失踪.com | 集英社 |
自殺や事件、あるいは孤独死などで人が死んだ賃貸物件は“事故物件”と呼ばれ、次の契約希望者にはその旨の告知義務があり、そうなると“事故物件”に住みたいと思う人もまれなので、当然賃貸料を安くして入居者を探すことになります。しかし“事故物件”に一度誰かが住めば、その次の借り手には“事故物件”だということを告知せずにすむということで、1ケ月間“事故物件”に誰かを住まわせ、“事故物件”を“ロンダリング”するということが密かに行われるというのが、この物語の設定です。でも、嘘のような話ですが、作者の原田さんに言わせると、実際に“ロンダリング”は行われているそうですね。 物語は、様々な事情によって“事故物件”に住むことになる男女、“ロンダリング”をする相場不動産の相場社長や事務員のまあちゃん、そして失踪者を捜す仕事をする仙道啓太が登場し、彼らの人生が語られていきます。 そんな男女の人生模様を描く物語と思いきや、これだけでは終わらず、実はひとひねりがあります。様々なところに張り巡らされた伏線がラストに向かって回収されていき、“口ンダリング”を邪魔する何者かの影が浮かび上がってくるというストーリー展開になっていきます。 ただ、ミステリ的な展開はあまり大きく広がらずに、「え!これで終わってしまうの!?」という感じのラストにちょっと消化不良気味です。 なお、「東京ロンダリング」という前作があるそうですが、そちらは未読。「昔の仕事」に登場する内田りさと亮太の関係については前作を読んでいないとわからない部分がありますが、それほど問題はありません。 |
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東京ロンダリング | 集英社文庫 |
カルチャーセンターの「アンティーク講座」で知り合った男と不倫関係になった内田りさ子は、それを夫に知られて離婚され、家を追い出される。アパートを借りるために駅前の不動産屋を訪ねるが、金もなく保証人もいないりさ子が借りることができる物件がなく、気落ちしながらどうにか商店街の奥にある相沢不動産のドアを開ける。 りさ子を見た店員のまあちゃんは社長の相沢を呼び、相沢はりさ子に事故物件のロンダリングの仕事を紹介する・・・。
読む順番が逆になりましたが、先に読んだ「失踪.com 東京ロンダリング」の前の作品です。「失踪.com 東京ロンダリング」にも登場していた内田りさ子が主人公となって、彼女がなぜロンダリングを始めたのかを描いていきます。 人が自殺したり、殺人事件があったり、あるいは孤独死があったりした部屋には、いくらクリーニングされているとはいえ、住みたくないというのが心情です。そんな部屋にロンダリングで住むことができる人は、人との関わり合いを持ちたくない、あるいは喜怒哀楽の感情がなくなってしまった人としか思えません。現に主人公・りさ子がそんな人でした。 でも、そんなりさ子に対しても関わろうとする人が出てきて、彼らとの関わり合いによってりさ子も次第に変わっていきます。生きる気力を取り戻したときにはロンダリングなんてできないのではないでしょうか(この後のことは、「失踪.com 東京ロンダリング」の中の「昔の仕事」で語られます。)。 りさ子がロンダリングを始めることになった背景に、「実は・・・」というストーリーもあって、なかなか読ませました。でも、順番どおりこちらを先に読んでから「失踪.com 東京ロンダリング」を読んだ方がいいですね。 |
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ラジオ・ガガガ | 双葉社 |
受験生生活に明け暮れていた高校生の頃、ラジオの深夜放送を夢中で聞いていました。あの頃、深夜放送といえば、TBSラジオの「セイ!ヤング」とニッポン放送の「オールナイトニッポン」でした。地元のラジオ局では放送していなかったので、東京から届く電波をどうにか拾って、ザーザーという雑音が入る中を少しでも聞こえるようにとチューニングをしたものでした。僕が好きだったのは、まだ大きなヒット曲のなかったアリスの谷村新司さんとばんばひろふみさんがパーソナリティーを務める「セイ!ヤング」。ふたりの「天才・秀才・バカ」のコーナーのときは耳にラジオを近づけて、大笑いしていました。受験生には毒でしたね。 そんな深夜放送に思い出があったので、この本の「人生で大切なことは、すべて深夜のラジオが教えてくれた-」という内容説明に深夜放送を聞いた人たちを主人公にした連作短編集かと思って期待して読んだのですが、ちょっと期待とは違っていました。確かに深夜放送を聞く人の話もあったのですが、それだけでなく、ラジオドラマを聞く人や“こども電話相談室”を聞く人を主人公に書かれているものもあったし、そもそも聞く人ではなく、ラジオドラマを書く人の話もありました。 そんなちょっと期待外れの内容だったので、あまり楽しむことはできなかったのですが、収録された6編とも、主人公が前を向いて 終わるラストにほっとします。 |
