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原田ひ香の本棚

  1. 失踪.com
  2. 東京ロンダリング
  3. ラジオ・ガガガ
  4. ランチ酒
  5. 三千円の使いかた
  6. おっぱいマンション改修争議
  7. ランチ酒おかわり日和
  8. まずはこれ食べて
  9. 口福のレシピ
  10. 一橋桐子の犯罪日記

失踪.com  集英社 
 自殺や事件、あるいは孤独死などで人が死んだ賃貸物件は“事故物件”と呼ばれ、次の契約希望者にはその旨の告知義務があり、そうなると“事故物件”に住みたいと思う人もまれなので、当然賃貸料を安くして入居者を探すことになります。しかし“事故物件”に一度誰かが住めば、その次の借り手には“事故物件”だということを告知せずにすむということで、1ケ月間“事故物件”に誰かを住まわせ、“事故物件”を“ロンダリング”するということが密かに行われるというのが、この物語の設定です。でも、嘘のような話ですが、作者の原田さんに言わせると、実際に“ロンダリング”は行われているそうですね。
 物語は、様々な事情によって“事故物件”に住むことになる男女、“ロンダリング”をする相場不動産の相場社長や事務員のまあちゃん、そして失踪者を捜す仕事をする仙道啓太が登場し、彼らの人生が語られていきます。
 そんな男女の人生模様を描く物語と思いきや、これだけでは終わらず、実はひとひねりがあります。様々なところに張り巡らされた伏線がラストに向かって回収されていき、“口ンダリング”を邪魔する何者かの影が浮かび上がってくるというストーリー展開になっていきます。
 ただ、ミステリ的な展開はあまり大きく広がらずに、「え!これで終わってしまうの!?」という感じのラストにちょっと消化不良気味です。
 なお、「東京ロンダリング」という前作があるそうですが、そちらは未読。「昔の仕事」に登場する内田りさと亮太の関係については前作を読んでいないとわからない部分がありますが、それほど問題はありません。 
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東京ロンダリング  集英社文庫 
 カルチャーセンターの「アンティーク講座」で知り合った男と不倫関係になった内田りさ子は、それを夫に知られて離婚され、家を追い出される。アパートを借りるために駅前の不動産屋を訪ねるが、金もなく保証人もいないりさ子が借りることができる物件がなく、気落ちしながらどうにか商店街の奥にある相沢不動産のドアを開ける。 りさ子を見た店員のまあちゃんは社長の相沢を呼び、相沢はりさ子に事故物件のロンダリングの仕事を紹介する・・・。
 読む順番が逆になりましたが、先に読んだ「失踪.com 東京ロンダリング」の前の作品です。「失踪.com 東京ロンダリング」にも登場していた内田りさ子が主人公となって、彼女がなぜロンダリングを始めたのかを描いていきます。
 人が自殺したり、殺人事件があったり、あるいは孤独死があったりした部屋には、いくらクリーニングされているとはいえ、住みたくないというのが心情です。そんな部屋にロンダリングで住むことができる人は、人との関わり合いを持ちたくない、あるいは喜怒哀楽の感情がなくなってしまった人としか思えません。現に主人公・りさ子がそんな人でした。
 でも、そんなりさ子に対しても関わろうとする人が出てきて、彼らとの関わり合いによってりさ子も次第に変わっていきます。生きる気力を取り戻したときにはロンダリングなんてできないのではないでしょうか(この後のことは、「失踪.com 東京ロンダリング」の中の「昔の仕事」で語られます。)。
 りさ子がロンダリングを始めることになった背景に、「実は・・・」というストーリーもあって、なかなか読ませました。でも、順番どおりこちらを先に読んでから「失踪.com 東京ロンダリング」を読んだ方がいいですね。  
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ラジオ・ガガガ 双葉社 
 受験生生活に明け暮れていた高校生の頃、ラジオの深夜放送を夢中で聞いていました。あの頃、深夜放送といえば、TBSラジオの「セイ!ヤング」とニッポン放送の「オールナイトニッポン」でした。地元のラジオ局では放送していなかったので、東京から届く電波をどうにか拾って、ザーザーという雑音が入る中を少しでも聞こえるようにとチューニングをしたものでした。僕が好きだったのは、まだ大きなヒット曲のなかったアリスの谷村新司さんとばんばひろふみさんがパーソナリティーを務める「セイ!ヤング」。ふたりの「天才・秀才・バカ」のコーナーのときは耳にラジオを近づけて、大笑いしていました。受験生には毒でしたね。
