お笑い芸人であり、最近は俳優としても活躍している劇団ひとりの処女作品集です。5編からなる連作集です。世の中のオチこぼれというような人たちを主人公にして、感動の話を紡いでいきます。今年1月に映画化されたせいもあって、なんと100万部突破という大ベストセラーとなりました。発売当初は、どうせ芸能人の書く本なんてゴーストライターがいるんだろうと思って、まったく見向きもしなかったのですが、映画を観に行ったら、これが意外におもしろい。原作はどうなっているんだろうと思って、ブック・オフにあったのを見つけて購入しました。
初めて書いた作品で、これだけ読ませるというのは凄いことです。でも正直のところ、脚本家の方が一枚上手。まあ元があってそれを手直しする脚本家の方が楽なのかもしれませんが、映画の話の方が、映像化にあわせて、原作以上に登場人物の繋がりを増やしてストーリーにふくらみを持たせていましたね。
映画で主人公を岡田准一が演じた“Over run”にしても、この連作集の中では一番感動してしまうのですが(確かに最後のおばあさんの手紙にはグッときます。)、やっぱり、映画のように母と子、そして父と子とのエピソードがあってこその深い感動になるのではないのでしょうか。また、ホームレスに憧れる男を描いた“道草”にしても、映画のように妻を亡くし、子どもは父親に反発し家を出ていきという様々な事情があってこそのホームレスへの憧れという方が納得できますねえ。
映画化では無視されたのが“ピンボケな私”。無視されるのが当然なくらい、ちょっとなあという物語でした。主人公の女の子のおバカなキャラクターには参りました。それにしても、劇団ひとりさんは、この作品はミステリのことを意識して書いたんですかねえ。読者を騙す叙述トリックでしょうか。
できれば、映画を観る前に読んだ方がおもしろく読むことができますし、映画も楽しめます。 |