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ランチ酒 ☆ | 祥伝社 |
大森祥子は同級生の亀山が営む「中野お助け本舗」で働く30代の女性。祥子の仕事は、営業時間は夜から朝までという中で、依頼が入ると、人やペットなど、頼まれたものを寝ずの番で見守ること。この作品は、そんな祥子が仕事が終わった後のランチで食べる料理と酒が語られる全16品が収録された連作短編集です。 物語は、見守りの仕事を終えた祥子が入った店で食べる料理と酒の話とともに、その日に祥子が見守った人のことが語られます。また、一話一話は短いですが、その中で、祥子の人生も語られていきます。やがて、読者は、祥子がいわゆる“できちゃった婚”で結婚し、一人娘をもうけたが、同居する義母とうまくいかず、夫との間もすきま風が吹くようになり、娘を夫のもとに置いて離婚をしたことを知ります。 娘のためを思って、娘を元夫の元においてきた祥子が、いつかは娘と暮らしたいと思う気持ちが切ないです。ついつい進んでしまう祥子のお酒に、「もうこれくらいにしておいた方がいいのでは」と声をかけたくなります。ラストはあっけなく締めくくられましたが、この後の祥子の姿をまだ見てみたいという気がします。 原田さんが描く料理と酒の描写が見事で、読んでいて頭の中にテーブルに(あるいはカウンターに)置かれた料理と酒が浮かんできます。どれも美味しそうで、食べたくなってしまいますが、描かれている店は実在するのでしょうか、ちょっと気になります。 |
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三千円の使いかた | 中央公論新社 |
6話からなる連作短編集です。冒頭、「人は三千円の使い方で、人生が決まるよ」という祖母の言葉で幕を開ける御厨家三世代の女性たちが直面する“お金”の問題が描かれていきます。 犬を飼うことができる一軒家が欲しいと貯金に目覚める24歳の美帆。減る一方の夫の遺産や少ない年金に不安を覚え、働いてお金を稼ごうとする70歳の美帆の祖母、琴子。消防士との妻として倹約に努めながら、インターネットでプチ稼ぎをしている美帆の姉である29歳の真帆。55歳になり親友の熟年離婚から自分の夫婦関係を振り返る美帆、真帆の母親の智子。御厨家三世代の女性たちが、お金の使い方や貯め方等を通して自分の人生を振り返っていきます。 後半2話は御厨家の女性たちの周囲にいる男性たちに関わる話が語られます。30歳を過ぎてもフリーター生活で、交際している女性の、結婚して子どもが欲しいという望みにも及び腰の小森安生。この話だけ“お金”の問題とはちょっと違います。 ラストの1話は、親が本人の知らない間に借りた500万円の奨学金の返済を抱える美帆が結婚を考える翔平に対し、御厨一家の対応が語られます。この作品では美帆のために真帆、智子、琴子だけでなく、今まで女性たちの話には深入りしなかった父の和彦も尽力します。お金は貯めるだけでなく、使うことで活かすことができることを原田さんは描いていきます。家族の温かさを感じることができる話です。 琴子のキャラが魅力的です。口うるさくないものの、きちっと言いたいことは言うし、とにかく70歳を過ぎて働こうとする意欲が凄いです。 |
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おっぱいマンション改修争議 | 新潮社 |
