幼い頃両親が離婚してそれぞれに引き取られたため、離れて暮らしている姉園(その)と弟行(ゆき)の物語。第18回小説すばる新人賞受賞作品です。物語は、園と行の一人称で交互に語られていきます。
完璧主義者で、服装もきちんとコーディネートされていないと気が済まないデパートの受付嬢の園。そんな個性の強い女性で、自分をしっかり持っていると思える園が、婚約者のいる幼なじみの男と交際しています。完璧主義者が故に逆に痛々しい感じがします。
一方、どこかおっとりした感じで、すべてをあるがままに受け入れる性格の高校生の弟行(ゆき)。彼は自分の部屋中に尿の吸収シートを敷き詰め、老いて動けなくなった犬ハルの介護をしています。こんな高校生、ちょっといないでしょうね。行のようなタイプは学校内ではあまり目立たないかもしれませんが、とんでもなく個性的なキャラクターと言っていいのではないでしょうか。
物語は、行が肺炎で入院したり、そのためハルの介護を園がするようになったり、園への正体不明者からの執拗な嫌がらせ事件が起こったりする中で、彼ら二人が少しずつ成長していく様子が描かれていきます。
とにかく、登場人物がみないい人たちばかりです(まあ、園の恋人恭司はどうかと思いますが。ただ作者自身は恭司という人物が好きなようです。)。特に義兄の忍は最高です。行と忍が全然違うキャラクターでありながらお互いを認めているのが素敵ですね。
とても読みやすい文章です。読後感も爽やかです。これが処女作というのですから作者の飛鳥井さんは侮れませんね。今後に大きな期待です。 |