈江を主人公に、彼女の身の回りで起きる事件を9年にわたって描いていく6話からなる連作短編集です。
 奈江たちママ友が子どもを入園させるために見学に行った幼稚園に匿名メールが届く。奈江たちママ友のいじめによって、家族が崩壊したというメールだった。(「招かれざる客])
 奈江の娘・真央が通う幼稚園で飼育していたウサギが死亡し、餌の中に毒のある植物が混ざっていたという噂が広まる。いったい誰が毒の餌を与えたのか。(「毒の葉」)
 真央の有名小学校入学のためにお金と時間をかけ、どうにか補欠合格はした学校に奈江は届けものをするなどして働きかけるが、そこには思わぬ結果が。(「一緒がいい」)
 公立小学校に人学した真央にようやく友達ができたが、その親は家の前の道路を広場代わりにして子どもたちを遊ばせており、近所の迷惑をまったく顧みない。(「難転」)
 真央のところに遊びに来てなかなか帰ろうとしない有梨栖。彼女も彼女の姉もキッズモデルで母親は彼女たちを芸能人にするのに夢中で、学校の行事に対してもいろいろ口を出してくる。(「うちの子が主役」)
 奈江はママ友から、奈江になりすましたツイッターの存在を聞かされる。奈江たちの生活をつぶやくツイッターに悪意を感じるが、いったい誰が。(「トモダチ契約」)
 子どもを持った母親たちのつき合いって、こんなに大変なのか?と思ってしまったのがこの本を読んだ正直な感想です。子どもの世話を妻に任せて仕事に行ってしまう父親にはわからないと言われてしまえばそれまでですが、ママ友って、そうまでして作らないといけないの?と思ってしまいます。
 だからこそ、読んでいて主人公の奈江にはイライラさせられます。ママ友と同じ幼稚園に通う必要があるの?通園に大変だからと嫌なら嫌ではっきり断ればいいだろうにと言いたくなります。常に誰かに頼らなければ生活していけないという感じで、読んでいて奈江に共感することはできませんでした。ラストの第6話で、彼女を周りがどう見ていたかということが明らかになりますが、どちらかというと僕自身もそう感じてしまいます。
 もちろん、奈江以外の登場する母親たちもちょっと、いや、かなりおかしいです。自分や子どものためなら人の迷惑を顧みないだけでなく、犯罪ともいえることもしてしまうというのですから、いやぁ~怖ろしい。
 ラストで連作短編集らしい驚くべき事実が明らかになりますが、本当に読了感が最悪な母親たちの物語でした。 
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行方  双葉社 
 (ちょっとネタバレあり)
 スーパーでパート勤めをする山口妙子は、ある日、交代のパートの遅刻したため、娘の琴美を幼稚園に迎えに行くのが遅れてしまう。慌てて幼稚園に行くと、同じ組の星野恋文が琴美と遊びたい泣いたため、母親の朱里が公園で遊ばせるために一緒に連れ帰ったと言われ
る。妙子はすぐに公園に向かったが琴美の姿は見えず、やがて現れた朱里は、目を離した隙に恋文が言うには琴美は雑木林の中に入っていって姿が見えなくなったと言う。その後の警察の捜索にもかかわらず、琴美は片方の靴と髪留めを残して忽然と姿を消してしまう・・・。
 冒頭は妙子を強い口調で責める義母、妙子からの保育の延長依頼は断ったと責任逃れする幼稚園、琴美を連れ帰ったのは、琴美が自分の娘と遊びたいと泣いたからだという星野朱里、更には遅刻をしたことを隠蔽するだけでなく、妙子が時間どおり帰ったと嘘をつくパート仲間など、被害者でありながら逆に攻められ辛い立場に立つ妙子が描かれます。
 場面が変わっていっきに時が過ぎた2015年に舞台が移り、そこではペンション経営をする父・井上誠治と娘・楓、一方、事件から22年が過ぎながらも、妹である琴美の安否を気に懸ける警察官になった兄の遼太郎、更には、成長して幸子に名前を変えた恋文が登場します。
 まったく事件に関係ないと思われる誠治と楓が描かれることで、特に異常なまでに楓の行動を縛る誠治の姿を見ていると、事件との関係、そしてストーリーの展開がだいたい想像できます。そうなると、あとは謎解きよりも事件に関わった人々の気持ちをどう描いていく
かに重点が移ると思うのですが、犯人の動機もこの設定の話ではありふれたものでしたし、残念ながら既存の作品とは異なる、あるいは既存作品を超えるストーリーとしての目新しさはなかった気がします。娘のことをいつまでも思う家族の気持ちは感動的ではありますが(ラストで描かれる琴美の父の姿には涙を禁じ得ません)、でも、よくあるパターンの話で、某有名作家の作品が頭に浮かんできてしまいました。
 できれば、もう一人の主人公というべき幸子(恋文)が事件解決後どうなるのかは、手紙によってうかがい知るだけではなく、もう少し描いて欲しかったなと思います。
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