天才と謳われた建築家・亡小宮山悟郎が設計した「赤坂ニューテラスメタボマンション」。角の取れたさいころ状の「細胞」を積み上げたようなデザインで細胞の核のように円い窓が建設当時流行ったメタボリズムを象徴する建物。しかも最上階だけは二つの「細胞」たちが円錐形で横に並んで前方に突き出ていることから、まるで女性のバストのようだと「おっぱいマンション」と呼ばれていた。そんな「おっぱいマンション」は建設当時は立地もよく、小宮山のデザインということで人気を集めていたが、建築から45年が経ち、デザインを優先したため、樋がないことから、雨漏りがして湿気で壁がカビだらけになったり、床が傾斜したりと、様々な欠陥が現れてきていた。そんなわけで「おっぱいマンション」に建て替え問題が持ち上がる・・・。 マンションは区分所有権ですから、建て替えといっても管理組合で話し合わなければなりません。住民にも色々な考えがあり、そうそう簡単に結論は出ないのが現実でしょう。この“おっぱいマンション”には、有名建築家の設計だから入居したという思い入れのある人や文化的価値もあるということで、住民以外の外野もうるさい中での建て替え騒動が5人の人物に焦点を当てて描かれていきます。 小宮山の娘のみどりは、自分が生きていく中で、常に小宮山悟郎の娘ということがついて回ることを苦々しく思い、父から距離をとっており、父の思い出となる最上階の部屋の権利も放棄し、建て替えに賛成します。建て 替え運動の先鋒に立つことになった元教師で学生運動家だった市瀬は、若い頃小宮山に憧れ、大学で彼の講義も取り、秘書代わりも務めたのに小宮山のゼミに入ることができず、建築家への夢を諦めたという過去があり、今でも学生時代に相手にされなかったことにこだわりを持ち、小宮山の娘のみどりに対して自分の存在を誇示しようとします。 小宮山の右腕であり、現在は小宮山デザイン事務所の社長である岸田恭三の妻・香子は、常に小宮山やその娘のみどりの意向を何よりも優先する夫への不満を持ち、特にみどりに対する女性としてのやきもちに近い気持ちを拭うことができないでいます。そんな香子は、やがて建て替えのことでしつこく事務所を訪ねてくる市瀬と似た思いを抱えている自分に気づきます。 おっぱいマンションに40年住む元女優の宗子は、当初は建て替え後の新しい部屋に入居できると思って建て替えに賛成していたが、周囲には隠しているある事情が表に出てきて思惑に暗雲が垂れ込めてきます。 そして、岸田恭三は小宮山を尊敬するがため、このマンションに隠されたある事実が建て替えにより明らかになることを恐れ、あることを謀ります。 それぞれの思惑がある中で、果たして建て替えは行われるのか否か、ラストはちょっと「え~結局そうなの!」ということになってしまったのは中途半端な気がします。 |
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ランチ酒おかわり日和 ☆ | 祥伝社 |
「ランチ酒」第2弾です。10編が収録された連作短編集です。 犬森祥子はバツイチ、アラサーの女性。彼女は幼馴染の亀井が経営する「見守り屋」で働いている。「見守り屋」とは、依頼に応じて夜から朝にかけてひたすら人や物を見守る仕事。そんな祥子の楽しみは仕事が終わった後、ランチをしながら酒を飲むこと。今回も、表参道の焼き鳥丼から始まって秋葉原の角煮丼、日暮里のスパゲッティーグラタンなど美味しそうな料理がお酒とともに祥子の心を癒します。 東京に住んでいない僕にはわからないのですが、祥子が入る店は原田さんの創作ではなく、どれも実在のお店のようですね。前作でもそうでしたが、原田さんの描く料理の描写が素晴らしく、読んでいるだけで、「うまそうだなあ、これは食べてみたいなあ」と思わされてしまうほどです。 祥子が見守るのは、朝6時に病院に行く老婆、社長の大学時代の友人の傲慢な男、癌で入院している自分に代わって美味しいものを食べてその話をして欲しいという作家、SNSで中傷されてからエゴサーチをして夜もスマホを離さない娘、自分を縛ってくれという買物依存症の男等々様々な人々。 見守られる人には色々心に抱えたものがありますが、祥子自身も別れた夫のところにいる娘が気にかかってしょうがない。「見守り屋」として、そんな訳ありの人との関わりが祥子自身の思いも変えていきます。 その中で、見守り屋の仕事としては異質な亀井の父親の事務所から依頼された物を届ける仕事をしたときに出会う角谷とは、何だかいい雰囲気になりそうでしたが、思わぬ展開に。更には、祥子に告白する男まで現れて、祥子の気持ちは穏やかでありません。ラストは結局どう理解していいのか、この続編はあるのか、気になります。 |