 そんな深夜放送に思い出があったので、この本の「人生で大切なことは、すべて深夜のラジオが教えてくれた-」という内容説明に深夜放送を聞いた人たちを主人公にした連作短編集かと思って期待して読んだのですが、ちょっと期待とは違っていました。確かに深夜放送を聞く人の話もあったのですが、それだけでなく、ラジオドラマを聞く人や“こども電話相談室”を聞く人を主人公に書かれているものもあったし、そもそも聞く人ではなく、ラジオドラマを書く人の話もありました。
 そんなちょっと期待外れの内容だったので、あまり楽しむことはできなかったのですが、収録された6編とも、主人公が前を向いて
終わるラストにほっとします。
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ランチ酒  ☆   祥伝社 
 大森祥子は同級生の亀山が営む「中野お助け本舗」で働く30代の女性。祥子の仕事は、営業時間は夜から朝までという中で、依頼が入ると、人やペットなど、頼まれたものを寝ずの番で見守ること。この作品は、そんな祥子が仕事が終わった後のランチで食べる料理と酒が語られる全16品が収録された連作短編集です。
 物語は、見守りの仕事を終えた祥子が入った店で食べる料理と酒の話とともに、その日に祥子が見守った人のことが語られます。また、一話一話は短いですが、その中で、祥子の人生も語られていきます。やがて、読者は、祥子がいわゆる“できちゃった婚”で結婚し、一人娘をもうけたが、同居する義母とうまくいかず、夫との間もすきま風が吹くようになり、娘を夫のもとに置いて離婚をしたことを知ります。
 娘のためを思って、娘を元夫の元においてきた祥子が、いつかは娘と暮らしたいと思う気持ちが切ないです。ついつい進んでしまう祥子のお酒に、「もうこれくらいにしておいた方がいいのでは」と声をかけたくなります。ラストはあっけなく締めくくられましたが、この後の祥子の姿をまだ見てみたいという気がします。
 原田さんが描く料理と酒の描写が見事で、読んでいて頭の中にテーブルに(あるいはカウンターに)置かれた料理と酒が浮かんできます。どれも美味しそうで、食べたくなってしまいますが、描かれている店は実在するのでしょうか、ちょっと気になります。 
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三千円の使いかた  中央公論新社 
 6話からなる連作短編集です。冒頭、「人は三千円の使い方で、人生が決まるよ」という祖母の言葉で幕を開ける御厨家三世代の女性たちが直面する“お金”の問題が描かれていきます。
 犬を飼うことができる一軒家が欲しいと貯金に目覚める24歳の美帆。減る一方の夫の遺産や少ない年金に不安を覚え、働いてお金を稼ごうとする70歳の美帆の祖母、琴子。消防士との妻として倹約に努めながら、インターネットでプチ稼ぎをしている美帆の姉である29歳の真帆。55歳になり親友の熟年離婚から自分の夫婦関係を振り返る美帆、真帆の母親の智子。御厨家三世代の女性たちが、お金の使い方や貯め方等を通して自分の人生を振り返っていきます。
 後半2話は御厨家の女性たちの周囲にいる男性たちに関わる話が語られます。30歳を過ぎてもフリーター生活で、交際している女性の、結婚して子どもが欲しいという望みにも及び腰の小森安生。この話だけ“お金”の問題とはちょっと違います。
 ラストの1話は、親が本人の知らない間に借りた500万円の奨学金の返済を抱える美帆が結婚を考える翔平に対し、御厨一家の対応が語られます。この作品では美帆のために真帆、智子、琴子だけでなく、今まで女性たちの話には深入りしなかった父の和彦も尽力します。お金は貯めるだけでなく、使うことで活かすことができることを原田さんは描いていきます。家族の温かさを感じることができる話です。
 琴子のキャラが魅力的です。口うるさくないものの、きちっと言いたいことは言うし、とにかく70歳を過ぎて働こうとする意欲が凄いです。 
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おっぱいマンション改修争議  新潮社 
