青春デンデケデケデケ ☆ |
河出文庫 |
第105回直木賞受賞作品
先日NHKの衛星放送でこの作品を原作とした映画を見て、書棚の奥から引っ張り出してきて再読したけど、こういう本は好きだなあ。
主人公は藤原竹良という香川県立高校の高校生。 彼がロックに酔いしれて仲間を集めてロック・バンドを結成するところから物語は始まる。楽器を購入するためのアルバイト、 練習のための合宿、そして最後の文化祭におけるコンサートまでをバンド仲間との友情を軸に、重くなく軽いタッチで描いた作品である。主人公の仲間が個性豊かに描かれており、特に寺の跡取りの合田は非常にユニークな存在で、こんな友人がいたらなあと思わせる人物である。
とにかく高校時代といえば僕らの年代からすると、すでにはるか遠くに過ぎ去った時代ではあるが、決して忘れられない時代である。女の子に恋をし、友情を確かめ合い、そして時に勉学に励んだ。今となれば、嫌なことは全て忘れ去り、楽しいことだけが思い出される。
この作品を読むと、もう一度あのときに戻りたいなあと思わされる、そんな素敵な作品である。 |
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ミミズクとオリーブ ☆ |
創元推理文庫 |
直木賞作家芦原すなおが描くミステリ短編集。
主人公はそれほど売れているとは言えない作家。そんな彼のところに時々友人の刑事がきて、持て余している事件の話をする。それを、料理の得意な主人公の奥さんが、讃岐の郷土料理で彼をもてなしつつ、話を聞いただけで事件の真相を見抜いてしまうというもの。
とにかく、この奥さんがとても賢くて、かといって、それをひけらかさず、ちょっと抜けたところがある主人公をたてる、そのうえ料理が得意という世の男性がうらやましがるほどの奥さんである。なんて言うと「いったい、いつの時代の話よ!」と世の多くの女性に怒られてしまうかな。でも、やはり自分の奥さんがこうであればと憧れる人は多いのではないか(かくいう僕もそうである。妻には内緒だが。)とにかく、主人公、奥さん、その友人の刑事のキャラクターがそれぞれ個性的で、事件の推理というよりは、彼らのやり取りが絶妙におもしろい。肩肘張らずに読める作品である。 |
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嫁洗い池 |
創元推理文庫 |
「ミミズクとオリーブ」の続編。相変わらず、いまひとつぱっとしない主人公の作家、その奥さん、友人の刑事のキャラクターで読ませる短編集。とにかく、主人公と友人の刑事の会話が面白く、読んでいて飽きさせない。また、この作品集でも前作同様に讃岐の食べ物が出てきており、興味深い。作品の中に料理がさりげなく出てくる池波正太郎みたいである。
それにしても、表紙の絵にも描いてあるが、割烹着を着た女性っていまどきいるのかなあ。前作で、こういう奥さんに憧れると書いたが、女性たちから「こんな人、今時いないわよ!」と反発されるのは必至である。 |
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雪のマズルカ |
創元推理文庫 |
あとがきにもありましたが、日本には女性探偵が活躍するハードボイルドが少ないそうです。確かに僕自身は桐野夏生さんの村野ミロしか思いつきませんでした。
とにかく、ハードボイルドです。主人公の笹野里子は、悪いやつには優しさなどは微塵も見せませんし、容赦がありません。平然とリボルバーの引き金を引くのです。「ミミズクとオリーブ」、「嫁洗い池」の芦原すなおさんの作品とは思えないですね。
作品は表題作の「雪のマズルカ」を始めとする4編からなる連作短編集です。
里子は、もともとは保母さん(今では保育士さんですね)。探偵だった夫がホステスと車ごと海に飛び込んで自殺、泣き尽くしたあげくに、さまざまな格闘技を習得して探偵を始めるというのは、正直のところあまりに都合が良すぎる展開です。だいたい、強すぎます。いくら格闘技の修練を積んだからといって、保母さんだった人がそんな簡単に男相手に闘えるのでしょうか。それに、あんなことしてしまって、あとは大丈夫なのと思ってしまいますが、気にせず読むのが楽しむためには一番です。
夫の事件の謎が最後に明らかとなってしまいますが、シリーズ化するにはわからないでいる方がおもしろかったかもしれません。
ちなみに題名の「雪のマズルカ」の“マズルカ”は、ショパンのマズルカのことです。 |
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わが身世にふる、じじわかし |
創元推理文庫 |
「ミミズクとオリーブ」から始まったこのシリーズも第3作となりました。いつものとおり、小説家の“ぼく”のところに悪友で警官の河田が持ち込む事件の謎を“ぼく”の妻が解き明かします。登場人物は基本的にこの3人だけ。“ぼく”の出身地である讃岐の名物や郷土料理が物語を彩ります。