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まずはこれ食べて ☆ | 双葉社 |
大学時代の友人たちが集まって起業した医療系IT企業の「グランマ」。社員は社長の田中、営業担当の伊丹、IT開発担当の桃田、総務担当の池内胡雪、そしてアルバイトたち。更に会社立ち上げ当初は在席したが、現在行方不明となっている柿枝がいた。そんな「グランマ」に田中の提案で家政婦の筧みのりがやってくる。最初は筧に反発していた胡雪をはじめ社員たちは筧との関わりを通して、自分自身を見つめ直していくことになるが・・・。 6話とエピローグからなる物語は、それぞれ胡雪、アルバイトのマイカ、伊丹、桃田、筧、そして田中と主人公を替えながら語られていきます。途中までは、筧の料理をきっかけにそれぞれの社員が人生を見つめ直していくストーリーかと思いながら読んでいました。確かに、それぞれが筧と関わることにより、彼らが心の中で考え感じていたことが表面に出てきます。そうなると、やっぱり気になるのが、この家政婦の筧。年下の男と寄り添って歩いていたところを見た社員がいて、彼女の正体は何者?という話になってきます。それに加えて、行方不明になっている柿枝のことが社員に重くのしかかっていて、それがやがてミステリ的な展開へと繋がっていきます。美味しい料理で心暖かくなると思っていたストーリーが思わぬ方向へと向かったのにはびっくりです。 |
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口福のレシピ | 小学館 |
物語は現在と、昭和が始まったばかりの頃を舞台に語られていきます。 現在のパートの主人公は全国的にも有名な料理学校の跡取り娘の品川留希子。留希子は大学卒業後、学校経営を継がせようとする母親に反発し、学校の経営には携わらず一般企業にSEとして就職し、今ではそこを退職してフリーのSEをしている。とはいっても、そこは料理学校の跡取り娘。料理をすることは大好きで、ブログに自分の作った料理のレシピを上げ、雑誌社からもちょっとした原稿を求められるようになっている。 一方、過去のパートの主人公は品川料理教習所に女中奉公に来た山田しずえ。そんな彼女があるときから時々ご主人から料理を作るよう命じられるようになる。 「ランチ酒」や「まずはこれを食べて」で物語の中で料理を描いている原田さんが、今回も料理が登場する作品を書かれました。内容は、現代のパートでの祖母・母連合軍と娘との確執と和解です。そこに祖母たちが娘の婿にと考えている男が加わります。過去のパートは、それで現代へと繋がる家族の関係がわかるのですが、ただそれだけだったという感じがします。 料理好きの人は登場してくる様々なレシピになるほどと頷くかもしれませんが、料理を作るということに興味がない身としては、レシピが出てきても料理の姿や味を想像できないのが、こうした作品を読む際にもったいないところですね。 |
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一橋桐子の犯罪日記 | 徳間書店 |
一橋桐子は76歳。結婚経験はなく、3年前から同居していた高校の同級生だったトモが病気で亡くなってからは一人、清掃員のパートで細々と暮らす毎日。トモと二人で住んでいた貸家は一人の収入では家賃が支払えず、出ていかざるを得なくなり、将来が不安に思う桐子の目に刑務所に収容されている高齢の受刑者が刑務所内で介護されている様子が入ってくる。桐子は余生を刑務所内で過ごそうと「長く刑務所に入っていられる犯罪」を考え始める・・・。 ここに描かれる桐子の話は、よくテレビでも報道される問題です。万引犯のうちかなりの割合を占めるのが高齢者であったり、刑務所を出た高齢者が再び罪を犯して刑務所に舞い戻ったりするのは実際によく聞く話ですよね。若い人にとっては、この桐子の話は身近には考えることはできないでしょうが、僕らの年代になると、他人事とは思えません。この先、もし妻に先立たれて一人になったらどうやって生活しようかとか、先細りしてくる年金で生活できなくなったらどうやって収入を得ようかとか、ふと思うことも増えてきました。 この物語の主人公、桐子の場合は、桐子の人柄も多分に影響していると思いますが、一度はどん底に突き落とされたにもかかわらず、周囲の人々の好意でハッピーエンド(といっていいでしょうね)になるので、僕らにとっては現実に直面しなくてよかったですけど。老人が犯罪を考えるといっても、そこにはちょっとしたユーモアもあり、読んでいる分には面白かったのですが、これはやっぱり現実とはまったく異なるおとぎ話ですよね。 |
