第22回小説すばる新人賞受賞作です。
バスケ部の部長である桐島が部を辞めたことをきっかけとして、直接あるいは間接に影響を受ける5人の同級生の物語が描かれていきます。
描かれる5人は、野球部の幽霊部員の菊池宏樹、桐島が辞めたことによリレギュラーとなったバレー部の小泉風助、桐島の友人に恋するブラスバンド部の沢島亜矢、クラスの中のランクが「下」であることを自覚している映画部の前田涼也、娘が亡くなったショックで精神に異常をきたした母から亡くなった姉と思いこまれているソフトボール部の宮部実果です。
題名になっている肝心の“桐島"は登場人物の回想シーンの中に登場するだけですし、彼が部を辞めた理由も級友の口からちょっと語られるだけで、この作品の中で彼自身の口から語られるわけでもありません。その点、拍子抜けという思いを持つ人もいるかもしれません。
作者自身まだ高校を卒業してそれほどたっていないこともあってか、“いまどき"の高校生の生活や考え方がリアルに描かれている感じがします。クラスの中での「上」と「下」ということが描かれますが、確かにそれも存在するのでしょう。それをそれぞれが暗黙に理解しているなかで、「上」の宏樹が「下」の涼也をうらやましく思うところがあるのが描かれるところにほっとします。
やっぱり、高校時代っていいですよね。1年で部活を辞めて帰宅部だった僕だって、密かに恋いこがれる人もいたし、学園祭にも一所懸命になりました。悩みだってあったけど、それも高校時代の思い出の1ページです。そんな高校時代を振り返ってみたくなる1冊です。それにしても、この題名はうまいです。平台に並んでいると、ふと手に取ってみたくなります。 |