柘榴パズル | 文藝春秋 |
金物職人だった祖父の源一郎、母親のショーコ、イケメン大学生の兄の友広、甘えん坊の10歳の妹の桃子、三毛猫の龍之介、そして語り手である短大生のの美緒という仲の良い山田家の周辺で起きる日常のミステリを描いた連作短編集と思いきや、気になるのは各章の最初に置かれた一家殺傷事件を伝える新聞記事。果たして、この記事がこの仲の良い山田家とどういう関係かおるのか、普通に考えれば、山田家が犠牲になるのだろうなあと、ドキドキしながら読み進みました。体裁としては各章で描かれる謎解きと、最後の「バイバイ、サマー」で明らかになる物語全体を通しての謎解きという形になっています。 「金魚は夜泳ぐ」では、商店街のお祭りに展示される予定のガラスアートが壊され、部屋から犯人が忽然と消えてしまった謎が、「月を盗む」では、写真館で結婚写真を撮ろうとしていたカップルが、結婚に反対する女性の両親が乗り込んできたため、逃げ込んだ控え室からスプリンクラーが誤作動する騒ぎの中で姿を消してしまった謎が、「ゆりかご」では、桃子がもらってきた子犬が玄関に置いておいた間に赤ちゃんに変わっていた謎が、「家族狂想曲」では、温泉の露天風呂で倒れていた仲居を襲ったと思われる犯人の男の姿が消えてしまった謎が山田家の前に提示されます。謎を解くのは兄の友広。イケメンの兄が見事な推理で謎を明らかにしていきます。 これらの個々の謎解きに対し、ラストの「バイバイ、サマー」では、この作品に横たわる大きな謎が明らかにされていきます。 この作品の“ある設定”は、今年公開された映画(そしてその原作の小説)と同じだったので、冒頭から、そして読みながら「もしかしたら、そうかなあ・・・」と思っていました。ふたを開けてみれば、思ったとおりでしたが、各章の冒頭に掲げられた新聞記事がそういうことだったとは予想外でした。予想外といえば、ある人物の正体にはびっくりしました。伏線は色々な場面で張られていたのですけどねえ。 |
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金木犀と彼女の時間 | 東京創元社 |
上原菜月は高校3年生。彼女は、7歳の時と中学2年生の時、同じ1時間がきっちり5回繰り返され、繰り返された出来事は最後の回に起こったことが確定事項となるという現象に直面していた。 菜月は、この反復現象を、ケン・グリムウッドの「リプレイ」という小説から「リプレイ」と名付け、「リプレイ」から身を守るための手段として、決して周りから浮くことのないよう誰にもそつなく付き合い、常に場の空気を読んで行動していた。そんな菜月が学園祭の日、クラスメートの天野拓未から校舎の屋上で告白される。その瞬間、人生で3度目の「リプレイ」が菜月に起きる。しかし、この後5回続くはずだった拓未の告白だったが、最初のリプレイの時、拓未は屋上から転落死してしまう・・・。 タイムトラベルものは大好きなジャンルですが、今回はちょっと捻りがあって、6回同じ時間を繰り返す少女の話です。類似のものでは西澤保彦さんの「七回死んだ男」でしょうか。 また、この作品はいわゆる“青春ミステリ”です。“青春もの”らしく、クラスの中での人間関係や、学園祭でのクラスの出し物に向けて頑張る生徒たちの様子も描かれ、“青春ミステリ”ファンとしても十分楽しむことができます。 ただ、タイムトラベルものとして、なぜ、菜月にリプレイが起こるのか、そしてリプレイが起こるのはどういったときなのかの説明は最後までありません。よくよく考えると、「あれって、どういうこと?」と思える部分も出てきますが、細かい点は横に措いて、青春ミステリとして読む方が楽しむことができます。 |
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みどり町の怪人 | 光文社 |
(ちょっとネタバレ) 物語の舞台は、埼玉県の辺境の町、Y市みどり町。この町では過去、若い女性とその子どもが殺害され、犯人は未だに捕まっていないという事件が起きていた。その未解決事件が元となって、暗がりから現れて女性や子どもを惨殺するという正体不明の怪人、“みどり町の怪人”の噂が広まり、ネットで話題になっていた。 “みどり町の怪人”をモチーフにした7編が収録された連作短編集。収録されている7編は次のとおり。 春孝と一緒にみどり町に引っ越してきた奈緒。パン屋の外で出会った少年から“みどり町の怪人”の話を聞いて以来、自分を見る強い視線を感じるようになる。“みどり町の怪人”ではないかと怯えるが・・・「みどり町の怪人」。 姑の介護をする早紀子。