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ランチ酒 今日もまんぷく | 祥伝社 |
真夜中の“見守り”の仕事を終えた後の、食事をしながら酒を飲むバツイチの女性、犬森祥子を主人公とする“ランチ酒”シリーズ第3弾です。16編が収録された連作短編集です。 物語は、祥子と見守りを依頼した人とのちょっとした関わりを描きながら祥子の食事の様子を描いていきます。今回も食事は、和・洋・中華等バラエティーに富んでいます。残念ながら私自身はそんなに色々なお店に行ったことはないし、料理自体に詳しくない、というより食べるものは美味しければいいというくらいの感想しか持たないので、料理の名前が出てきても和食はともかく、洋食等はどういう食材を使ったどんな料理なのか頭の中に思い浮かべることができません。それゆえ、おいしそうという感想も言うことができないのは残念です。 物語全体として描かれるのは、前作でいい感じだったのにあっせん利得容疑で逮捕されてしまった角谷との関係。どうなることかと思ったら、今作では証拠不十分で釈放され、祥子の前に再び姿を現しました。この角谷との関係がどうなるかがシリーズファンにとっての今作の読みどころでしょう。また、元夫と住む娘との関係も微妙です。元夫の再婚相手に子どもができたことが、今後娘と祥子の関係にどう影響を与えるのでしょうか。 |
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母親からの小包はなぜこんなにダサいのか | 中央公論新社 |
6話が収録された短編集です。母親から子どもに送られる小包をテーマにしていますが、実際に“母親からの小包”が登場するのは、冒頭の「上京物語」「ママはキャリアウーマン」と最終話の「最後の小包」です。 「上京物語」がこの中で一番母親からの小包のテーマにぴったりの話です。母親の反対を押し切って東京の短大に入学したが、なかなか友達もできず生活に馴染めない娘に母親から小包が送られてきます。だいたい送られてくるモノって、送られて嬉しいモノというより、余計なモノなんですよねえ。でも、それには母親の愛情が包められているというお話です。 それ以外の、「ママはキャリアウーマン」は、女手一つで娘を育てた母親と仕事をするより家にいて家事をしていた方がいい娘が激突する話、「疑似家族」は、自堕落な母親と関係を断った女性が恋人に通販で買ったものを母親から送られてきた小包と嘘をついてしまう話、「お母さんの小包、お作りします」は不倫関係の男と別れ、実家に戻ってきた女性がメルカリやLINEで自家野菜販売をしている母親の仕事を手伝うが、問題が起きてしまう話、「北の国から」は、突然死亡した一人暮らしをしていた父親の元に毎年北海道から昆布を送っていた女性が自分の祖母ではないかと息子が訪ねる話、そして「最後の小包」は、50歳を過ぎて再婚したことに反発して疎遠になっていた母親が突然死亡したという連絡を受けて駆け付けたが、再婚相手とその家族が葬儀の手続きを進めていたことに怒る娘の話です。 私自身が地元にいなかったのは東京で大学生生活を送っていたときだけですが、私自身が母親に世話を焼かれるのが嫌だったし、母親もそれを知っていたので、この物語のような母親からの小包という経験はありません。それを経験しているのは関西に住む我が息子とお嫁さんです。コロナ禍でマスクや消毒液が足りないだろうと送ったり、ほうとうは売っていないだろうと送ったりするので、息子のお嫁さんは大変です。まあ、どこの母親も同じようなものなのでしょうね。 |
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古本食堂 | 角川春樹事務所 |
