スクラップ・アンド・ビルド | 文藝春秋 |
お笑い芸人ピースの又吉直樹さんの「火花」が芥川賞を受賞したことで、すっかりその影に隠れてしまいましたが、「火花」と芥川賞を同時受賞した作品です。 羽田圭介さんの作品を読むのは初めて。芥川賞作品などいわゆる純文学は最近は読む気力がないのですが、介護問題を扱った作品、それも孫と祖父との戦いだという紹介に惹かれて読んでみました。 健斗は勤めていたカーディーラーの会社を辞め、今は行政書士の資格を取るため勉強をしながら、中途採用の会社の面接を受ける日を送っていた。家は、母親とその父である87歳の祖父との3人暮らし。かつて自殺未遂を起こしたこともある祖父はいつも「死にたい」とこぼしており、その祖父に対し、母親は辛く当たる。健斗は苦痛や恐怖さえ感じない穏やかな死を祖父が迎える手伝いをしようと決意し、動けるのだから自分でやれと口汚く罵る母親とは正反対に、祖父の運動の機会を奪うべく祖父が動くことのないよう手助けする・・・。 足し算介護で祖父を早く、楽に死なせようと考える健斗のキャラが個性的です。たまには素っ気なく対応しますが健斗は決して祖父の介護がイヤだという姿を見せません。祖父を見て自分は体を鍛えなくてはと、毎日ひたすら運動を自分に課するところも愉快です。 一方、祖父自身も杖をついて歩くのも、何もするのも大変だという様子を娘や孫に見せながら、彼らがいないときに自ら好きなピザを作って食べるし、普通の人ならおぼれそうもない少ない湯が入った浴槽を怖がるなど、実は生に固執しているのではと思うところを見せます。 高齢化社会の介護問題をさらっと描いた作品です。それにしても“足し算介護”という用語は初めて聞きましたが、なるほどねえ。 |
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