おきざりにした悲しみは | 岩波書店 |
長坂誠は65歳の物流倉庫で働くフォークリフトの運転手。住んでいるアパートは築40年と古く、6室のうち入居しているのは彼とシングルマザーらしい女性と子どもの家族の2部屋だけ。ある日、長坂は電気も水道も止められた部屋で子どもたちが二人で過ごしていることに気づく。母親は20日前に出かけたまま帰宅しないという。二人を部屋に呼び寄せ一緒に暮らし始めることで仕事に行って寝に帰るだけの長坂の生活が一変する。やがて、長坂は姉の真子の歌のうまさと自閉症である弟の圭が一度見たり聞いたりしたことは忘れず、また習字が抜群に達筆なのを知る。やがて、長坂が児童を監禁しているという大家からの通報で警察に逮捕されたが、事実誤認で釈放される。そのときの騒ぎがSNSで拡散され、そこに映っていた圭が書いた王義之の書が中国人の目に留まる・・・。 何となく人生を生きてきた男が、二人の子どもと過ごすことによって、 65歳となっても人生を生きる価値を見出していくストーリーです。ラストは圭の能力によって夢物語のような結果となりますが、それもよしとしましょう。 題名は長坂が姉弟にギターを弾いて歌って聞かせた吉田拓郎さんの「おきざりにした悲しみは」から取られています。小説内ではそのほか泉谷しげるさんの「春夏秋冬」、忌野清志郎さんの「スローバラード」などが登場し、これは私たちの年代にとってはたまりません。思わずバックに吉田拓郎さんの歌を流しながら本を読み進みました。 |
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