6編が収録された連作短編集です。 東京の神保町で古書店を営んでいた兄・滋郎が亡くなり、古書店をどうしようかと北海道から出てきた妹の珊瑚。結局、経験もなく古書店を引き継ぐこととするが、そこに大叔母が古書店をどうするのか様子を探って来いと滋郎の甥の妻である母に言われた大学院生の美希喜がやってきて、珊瑚を手伝うようになる・・・。 物語は古書店にやってくる客たち、お弁当の作り方の本をずっと探しているという女性、経済的に自立し早期退職してのんびり暮らすことを目指す上の階の出版社の社員、高校生の息子と何を話していいかわからないと悩む父親、「何を読んでも楽しくない」と言う小説家志望の男や出版社の社長、隣の古書店主、喫茶店の店主たちと珊瑚と美希喜との関わりが、彼女たち二人の視点で交互に描かれていきます。 各話で取り上げられている本は、小林カツ代の「お弁当づくり ハッと驚く秘訣集」、本多勝一の「極限の民族」、橋口譲二の「十七歳の地図」、「お伽草子」、鹿島茂の「馬車が買いたい!」、丸谷才一の「輝く日の宮」。「お伽草子」を除けば、どれも読んだことはおろか、題名さえ知りません。古本屋の経験もなく、これをお客に勧めるのは、ある意味凄いというか、本の知識がありすぎでしょうと思います。 それらとともに取り上げられるのが「笹巻けぬきずし」の巻きずし、「ボンディ」のビーフカレー、「ロシア亭」のピロシキ、「ブックハウスカフェ」のカレーパン、「揚子江菜館」の上海式肉焼きそば、「ランチョン」のビールなど、神保町にあるお店の絶品メニューです。「ランチ酒」の著者の原田ひ香さんらしい、古書の話だけではない美味しい食べ物の話も詰まった作品になっています。東京に住んでいないので、残念ながらこれらの店の料理は一つも食べたことがありません。知っていれば、この話はもっと楽しむことができたでしょうに。 ラストでは、珊瑚が北海道に思いを残してきた男性との関係について進展があり、そして亡くなった兄・滋郎の恋した人も明らかとなり、更に進むべき道に悩んでいた美希喜の気持ちもはっきりとして、めでたしめでたしです。この結末だと、続編があってもおかしくないですね。 |
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財布は踊る ☆ | 新潮社 |
冒頭の「財布は疑う」で主人公が買ったヴィトンの長財布が転々と持主を変えていきますが、この作品は転々と変わるその持主を主人公にしたお金にまつわる連作短編集となっています。 葉月みづほは、夫と幼い息子がいる専業主婦。彼女は夫から渡される生活費を切り詰めて貯金をし、ハワイ旅行に行って、ヴィトンの財布を買いたいという夢を持っていた。どうにか貯金もたまり、夫を説得してハワイ旅行に行き、財布も買うことができたが、旅行での支払いをきっかけに夫が学生時代からカードのリボ払いを繰り返し、借金が200万円を超えていることを知ってしまう・・・。夫は給料から生活費として一部を渡し、妻は自分の小遣いをその中からねん出すらだけでなく、切り詰めて貯金もしているのに、夫は金にルーズでは妻が腹を立てるのも無理ありません。更に夫の実家の父母の態度も許せませんよねえ。この連作集の中ではみづほのその後が語られていきますが、男性読者としても彼女の努力に拍手を送りたいです。それにしても、私自身にもクレジット会社からリボ払いのお誘いがよくきますが、こんな危険なこととは知りませんでした。手を出さなくて良かったです。 そのほか、大学に入学したが授業料が払えずに中退し、今ではマルチ商法に携わって借金で首が回らない水野文夫、マジックテープの財布について書いたツイッターが炎上したことで、風水ライターから書いた本も売れ、セミナーをするほどの人気の「お財布アドバイザー」になった善財夏実、会社勤めの傍ら、株式投資をしてある程度の金がたまっていたが、やがて投資に失敗してしまう野田裕一郎、学生時代に借りた奨学金の返済に苦しみ、返済をチャラにするという怪しげなサイトにアクセスして怖い目を見る平原麻衣子と斉田彩たちのお金にまつわる話が描かれていきます。 それぞれ、お金のことで苦労をしますが、唯一野田裕一郎を除けば、ラストではまあそれなりに未来が見えているところにホッとします。斉田彩の現状も、決して不幸とはいえないでしょうね。 |
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老人ホテル | 光文社 |
