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遠藤武文の本棚

  1. プリズン・トリック

プリズン・トリック 講談社文庫
 交通刑務所で顔と指が濃硫酸で焼かれた死体が発見される。残された犯行文から死体は石塚という服役者で、姿を消した服役者の宮崎が犯人だとして警察は捜査を始める。ところが、捜査の結果、殺されたのは宮崎で、入所していた石塚は本人ではないことが判明する。
 第55回江戸川乱歩賞受賞作です。文庫化を機に読んでみました。石塚になりすました男は一体何者なのか。どうやって本人になりすまして刑務所に入ることができたのか。出所もそう遠くないのに、なぜ刑務所の中で殺したのか等々の謎を抱えながら物語は進みます。
 近年酒酔い運転による悲惨な事故が多発したことから、酒酔い運転が厳罰化され、交通刑務所の存在も広く知られるようになりました。この作品は交通刑務所という他の刑務所とは異なる刑務所が舞台である故に成り立った作品といえます。
 乱歩賞の選考過程でも言われたようですが、視点が次々と変わっていくため、誰が主人公なのかがわかりません。捜査の指揮を執るキャリア警察官の武田にしても、元雑誌記者で生命保険会社の社員の滋野にしても、主人公かというと、どうも中途半端です。そういう点からは読みにくい作品であったと言えます(この人が主人公かと思った一人は、思わぬことから途中で退場してしまいますし。)。ただ、刑務所の中での殺人、それも犯人と思われた服役者が本人ではなかったという特異な設定が読者を引っ張ります。
 ラストに掲載されているある人物の手紙(ネタばれになるのでくれぐれも読まないように)は、単行本には収録されてなく、その後講談社のサイトで発表されたものだそうです。これがあった方が事件の全体の構図がわかりやすい、というより、ないと真犯人の動機がはっきりわかりません。それにしても突然こんな悪が顔を出すとは。
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