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葉室麟の本棚

  1. 蜩ノ記

蜩ノ記  ☆ 祥伝社文庫
 豊後・羽根藩の奥祐筆・檀野庄三郎は、友人である水上信吾とささいなことから城内で刃傷沙汰に及んだため、切腹を免れたものの、家老の中根兵右衛門により幽閉中の元郡奉行・戸田秋谷の監視を申し付けられる。秋谷は7年前、前藩主の側室と不義密通を犯した罪で、家譜編纂と1O年後の切腹を命じられていた。庄三郎は秋谷の元で家譜編纂の補助を行いながら秋谷の行動を監視するが、秋谷の人柄に触れ、次第にその無実を信じるようになる・・・。
 第146回直木賞受賞作です。時代小説といえば、宮部みゆきさんの作品や池波正太郎さんの鬼平犯科帳シリーズ、仕掛人梅安シリーズ、平岩弓枝さんの御宿かわせみシリーズくらいしか読んだことがないのですが、今回文庫化をきっかけに初めて葉室麟さんの作品を読みました。これはおすすめです。
 秋谷が幽閉されることとなった不義密通事件の真相はどうなのかというミステリとしての側面もあり、単なる時代小説にとどまりません。もちろん、死を持つだけの人生とはどんなものか想像もつきませんが、泰然とその日を待って、毎日を生活している秋谷の武士としての生き様には読んでいて感動します。それは決して峻烈なものではなく、日々の生活をいつもと変わらぬよう生きていくという、ある意味非常に難しいものです。
 そんな彼を見て、しだいに尊敬の念を抱き、無実を信じるようになる庄三郎の成長していく様子も読みどころです。また、秋谷を見守る妻と娘、息子の、夫であり父である秋谷を信じる気持ちには胸を打たれます。武士の家族はそんなものだと言われればそうなんでしょうが、ただ、切腹の時を待つだけに過ごす生活は辛すぎます。
 そのほか、この小説の中できらりと光っているのは、農家の息子・源吉です。農民として精一杯生きようとする彼の姿には感動させられます。
 役所広司さん、岡田准一さん、堀北真希さん出演で2014年に映画化されます。戸田秋谷役に役所広司さんは雰囲気的にピッタリという感じがします。これは映画も楽しみです。
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