この作品はいわゆる安楽椅子探偵ものというべきジャンルになるのでしょうが、正直のところ謎解き自体に魅力があるわけではありません。だいたい、警察が見落としていたものを話を聞いただけで、奥さんには謎が解けてしまうなんて、それほど日本の警察はお粗末ではないでしょう。それよりも、この作品の魅力は、毎回出てくる様々なおいしそうな料理と、3人の掛け合い漫才のような事件を語り合う場面のおもしろさにあります。特に子供の喧嘩のようになる“ぼく”と河田にはいつも笑わせられます。
それにしても、僕は大きな勘違いをしていたみたいです。主人公の中年作家夫婦は、だいたい30代後半くらいの夫婦かなと思っていたのですが、今回の作品集の中の「いないいないばあ」で、主人公が郷里で40年ぶりの小学校時代の同窓会に出席したことになっていますが、それからすると、主人公の年齢は50代、それも同窓生が学校の校長先生になっているとすれば、どう考えても50代後半ですよね。どこで勘違いしたかというと、やっぱりカバーの絵でしょうか。どう見ても50代の人には見えませんよね。ただ、奥さんが着物を着て、そのうえに割烹着を着ていることからすれば年代的にはそんなものでしょうか。 |
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猫とアリス ☆ |
創元推理文庫 |
躊躇せず死んだ夫が残した拳銃を撃つハードボイルドな女性の私立探偵・笹野里子の活躍を描く連作短編集です。シリーズ第2弾です。作品は5つの短編からなりますが、全体を通して“青蛙”と呼ばれる男が登場し、彼に関わるひとつの話となっています。
冒頭の「青蛙」は教師である男から元教え子の女性が亡くなった事件を調べてほしいという依頼を受けて調査を始めた里子が、“青蛇”と呼ばれる男と出会う1編。「クリスクロス・六本木」は自分を不良から助けてくれた男が射殺された事件を調べてほしいと依頼された里子が、その男が正義の味方ではなく、様々な悪事に手を染めており、そのバックには“青蛇”がいることを知る1編。表題作の「猫とアリス」は幼い女の子からいなくなった猫を探してほしいと依頼された里子が、猫を預かった女性が隠していた思わぬ事実を知る1編。「ディオニュソスの館」は自殺をしようとした男を助けた里子が、彼から有り金すべてを巻き上げた女の行方を捜す中で胡散臭い新興宗教と闘う1編。ラストの「無間奈落」はそれまでの4つの話が見事に繋がり、“青蛙”の正体と彼がしようとすることが明らかとなる1編です。
シリーズの魅力はもちろん、女探偵である笹野里子の強さですが、今作の魅力は彼女を上回るキャラの“青蛇”と呼ばれる男に尽きます。イケメンという外見からは想像できない素手で相手の頭をねじって殺すという恐ろしい技の持ち主というギャップの大きさ、そして最終話で明かされる彼の過去と、悪人ではあるのですが里子がどこか心惹かれるのもわかります。今後の再登場を期待したのですが・・・。
あと、里子の通うジムのオーナーであるスキンヘッドのゲイ・ジェイソン(日本人!)も素敵(!)なキャラの持ち主ですし、里子にほれてる警視庁捜査一課の遠藤警部もいいなあ。 |
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デンデケ・アンコール |
作品社 |
1991年第105回直木賞を受賞した「青春デンデケデケデケ」の続編です。
ベンチャーズの“パイプライン”の冒頭のエレキギターの音を聞いてロックに目覚めた高校生・チッくんの青春を描いた前作でしたが、今作では高校を卒業し、東京の大学に入学してからのチッくんのロック人生が描かれます。
チッくんと同じ団塊の世代のロック好きのおじさんたちにはたまらない作品ですが、チッくんとは世代が異なる私としてはビートルズはともかく作品中に登場するバンドや曲が分からないし、何よりギターのコードが頻繁に出てくるのですが、AだとかAmだとか書かれていても、ギターを弾かない私にはそれがそもそもわからないので、何のことやらでそこは飛ばし読みです。
チッくんがやがて新たな2人のバンド仲間を得ていく様子が描かれ、彼ら2人がロック好きになる過程、つまり彼らの人生が語られていきます。とにかく2人とも個性的で、こんな人たちが実際にいるの?と思うような周囲から見れば愉快な人物です。ラスト近くで彼らが自分たちのバンドに名前を付けるのですが、その名前“朴念仁”が彼らそれぞれを見事に表しています。
ビートルズ世代のロック好き、それもエレキを弾いたことのある人には感慨に浸ることができる1作です。 |
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