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有栖川有栖の本棚

  1. 月光ゲーム
  2. 孤島パズル
  3. 双頭の悪魔
  4. 幽霊刑事
  5. 白い兎が逃げる
  6. 絶叫城殺人事件
  7. モロッコ水晶の謎
  8. マレー鉄道の謎
  9. スイス時計の謎
  10. 乱鴉の島
  11. 女王国の城
  12. 妃は船を沈める
  13. 火村英生に捧げる犯罪
  14. 江神二郎の洞察
  15. 闇の喇叭
  16. 真夜中の探偵
  17. 論理爆弾
  18. 幻坂
  19. 怪しい店
  20. 鍵の掛かった男
  21. ミステリ国の人々
  22. 狩人の悪魔
  23. インド倶楽部の謎
  24. カナダ金貨の謎
  25. こうして誰もいなくなった
  26. 捜査線上の夕映え
  27. 濱地健三郎の呪える事件簿

月光ゲーム  ☆ 東京創元社
 新本格派の一人である有栖川のデビュー作であり、綾辻の「十角館の殺人」と並んで僕が新本格派にのめり込むきっかけとなった作品。主人公の名前が作者と同じところはエラリー・クイーンばりだが、こちらのアリスは名探偵でなくワトソン役である。キャンプに来ていた大学生たちが火山活動によって山中に閉じ込められた中で起きる殺人。典型的な嵐の山荘ものである。その後「孤島パズル」、「双頭の悪魔」の三作が著され、ここ10年以上アリスと名探偵の先輩江神(こちらが主人公か)とのコンビの作品は発表されていなかったが、つい先頃ようやく東京創元社で創刊された雑誌紙上で新作が発表された。 
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孤島パズル  ☆ 東京創元社
 「月光ゲーム」に続くホームズ役の江神、ワトソン役の有栖川の英都大学推理小説研究会メンバーによる第二弾。今作から研究会には有馬麻理亜(マリア)という女性がレギュラーキャラクターとして加わることになり、江神とアリスはマリアの招待で嘉敷島という孤島に行くこととなる。そこで起こる殺人事件。嵐の孤島での殺人事件なんて、これはもう本格推理小説の定番。エラリークイーンに夢中になった者としてはたまらない設定である。そして、おなじみの「読者への挑戦」とくれば、読まないわけにはいかない。研究会の他のメンバーの活躍がみられないところが残念であるが。
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双頭の悪魔  ☆ 東京創元社
 名探偵江神とアリスが活躍するシリーズ第3弾。前作(孤島パズル)で心に傷を負ったマリアはある芸術家たちが集まる四国山中のコミューンへと姿を隠す。マリアを探してアリスたちは四国へとやってきて、マリアがいる場所の対岸の村に滞在する。そんな時、台風の影響で降り続いた雨が川を氾濫させ、アリスがいる村とマリアがいる村とを結ぶ唯一の橋を押し流してしまう。その夜殺人事件の幕が上がる・・・。本格物の定番である「嵐の山荘」ものであり、本格テイストたっぷりの作品。著者が敬愛するエラリー・クイーンのように途中で「読者への挑戦」が入っている。大部ではあるが一気に読み進めることができる作品である。シリーズの最高作である。
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幽霊刑事  ☆ 講談社
 訳も分からず、当然上司によって殺されてしまった刑事(の幽霊)が主人公。主人公を殺した上司は、その後何者かによって密室状況で殺されてしまう。なぜ、自分は殺されなければならなかったのか。幽霊としてこの世に残った主人公は、主人公の声を唯一聞くことができる刑事とともにその謎を追うが、しだいに恋人にまで犯人の危険が迫る。よくあるパターンの話。映画では「ゴースト ニューヨークの幻」が同じ流れの作品である。よくあるパターンではあるけれど、泣かされてしまう。最後の空白のページが余韻を残す。
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白い兎が逃げる カッパ・ノベルス
