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飛鳥井千砂の本棚

  1. はるがいったら
  2. チョコレートの町

はるがいったら 集英社
 幼い頃両親が離婚してそれぞれに引き取られたため、離れて暮らしている姉園(その)と弟行(ゆき)の物語。第18回小説すばる新人賞受賞作品です。物語は、園と行の一人称で交互に語られていきます。
 完璧主義者で、服装もきちんとコーディネートされていないと気が済まないデパートの受付嬢の園。そんな個性の強い女性で、自分をしっかり持っていると思える園が、婚約者のいる幼なじみの男と交際しています。完璧主義者が故に逆に痛々しい感じがします。
 一方、どこかおっとりした感じで、すべてをあるがままに受け入れる性格の高校生の弟行(ゆき)。彼は自分の部屋中に尿の吸収シートを敷き詰め、老いて動けなくなった犬ハルの介護をしています。こんな高校生、ちょっといないでしょうね。行のようなタイプは学校内ではあまり目立たないかもしれませんが、とんでもなく個性的なキャラクターと言っていいのではないでしょうか。
 物語は、行が肺炎で入院したり、そのためハルの介護を園がするようになったり、園への正体不明者からの執拗な嫌がらせ事件が起こったりする中で、彼ら二人が少しずつ成長していく様子が描かれていきます。
 とにかく、登場人物がみないい人たちばかりです(まあ、園の恋人恭司はどうかと思いますが。ただ作者自身は恭司という人物が好きなようです。)。特に義兄の忍は最高です。行と忍が全然違うキャラクターでありながらお互いを認めているのが素敵ですね。
 とても読みやすい文章です。読後感も爽やかです。これが処女作というのですから作者の飛鳥井さんは侮れませんね。今後に大きな期待です。
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チョコレートの町 双葉社
 故郷にある支店の支店長に不祥事があつて、思いがけなく支店長の代理として一時的に故郷に戻ってきた遼。何もない故郷が嫌になって出て行った遼だったが・・・
 チョコレートエ場があるため、外の空気が甘ったるい匂いに満ちている故郷の町。久しぶりに帰った故郷で、友人たちと出会い、家族と向き合うことによって、故郷の良さを改めて知るという、テーマとしてはありふれたものですが、どうせ一時のことだからと、故郷の出来事にあまり深入りしなかった主人公が次第に変わっていく様子がおもしろく、意外にすらすらと読書が進みました。おすすめです。
 学生時代は東京に出ていたが、卒業後そのまま故郷に戻って就職した僕としては、主人公の気持ちはストレートに理解することはできません。これというこだわりもなく、単に就職先があったからというだけの理由で故郷で就職してしまいましたから。確かに、東京なら好きな映画や演劇も観る機会は増えるだろうし、美術館を訪ねれば常に何らかの企画展が行われています。便利さという点から考えれば、東京(都会)の方が逢かに勝っています。そのうえ、田舎での煩わしい人間関係もないでしょう。とはいえ、あのラッシュ時の人の多さには参り、毎日では無理だなと思ったのも確かでした。この作品は、故郷から離れて暮らしている人の方が、より楽しむことができるかもしれません。
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