主人公の日村天使は、埼玉県の父母に子どもが3男4女の7人という大家族ファミリーとしてテレビにも取り上げられたことがある家庭に生まれた末っ子の24歳の女性。彼女は、働かずに、何かと理由をつけ生活保護を受けて暮らす父母の元で生活してきたが、16歳で高校を中退し、家を離れてからは、キャパクラ等で働きながら一人で生きてきた。ある日、かつて天使が働いていたキャパクラの客であり、キャパクラの店舗があるビルのオーナーだという老女、綾小路光子を町で見かけた天使は、彼女の後をつけ光子がホテルで暮らしていることを知る。天使は彼女に金の儲け方を教えてもらおうと、掃除婦としてホテルで働きながら光子に会う機会を探る。 物語は天使の先輩の掃除婦しか部屋に入れない光子にどうにかして話す機会を得ようと悪戦苦闘する天使の様子を、そして光子から金の貯め方のノウハウを学んでいく様子が描かれていきます。光子が教えるのは不動産投資ですが、それ以前のちょっとした節約もそれまで親や世間で学んでこなかった天使には難しいことばかり。更には同じホテルに光子と同じように長期滞在する老人に投資の修行に出されるなど、金を貯めるのは大変です。光子と彼女に教えられながら次第に成長していく天使の姿は、帯に書かれた「投資版マイフェアレディ」かもしれませんが、ラストの天使の行動はどうなのかなあと思ってしまいます。 題名に「老人ホテル」とあるように、このホテルには光子以外にも長期滞在する高齢者がいます。何だか現実にもありそうですね。彼らと天使の関わりも愉快です。 |
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図書館のお夜食 | ポプラ社 |
主人公の樋口乙葉は本に関係する仕事に就きたいと思っていたが、地元の教員採用試験に落ちたあと、出版社、取次会社、大手書店と「本に関する仕事」の就職活動をしたが、どれも落ちてしまい、仕方なく地元に戻って書店の契約社員になる。しかし、あるトラブルに巻き込まれ、辞めようかと考える乙葉の元に「夜の図書館」で働かないかというメッセージが届く・・・。 「図書館のお夜食」という題名に、「図書館で夜食ってどういうこと?」という疑問を抱えながら読み始めたのですが、物語の舞台となる「夜の図書館」は、蔵書は亡くなった作家が所有していた蔵書だけを取り揃えている閲覧だけの有料の図書館で開館時間は夜の7時から12時まで。そんな開館時間から職員の勤務時間は夕方4時から12時までということで、図書館に併設しているカフェで夕食を取ることができるというもの。そのカフェのシェフの木下がまかないを出してくれるのですが、メニューは、オーナーの要望ですべて書籍に登場する食事を再現したもの。このメニューが各話の題名となっています。 物語自体は題名の“夜食”とは直接関係はなく、図書館を訪れる利用者との間に起こるトラブルに加え、主人公の立場にある乙葉のことだけでなく、第二話では元公立図書館のアルバイトだった榎田みなみ、第三話では蔵書整理係の正子、第四話では元古本屋の渡海の思いや悩みが語られていきます。 この図書館に入れられる他人の蔵書は、本好きにとってはちょっと気になりますよね。電車の中でスマホではなく本を読んでいる人を見ると、何読んでいるだろうなあと題名を知りたくなります。 |
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喫茶おじさん | 小学館 |
(ネタバレあり) 一部上場企業に勤めていた松尾純一郎は会社の早期退職制度に応募し55歳で退職。退職金を使って夢見ていた喫茶店を開くが、経営はうまくいかず6か月で開店することとなる。その後も自分の趣味は喫茶店巡りだといって、朝から喫茶店を回っているばかりの生活。妻は娘のアパートに一緒に住むと言って出て行ってから音沙汰がない。周囲の者たちからは「何もわかっていない」と言われるが、何がわかっていないのかがわからない。娘に連絡を取れと言われて妻と会った純一郎は妻から離婚を切り出されてしまう・・・。 いくら早期退職で割増があるといっても、55歳退職で退職金が5千万円なんて、私からすると考えられないほどの高額です。それゆえ、退職金をつぎ込んだ 喫茶店がつぶれても、のんびり構えていられるのでしょうか。再就職にも全然実が入ってないですよねえ。たいした計画性もなしに喫茶店を始め、挙句の果て半年で潰してしまうなんて甘いとしか言えません。妻の亜希子が離婚を申し出るのも当然ですよね。彼女が言う「あなたはあの会社に勤めているからこその人。外の世界じゃやっていけない」という評価が的を得ています。ラスト、退職金を喫茶店につぎ込んで減らし、妻との離婚で財産を折半し、残りのお金も無くなってきているのに再び夢を追うなんて、私的には考えられないです。よほど65歳から貰う年金の額が高いのでしょうか。であれば、羨ましい老後といえますが。でも、明るいラストのようですけど、そんなにうまくいきますかねえ。 作品に登場する喫茶店の様々なメニューは、原田さんのことですから、実際にある喫茶店のメニューなんでしょう。先日読んだ近藤史恵さんの「間の悪いスフレ」のフランス料理と違って、こちらのメニューは頭に描くことができます。 |