夫が単身赴任となり、愚痴を聞いてもらえる人もいなくなり、更にはたまに帰ってくる夫からは家に帰ってきた時まで文句を言われるのではうんざりすると言われ、しだいにストレスを貯め込んでいく・・・「むすぶ手」 みどり町の支店に異動になった悟は、なかなか打ち解けることができない隣席の柏木の不審な行動に、彼が“みどり町の怪人”ではないかと疑うが、その後、何者かによって階段から突き落とされる・・・「あやしい隣人」 “みどり町の怪人”が現れたら先生がやっつけると言ってくれていた担任の友美子先生が退職すると知り、先生が好きな光太たちは“みどり町の怪人”の存在が明らかになれば先生は辞めないのではないかと怪人探しを始める・・・「なつのいろ」 大学生の卓は、“みどり町の怪人”を捕まえたらマスコミに注目されると言って幼馴染みで酒屋の息子の慎也を誘って、山の中へと向かう。しかし、卓が怪人捜しをしようとした理由は別にあった・・・「こわい夕暮れ」 中学三年生のゆりは、同じ塾に通う優等生の薫と仲良くなる。その薫が行方不明となり、“みどり町の怪人”に攫われたという噂が流れる・・・「ときぐすり」 自治会の防犯委員を務める須藤は母親の死後一人暮らし。豪雨で避難勧告が出される中、認知症の八重子が避難所から行方不明になったと聞き、豪雨の中探しに出かける・・・「嵐の、終わり」 題名からはホラー作品か、ポプラ社の江戸川乱歩の少年探偵団シリーズにある「サーカスの怪人」とか「宇宙怪人」、それに何といっても「怪人二十面相」を思い浮かべたのですが、読み始めてみると、予想を裏切る人間ドラマでした。主人公たちは、都市伝説となっている“みどり町の怪人”が実は存在するのではないかと畏怖するのですが、ふたを開けてみれば・・・という話です。あくまで“みどり町の怪人”は物語を進めていく上での存在です。噂されているレインコートを着てフードを目深にかぶっているという姿の“みどり町の怪人”の正体については、ある話の中で明らかにされますし、過去の親子殺害事件の真相も最後には読者の前に明らかとなります。 更に、ネット上で噂される理由については、ラジオ番組の中である答えが提示されます。ただ、あのラストはどういうことなのかという疑問は残ります。 ※各話の間に挿入される地元ローカル局のラジオ番組と各話の舞台となる時期は隔たっていたのですね。 |
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思い出リバイバル | 講談社 |
誰でも、もう一度あの時に戻れたらと思う過去を持っているのではないでしょうか。私自身も、過去を振り返って、あの時に戻ってみたいなあと思うことが年齢を重ねるごとに増えてきました。 この作品は、都市伝説的に伝わる“映人”と呼ばれる人物によって「過去の思い出を一度体験できる」「思い出を再上映できる」と信じた人々の物語とラストで“映人”の正体を明らかにしていきます。 初めの3話は別れて暮らす父の家に行った日に父が何者かに殺害されたことから、あの日に戻れば犯人が誰かわかるのではないかと考えた女性(「父の思い出」)、愛し合って結婚したのに、このところ夫との関係がうまくいかず、高校時代交際していたが交通事故死してしまった男子生徒にもう一度会いたいと思う女性(「恋人との思い出」)、自分が会社で認められないのは周りの人間のせいだ、「オレは、こんなつまらない場所にいるべき人間ではないのに」と、自分が一番輝いていた高校生活最後の文化祭の再上映を望む会社員の男性(「青春の思い出」)の話が語られます。 ところが、次の第4話では構成が変わり、冒頭、映人の登場はなく、林間学校で行方不明事件が頻発している“人食い山”なる異名を持つ場所で行われた林間学校に参加した男子高校生と彼が好きな女生徒との間で起きた事件が描かれます(「ある犯罪の思い出」)。そして第5話で、最近出回り始めた映人にまつわる物騒な噂や誹謗中傷を信じられない大学生の遼太が、“未来”と名乗る少女とともに、映人を貶めようとする人物と対決し、そして映人の正体に迫っていく過程が描かれます(「映人の思い出」)。 思い出をひとつだけ『再上映(リバイバル)』といっても、映画館のように席に座ってスクリーンに映る過去を見るわけではありません。体を横たえて、思い出の品をじっと見つめるだけ。そうすると、いつの間にかもう一度体験したいと思っていた過去に戻っているのです。ただ、依頼者たちは過去の思い出を再上映することによって、その思い出をなぞるだけでなく、そのときに感じることのできなかった思いを感じとります。果たして映人の行う行為はタイムトラベルなのか、それとも催眠術などのトリックなのか。いったい、何だったのでしょうか。 |
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