ムーンリバーズを忘れない ☆ | 角川春樹事務所 |
家具メーカーに勤務する森山健吾は、20年前に子どもを死産で失って以来、妻との二人暮らし。地元の少年サッカーチーム「月見野SC」でボランティアのコーチをしているが、限界を感じて今年で辞めたいと申し入れを行っていた。勤務先の家具メーカーも経営不振で、希望退職者を募る状況にあり、公私とも曲がり角に立たされていた。そんなある目、健吾はたまたま出会った青年・翔太がサッカーをするのを知り、彼にクラブのコーチになってくれるよう依頼する。 物語はスポーツ小説の定番といえば定番の“弱小チームが困難を乗り越えて強豪チームに立ち向かっていく”という話ですが、わかっていながらも読んでいて楽しい小説です。 強いチームに選手が流れ、弱体化するクラブで、子どもたちが自分で考えて行動するようになっていく様子は感動です。技術の劣る補欠の男の子たちがやがてチームの中で輝く姿には拍手を送りたくなります。 そんな子どもたちとは別に自分たちのエゴで動く大人もいて、それが現実だとはわかっていながらも、どこか割り切れません。なので、ラストでチームの今後がああいう展開ヘとなったことに拍手喝采です。健吾の仕事も落としどころがああいう結果になるのは予想がついてしまいましたが、まあ、そんなにうまくいくかなあという批判は横に置いておいて、素直に爽快感に浸りましょう。オススメです。 |
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あの人が同窓会に来ない理由 | 幻冬舎 |
藤本宏樹はたまたま出席した中学校の同窓会で、次回の同窓会の幹事補佐に選ばれてしまう。今回の同窓会で宏樹のクラスは出席率が学年クラスの中で最下位で、女性の幹事となった斉藤直美から出席率を上げるよう尻を叩かれる。同窓会代行業者の担当者である沢村あゆみの協力も得て、開催準備を始めるが、過去の同窓会になぜか当時のクラスの中心人物たちが出席していないことに気付く。なぜ、彼らは同窓会に出席しないのか・・・。 同窓会の出席率を上げるために、クラスで人気者だった者を出席させようと考えるが、なぜか彼らは最近の同窓会に出席していない。普通、人気者だった者は積極的にクラス会に出てくるだろうに、何かあったのかという、ミステリー的な要素も含みながら物語は進んでいきます。 同窓会って皆さん、そんなに開催しているものでしょうか。また、そんなに出席するものでしょうか。自分自身を振り返ってみると、大学生の頃どうしたきっかけかはすっかり忘れてしまいましたが、小学6年生のときのクラス会を開催することになり、幹事役をしたことがあります。やっぱり人を集めるのに苦労したなあという思いが強く残っています。それ以外、同窓会に出席したのは1度だけ。それも積極的ではなく、友人から誘われて何となく出席したというもの。卒業から何年も過ぎれば、それぞれの同級生にそれぞれの人生があるでしょう。たとえ当時クラスで人気者であったとしても、この物語の登場人物のように、人生を送る中で今更同窓会など敢えて出席したくないと思うようになることもあるでしょう。面倒だと思うことも僕からすれば普通の考えだと思います。 物語の中で語られているところによると、同窓会に来る理由は、会いたい人がいるからという理由が一番大きいようですが、今更好きだった女の子の変わってしまった姿など見たくないですしね。まあ、こちらも大きく変わっているので他人のことは言えませんけど。 でも、地元の新聞には毎週1回、同窓会を開催した写真を掲載するコーナーもあり、毎回多くの同窓会の写真が掲載されています。年齢を重ねるにしたがって同窓会開催という声が上がってくるようです。 それにしても、沢村あゆみのような同窓会代行業という業者がいるのにはびっくりです。 |
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やがて訪れる春のために ☆ | 新潮社 |
真芽の夢はカフェを開くこと。女子大の家政学部を卒業後、洋菓子メーカーに入り、希望しない総務部に配属されたものの、大学時代の友人とその彼氏、入社同期の小宮と4人で週末にはカフェ巡りをしながら夢の実現に向かって進んでいた。しかし、真芽自身は交際していると思っていた小宮と友人がデートをしている現場を目撃し、更に小宮から自分は付き合っているつもりはないと言われたことから、ショックを受け会社を辞めてしまう。そんな時、1人暮らしをしていた祖母が足を骨折し入院したため、真芽が幼い頃住んでいた祖母の家の様子を見に行くと、当時綺麗に手入れされていたはずの庭は見る影もなく荒れ果てていた。真芽は、祖母が家に戻ったときのために、庭の手入れを始めるが、祖母が認知症を患っていることがわかり、退院後は施設へ入所、家は売却するという話が父と叔母の間で進んでいく・・・。 祖母の家の庭の手入れをする中で、小学校の同級生だったナスビーと遠藤くんと再会し、二人の協力を得るようになり、また、最初は避けていた隣人の老人とも交流が始まり、更には、かわいい訪問者とも出会うなど真芽は多くの人と関わっていくようになり、それとともに、祖母の庭が次第に再生していきます。そして、それは真芽自身の気持ちが再生していくことにもつながっていきます。 最初の人間関係の行き違いを除けば、登場人物は皆いい人ばかりで、読んでいても気持ちよく頁を繰ることができます。ただ、認知症のために家の中も荒れているのに、かつて真芽たちが使用していた部屋だけが真芽たち家族が出て行った時のまま、家族が戻ってくるのを待っているかのように残されていたというのは、ちょっと悲しいですね。 また、祖母のハルが娘に言う「忘れることがそんなに悪いこと。」「忘れたくて忘れるわけじゃないのよ。私のことを勝手に決めないでほしい。ふつうにしてほしいだけなの。」というハルの言葉は心に突き刺さります。自分が認知症になったらと、考えてしまいますよね。 題名の「やがて訪れる春のために」の「春」は、季節の「春」に祖母の名前の「ハル」をかけたものでしょう。ハッピーエンドに温かい気持ちでページを閉じることができました。 |
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