教室が、ひとりになるまで ☆ | 角川文庫 |
私立北楓高校で生徒の自殺事件が相次ぐ。自殺をした三人はクラスの中心人物といえる生徒ばかりで、「私は教室で大きな声を出しすぎました。調律される必要があります」という同じ内容の遺書を残していた。自殺事件以後学校を休んでいるクラスメイトの白瀬美月の家に先生から届け物を頼まれた垣内友宏は、美月から自殺したとされる三人は自殺ではない、死神の仮装をした女に殺されたという告白を聞く。そんな垣内のもとへ学校OBを名乗る人物から手紙が届く。そこには北楓高校では創立当初から4人の生徒が“受取人”として4つの特殊能力を引き継いでおり、垣内を能力の受取人として指名すると書かれていた。果たして連続する自殺は、この特殊能力と関係があるのか・・・。 特殊設定の下でのミステリです。今回、文庫化に当たって初めて読んだ浅倉作品ですが、ハードカバーで刊行時には「本格ミステリ大賞」「日本推理作家協会賞」の候補作になっています。 4人の特殊能力は別々で、発揮できるのは学校の敷地内のみ。また、能力の内容と発動条件を他人に知られると力は失われるという制約があります。通常は卒業時に在校生に受け継がれますが、今回垣内が受け取った時期が違うのは従前の受取人が死んだため。その垣内が得た能力は人が嘘を見破る能力。“受取人”の他の3人はいったい誰で、どんな能力を持っているのか、“死神”は“受取人”の中にいるのか等々謎を抱えながら物語は進んでいきます。特殊設定の中での事件ですから、犯行方法にも特殊な方法が用いられますが、謎解きはそれを前提として論理的になされていきます。 物語の中では最近話題となる“スクールカースト”のことも述べられますが、一般的な“スクールカースト”の問題とも言えません。いわゆる上位にいる生徒もいじめをしているとは考えていないし、逆にクラスをより良くしようと考えていたりします。しかし、それに対して、自分はほっておいてもらいたいと考える生徒もいるわけで、そんなところに今回の事件の始まりが見えてきます。しかし、殺人を犯すという犯人の考えには共感はまったくできません。高校時代積極的にクラスの行事等に関わらなかった僕としては、個人的には垣内の考えが一番理解できますが、やはり正しいのは八重樫の考えかなあと思います。 事件の解決と共に崇拝する人物の現実的な行動を知った垣内のちょっと、いや、かなり苦い青春ストーリーとしても読むことができます。 |
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六人の嘘つきな大学生 | 角川書店 |
(ちょっとネタバレ) 成長著しいIT企業「スピラリンクス」の採用試験の最終選考に残った6人の大学生。人事担当者は、彼らに次が最後のグループ・ディスカッションで、その出来によっては6人全員に内定を出す可能性があると言う。6人は全員で内定を獲得しようと時々集まってグループ・ディスカッションの対策を練る。しかし、最終選考の日が迫った日、6人の元に人事担当者からグループ・ディスカッションの議題は「誰が最も内定にふさわしいか」で、その者一人だけに内定を出すことに変更するというメールが入る。当日を迎え、グループ・ディスカッションを始めた6人だったが、扉付近にあった封筒から6つの封筒が出てきて、それぞれに6人の罪が書かれた紙とその証拠写真が入っていたことから、ディスカッションは思わぬ方向へ進んでいく・・・。 物語は、グループ・ディスカッションの様子を描く間に、8年後の現在、内定を受け採用になった者が当時のグループ・ディスカッションの参加者を訪ねて当時のことを聞く場面が挿入されます。この現在の場面ではそれぞれの者が、就活をしていたときに感じていた好青年ではなく、封筒の中の紙に書かれていたようなことをするのが本当の姿だったんだと思わせるような言動を見せます。ネタバレを怖れずに言うと、もうここで完全に浅倉さんの術中にはまってしまう方が多いのでは。 果たして、6人の罪(罪とは言えないものもありましたが。)を告発したのは誰なのか。途中までは登場人物の一人と同じくあの人物かと思っていたのですが、それは的外れでした。真実は二転三転、ちょっと想像できませんでしたね。 犯人の動機にも関わってくることですが、僕自身も会社の採用の仕事をしたことがあるのですが、短い時間の中で次々とやってくる就活生の中から、会社にとって本当に有益な人物を選考するなんて、ほとんど無理です。人事担当者が人間観察の能力に秀でた人物であるとは限りませんし、学生たちも面接等就活のテクニックを身に着けてくるのですから、なかなか本当の姿を見抜くのは難しいです。だからといって、スピラリンクスのように学生に期待を持たせておいた上に、ちゃぶ台返しのようにそれをなしにして内定者一人を学生たちで決めろなんて、無責任の極みですね。時代の最先端のIT企業だから既成の企業と違って変わったことをしても許されると思っていたら、それは驕りですよね。 それにしても、犯人とされていた男は、ラストで見つかった手紙からすると、結局どういう男だったのでしょうか。 |
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九度目の十八歳を迎えた君と | 創元推理文庫 |