 天才と謳われた建築家・亡小宮山悟郎が設計した「赤坂ニューテラスメタボマンション」。角の取れたさいころ状の「細胞」を積み上げたようなデザインで細胞の核のように円い窓が建設当時流行ったメタボリズムを象徴する建物。しかも最上階だけは二つの「細胞」たちが円錐形で横に並んで前方に突き出ていることから、まるで女性のバストのようだと「おっぱいマンション」と呼ばれていた。そんな「おっぱいマンション」は建設当時は立地もよく、小宮山のデザインということで人気を集めていたが、建築から45年が経ち、デザインを優先したため、樋がないことから、雨漏りがして湿気で壁がカビだらけになったり、床が傾斜したりと、様々な欠陥が現れてきていた。そんなわけで「おっぱいマンション」に建て替え問題が持ち上がる・・・。
 マンションは区分所有権ですから、建て替えといっても管理組合で話し合わなければなりません。住民にも色々な考えがあり、そうそう簡単に結論は出ないのが現実でしょう。この“おっぱいマンション”には、有名建築家の設計だから入居したという思い入れのある人や文化的価値もあるということで、住民以外の外野もうるさい中での建て替え騒動が5人の人物に焦点を当てて描かれていきます。
 小宮山の娘のみどりは、自分が生きていく中で、常に小宮山悟郎の娘ということがついて回ることを苦々しく思い、父から距離をとっており、父の思い出となる最上階の部屋の権利も放棄し、建て替えに賛成します。建て
 替え運動の先鋒に立つことになった元教師で学生運動家だった市瀬は、若い頃小宮山に憧れ、大学で彼の講義も取り、秘書代わりも務めたのに小宮山のゼミに入ることができず、建築家への夢を諦めたという過去があり、今でも学生時代に相手にされなかったことにこだわりを持ち、小宮山の娘のみどりに対して自分の存在を誇示しようとします。
 小宮山の右腕であり、現在は小宮山デザイン事務所の社長である岸田恭三の妻・香子は、常に小宮山やその娘のみどりの意向を何よりも優先する夫への不満を持ち、特にみどりに対する女性としてのやきもちに近い気持ちを拭うことができないでいます。そんな香子は、やがて建て替えのことでしつこく事務所を訪ねてくる市瀬と似た思いを抱えている自分に気づきます。
 おっぱいマンションに40年住む元女優の宗子は、当初は建て替え後の新しい部屋に入居できると思って建て替えに賛成していたが、周囲には隠しているある事情が表に出てきて思惑に暗雲が垂れ込めてきます。
 そして、岸田恭三は小宮山を尊敬するがため、このマンションに隠されたある事実が建て替えにより明らかになることを恐れ、あることを謀ります。
 それぞれの思惑がある中で、果たして建て替えは行われるのか否か、ラストはちょっと「え~結局そうなの!」ということになってしまったのは中途半端な気がします。 
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ランチ酒おかわり日和  ☆   祥伝社 
 「ランチ酒」第2弾です。10編が収録された連作短編集です。
 犬森祥子はバツイチ、アラサーの女性。彼女は幼馴染の亀井が経営する「見守り屋」で働いている。「見守り屋」とは、依頼に応じて夜から朝にかけてひたすら人や物を見守る仕事。そんな祥子の楽しみは仕事が終わった後、ランチをしながら酒を飲むこと。今回も、表参道の焼き鳥丼から始まって秋葉原の角煮丼、日暮里のスパゲッティーグラタンなど美味しそうな料理がお酒とともに祥子の心を癒します。
 東京に住んでいない僕にはわからないのですが、祥子が入る店は原田さんの創作ではなく、どれも実在のお店のようですね。前作でもそうでしたが、原田さんの描く料理の描写が素晴らしく、読んでいるだけで、「うまそうだなあ、これは食べてみたいなあ」と思わされてしまうほどです。
 祥子が見守るのは、朝6時に病院に行く老婆、社長の大学時代の友人の傲慢な男、癌で入院している自分に代わって美味しいものを食べてその話をして欲しいという作家、SNSで中傷されてからエゴサーチをして夜もスマホを離さない娘、自分を縛ってくれという買物依存症の男等々様々な人々。
 見守られる人には色々心に抱えたものがありますが、祥子自身も別れた夫のところにいる娘が気にかかってしょうがない。「見守り屋」として、そんな訳ありの人との関わりが祥子自身の思いも変えていきます。
 その中で、見守り屋の仕事としては異質な亀井の父親の事務所から依頼された物を届ける仕事をしたときに出会う角谷とは、何だかいい雰囲気になりそうでしたが、思わぬ展開に。更には、祥子に告白する男まで現れて、祥子の気持ちは穏やかでありません。ラストは結局どう理解していいのか、この続編はあるのか、気になります。 
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まずはこれ食べて  ☆  双葉社