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古本食堂 新装開店 | 角川春樹事務所 |
シリーズ第2弾。神田神保町で兄の残した古本屋を引き継いだ70代の珊瑚と彼女を手伝う大学院の国文科を卒業した珊瑚の甥の娘である20代の美希喜の歳の離れた二人を主人公に古書店「鷹島古書店」を舞台に描く6編が収録された連作短編集です。今回も各話では本と神保町界隈の実際にあるお店の食べ物が俎上に上がります。神保町界隈を探索できる人にとっては楽しい本でしょうね。 美希喜の提案で店の一角にカフェコーナーを設けることを決心した珊瑚。改修のため本棚を移動したところ壁がカビだらけになつていることがわかり、漆喰の壁を剥がしたところ、そこに「愛してる。一緒に行きたい。」と書かれた文字が残っていた。いったい、兄の滋郎は誰を思って書いたのか・・・。 中学生の頃、クラス皆のお弁当の写真が雑誌に載ったことがあり、認知症になった母に彼女が当時娘のために一生懸命作ってくれた弁当の写真を見せようと、掲載された雑誌を女性が探しに来る・・・。 「鷹島古書店」の隣でカフェを開いている美波が夜は文壇バーにしようかと考え、美希喜に相談がなされる。乗り気になった美希喜はその際には夜そこで働こうと考えるが・・・。 交際している東山が転倒して骨折したことを知り、居ても立ってもいられなくなった珊瑚は、店を美希喜に任せて北海道に帰ってしまう。残された美希喜は戸惑うが・・・。 人生の最後は生まれ故郷の北海道でと考える珊瑚。今作のラストを考えると、次作でシリーズも完結という気がします。 |
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定食屋「雑」 | 双葉社 |
三上沙也加は酒は食事をした後に、静かに飲む父を見て育つたため、食事をしながら酒を飲むことを嫌い、夫にも、夕食はきちんと食べて、その後に静かに酒を飲んでもらいたいと思っていた。しかし、夫は仕事のストレスから家に帰る途中の公園で酒を飲んでおり、公園に飲酒禁止の看板が立てられると、今度は仕事が遅くなると言いながら、実は途中の定食屋「雑」で食事をしながら洒を飲んで帰っていた。沙也加にそれを非難された夫は家を出て、更には離婚を中し出る。沙也加は「雑」にいったい何があるのか入ってみるが、働いているのは愛想のない老女1人だけで、夫が通うのは彼女目当てとも思えず、また、その味は甘くて沙也加の口には合わず、決して美味しいとは思えなかった。派遣社員の収入では家賃の支払いが厳しくなった沙也加は「雑」で店員募集の張り紙を見て、応募して採用される・・・。 物語は、夫との離婚話を抱える沙也加、「雑」の女主人である“ぞうさん"と呼ばれる雑色みさえ、そして時には常連客の一人である高津と語り手を変えながらそれぞれの思いが描かれていきます。料理にしても何にせよとても合いそうにないと思えた沙也加と“ぞうさん"がそれぞれ相手のことを尊重しながら分かり合っていくところがいいですね。やがて世界に吹き荒れるコロナの嵐の中で、果たして二人はどんな選択をしていくのか。・・。 私としては食事をしながら酒を飲みたいという夫の気持ちはわかります。それを下品だなんて思われたら、洒飲みとしては嫌ですよねえ。それも居酒屋で気の置けない同僚たちとバカ話をするのも嫌うなんて、これはたまりません。同僚や友人たちとくだらない話をしながらストレス発散したいこともあります。違うことでストレス発散しろよと言われても、飲みたいこともあるんですけどねえ。 夫の気持ちが離れているのに、離婚の話し合いをする際に、夫の好きなものを出そうと一生懸命料理する沙也加が、何だかかわいそうになってしまいます。夫の背後には女性の影もあるようですし、沙也加の決断は正しかったのではないでしょうか。 |
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