印刷会社に勤める間瀬は、出勤途中の駅のホームで、反対側のホームに高校時代の同級生の二和美咲が立っていることに気づく。卒業からもう何年もたっているのに、なぜか、彼女は高校3年生の姿のままだった。なぜ美咲は高校生のままなのか、理由を話そうとしない美咲に対し、間瀬はその謎を解くために同級生や恩師を訪ね歩くが・・・。 歳を取らない同級生という不思議な設定を前提にした物語です。なぜ、間瀬がこれほどこだわるのかというと、間瀬は高校時代、美咲に恋心を抱いていたからであり、そのときの美和のある姿を見て、それが原因ではないのかと考えるためでもあります。物語は、現在の時点における間瀬の原因を調べ歩く姿に加え、高校時代の回想が交互に語られていきます。 この作品の中では、間瀬以外の美咲に会った人々は、美咲が高校生のまま変わらないことを、「そういうこともある」とか、「彼女は年齢を患っているから」と、不思議なこととは思わず、当然だと受け入れていること。学校でさえ、美咲が何年も高校生であることを許しています。不思議だと思うのは間瀬だけという設定の中で話は進んでいきます。そういう点でSFというより、そういう特殊な世界の中で好きな女の子に片思いする男の子の姿を描くよくある青春ストーリーといってもいいかもしれません。 美咲が高校生のままでいる原因を探ることは、実は間瀬自身の高校生の頃の気持ちを掘り起こすことであり、このことによって、実は「九度目の」に込められたある間瀬自身に関わることも解決していきます。ラスト、読者は「そういうことだったのかぁ」と、納得します。 |
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俺ではない炎上 | 双葉社 |
ある日、大学生の住吉初羽馬は友人から送られてきたTwitterを見て驚く。そこには「たいすけ@taisuke0701」というアカウントが「血の海地獄」というコメントともに投稿した凄惨な女性の血まみれの写真が掲載されていた。真実らしいと思った初羽馬はその情報を拡散する。 一方、外回り中の不動産会社の営業部長・山縣泰介のもとに、支社長からすぐに社に戻るよう連絡が入る。女子大生の殺害を自慢するTwitterのアカウントが炎上し、それが泰介のものであると、実名と写真がネットに晒されているという。ネットに疎く、誤解はすぐ解けると思っていた泰介だったが、Twitterの内容は泰介の生活を綴ったものであり、泰介が犯人だという情報は拡散を続ける。誰からも信用されず、泰介は彼に届いた封書の中にあった「誰も信用してはいけない。誰もあなたの味方ではない。唯一助かる可能性があるとすれば・・・逃げる、逃げ続ける。・・・」という言葉に、逃亡を決意する。 インターネットには様々な情報が流れ、それが真実なのか虚偽なのかもよくわからず、また、匿名性の世界なので、多くの人が気軽に、そして無責任に真実だけとは限らずネットの中でつぶやきます。そんな状況の中では、身に覚えなく、いつの間にか犯罪者にされてしまうということは、現在では泰介に限らず、誰もが陥る可能性があります。 ストーリー展開としては、ハリソン・フォード主演の映画「逃亡者」のようです。ただ、あの映画では追ってくるのは警察ですが、泰介を追うのは警察ばかりではなくTwitterを見た一般の人。真実かどうかを確認することもなく、暴力をふるってくるのですからたまったものではありません。 通常は無実の罪に落とされた主人公にハラハラドキドキしながら「うまく逃げろ!」と思うのですが、泰介という男、自分自身に自信満々で自分の言うことが正しいという周囲から見れば傲慢な嫌な男ということもあって、読んでいて共感することができず、そこが今一つ物語にのめり込むことができなかった理由でしょうか。 作者の浅倉さんが描くのは逃亡劇ですが、それだけではありません。ミステリとしてのあるトリックを仕掛けており、読者をミスリードします。 |
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家族解散まで千キロメートル ☆ | 角川書店 |
山梨県都留市の田舎に居を構えていた喜佐家。長男の惣太郎は既に結婚して家を出て埼玉で会社経営をしており、舞台製作の会社に勤める長女のあすなは甲府で同棲中の高比良賢人と結婚予定、次男で八王子の市役所に勤める周は警官の娘と近々結婚して八王子に住む予定ということで、築50年以上の実家は取り壊して、父母もマンション住まいをすることに決まり、家族そろってお正月に引っ越しの準備をしようと実家に集まる。それぞれが引っ越しの準備をする中、物置の中に木箱に入った仏像が置いてあるのが見つかる。折しもテレビから青森県の十和田湖近くの寺の本尊の仏像が盗まれたというニュースが流れ、それが物置にあった仏像とそっくりと知って家族は驚愕。昔、近所のおもちゃ屋の店頭にあったマスコット人形を盗んだ前科があり、正月にも関わらず家にいない放浪癖のある父親が盗んできたのではと、大騒ぎとなる。今日中に返してくれたら犯人を許すという住職の言葉に、惣太郎、周、母、そして賢人たち4人は山梨から青森への1000キロの返還の旅に出る。一方、実家に残ったあすなと長男の妻の珠利の2人は父親の行方の手がかりを家の中から見つけ出そうとする。・・。 途中、彼らの後を付ける車、何者かによるタイヤのパンクエ作、父親ではない家族の誰かが犯行に関わっているのではないかという疑心暗鬼等々ストーリーはミステリのような展開を見せますが、結局この作品は家族とは何かを描いたものといっていいでしょう。作者の浅倉さんがある登場人物の目を借りて語る家族の姿には僕自身は納得しかねるところもあり、どちらかといえばその人物に必死に抗弁する周の主張に同意してしまうのですが。でも、喜佐家が最後に皆で出した答えも家族の一つのあり方なんでしょう。家族のあり方なんて、普通考えもしませんでしたが、このところの母親たちの介護問題もあって、考えさせられる作品でした。 ※身近な知っている場所のことが出てくるのも、ちょっと嬉しいです。 |
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