 大学時代の友人たちが集まって起業した医療系IT企業の「グランマ」。社員は社長の田中、営業担当の伊丹、IT開発担当の桃田、総務担当の池内胡雪、そしてアルバイトたち。更に会社立ち上げ当初は在席したが、現在行方不明となっている柿枝がいた。そんな「グランマ」に田中の提案で家政婦の筧みのりがやってくる。最初は筧に反発していた胡雪をはじめ社員たちは筧との関わりを通して、自分自身を見つめ直していくことになるが・・・。
 6話とエピローグからなる物語は、それぞれ胡雪、アルバイトのマイカ、伊丹、桃田、筧、そして田中と主人公を替えながら語られていきます。途中までは、筧の料理をきっかけにそれぞれの社員が人生を見つめ直していくストーリーかと思いながら読んでいました。確かに、それぞれが筧と関わることにより、彼らが心の中で考え感じていたことが表面に出てきます。そうなると、やっぱり気になるのが、この家政婦の筧。年下の男と寄り添って歩いていたところを見た社員がいて、彼女の正体は何者?という話になってきます。それに加えて、行方不明になっている柿枝のことが社員に重くのしかかっていて、それがやがてミステリ的な展開へと繋がっていきます。美味しい料理で心暖かくなると思っていたストーリーが思わぬ方向へと向かったのにはびっくりです。 
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口福のレシピ  小学館 
 物語は現在と、昭和が始まったばかりの頃を舞台に語られていきます。
 現在のパートの主人公は全国的にも有名な料理学校の跡取り娘の品川留希子。留希子は大学卒業後、学校経営を継がせようとする母親に反発し、学校の経営には携わらず一般企業にSEとして就職し、今ではそこを退職してフリーのSEをしている。とはいっても、そこは料理学校の跡取り娘。料理をすることは大好きで、ブログに自分の作った料理のレシピを上げ、雑誌社からもちょっとした原稿を求められるようになっている。
 一方、過去のパートの主人公は品川料理教習所に女中奉公に来た山田しずえ。そんな彼女があるときから時々ご主人から料理を作るよう命じられるようになる。
  「ランチ酒」や「まずはこれを食べて」で物語の中で料理を描いている原田さんが、今回も料理が登場する作品を書かれました。内容は、現代のパートでの祖母・母連合軍と娘との確執と和解です。そこに祖母たちが娘の婿にと考えている男が加わります。過去のパートは、それで現代へと繋がる家族の関係がわかるのですが、ただそれだけだったという感じがします。
 料理好きの人は登場してくる様々なレシピになるほどと頷くかもしれませんが、料理を作るということに興味がない身としては、レシピが出てきても料理の姿や味を想像できないのが、こうした作品を読む際にもったいないところですね。 
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一橋桐子の犯罪日記  徳間書店 
 一橋桐子は76歳。結婚経験はなく、3年前から同居していた高校の同級生だったトモが病気で亡くなってからは一人、清掃員のパートで細々と暮らす毎日。トモと二人で住んでいた貸家は一人の収入では家賃が支払えず、出ていかざるを得なくなり、将来が不安に思う桐子の目に刑務所に収容されている高齢の受刑者が刑務所内で介護されている様子が入ってくる。桐子は余生を刑務所内で過ごそうと「長く刑務所に入っていられる犯罪」を考え始める・・・。
 ここに描かれる桐子の話は、よくテレビでも報道される問題です。万引犯のうちかなりの割合を占めるのが高齢者であったり、刑務所を出た高齢者が再び罪を犯して刑務所に舞い戻ったりするのは実際によく聞く話ですよね。若い人にとっては、この桐子の話は身近には考えることはできないでしょうが、僕らの年代になると、他人事とは思えません。この先、もし妻に先立たれて一人になったらどうやって生活しようかとか、先細りしてくる年金で生活できなくなったらどうやって収入を得ようかとか、ふと思うことも増えてきました。
 この物語の主人公、桐子の場合は、桐子の人柄も多分に影響していると思いますが、一度はどん底に突き落とされたにもかかわらず、周囲の人々の好意でハッピーエンド(といっていいでしょうね)になるので、僕らにとっては現実に直面しなくてよかったですけど。老人が犯罪を考えるといっても、そこにはちょっとしたユーモアもあり、読んでいる分には面白かったのですが、これはやっぱり現実とはまったく異なるおとぎ話ですよね。 
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