 臨床犯罪学者、火村英生が探偵として活躍するシリーズ。表題作のほか3編を収める短編集。表題作は鉄道がらみの作品である。以前から時刻表トリックは苦手で、数字が出てくるとどうも読むのが苦痛であった。この作品では著者の言葉に『「時刻表はちょっと苦手で・・・」という方にも楽しんでいただける』とあったのだが、やはり、今一つのめり込むことができなかった。有栖川さん、ごめんなさい。
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絶叫城殺人事件 新潮文庫
 推理作家のアリスと大学教授火村とのコンビによるシリーズ作品。殺人事件とつく6編からなる短編集です。殺人事件とつくと何となく昔の推理小説を思い起こしてしまうのですが、著者にとっては、初めて殺人事件とつく作品を書いたそうです。最初の「黒鳥亭殺人事件」から5編目の「紅雨荘殺人事件」までは事件が起きる建物の名前が殺人事件の前に冠されていますが、表題作である最後の「絶叫城殺人事件」は実際の建物の名前ではなく「絶叫城」というゲームの名前が冠されています。これは、犯人がこのゲームに登場する殺人鬼と同じ名前を名乗るからですが、この短編集の中では、皮肉にも実際の建物が舞台となっていないこの作品が僕としては一番おもしろかったです。しかし、犯人が事件を起こした理由を述べるくだりでは、ふざけるな!と言いたくなりましたね。現実がこうであっては困るのですが・・・。
 「黒鳥亭殺人事件」の中で、アリスと真樹ちゃんが遊ぶ「二十の扉」はおもしろそうですね。ちょっとやってみたくなります。
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モロッコ水晶の謎 講談社ノベルス
(ネタバレあり注意)
 犯罪社会学者火村と推理作家有栖川が活躍する国名シリーズです。表題作を含む4編からなります。表題作の「モロッコ水晶の謎」は、占いをモチーフに、ある出版社社長宅で起きる事件を描いていますが、う~ん、そもそもミステリに占いを持ち込むことはどうなんでしょう。謎解きとしてはおもしろいです。ただ、占いを信じることによって起こる事件なんですが、結局は偶然がこの事件を起こしたことになるのですからねえ。正直のところ、真相が明らかになって、えっ!と思ってしまいました。
 一方、「ABCキラー」は、クリスティの「ABC殺人事件」へのオマージュということで、おもしろく読みましたが、これも偶然から起こったことを利用した事件です。かなり設定が強引な気がします。
 4編の中では掌編の「推理合戦」が一番おもしろく読みました。
 有栖川さんには申し訳ないですが、火村より江神とアリスのコンビが早く読みたいです。
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マレー鉄道の謎 講談社文庫
 第56回日本推理作家協会賞に輝く国名シリーズ第6作です。
 今回、火村とアリスが挑むのは、海外旅行の旅先マレーシアでの密室殺人事件。物語の中でもアリスによって言及されていますが、事件は、ミステリーの中にも例が見られるドアや窓が内側から目張りされた部屋の中での殺人事件です。部屋といっても変わっているのは、ブロックの土台の上に置かれたトレーラーハウスであることです。目張りされた密室なんて、がちがちの本格ミステリーの設定ですね。その上にダイイング・メッセージらしきものまで出てくるのだから、本格ミステリーと言わずして何と言おうかという作品です。本格ミステリー好きにはたまらない作品でしょうか。
 しかし、密室事件は、犯人が密室にしなければならない必然性が問題になるわけですが、今回自殺とされる人がキャビネットに入って死んでいることとの関係で、この必然性がよくわからなくなっている気がします。
 それと、マレー鉄道の謎というから、てっきり最初に描かれていたマレー鉄道で起きた事件を火村たちが解決するのかと思ったのですが、違いましたね。解決してみれば、ああそういうことかと納得です。
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スイス時計の謎  ☆ 講談社文庫
 表題作を含む4編からなる国名シリーズの1作です。謎解きの醍醐味が堪能できる本格ミステリ短編集ということで、内容はダイイング・メッセージ、首のない死体、密室、そしてストレートな犯人当てとさまざまなミステリの要素が入った作品となっています。
 しかし、この「本格ミステリ」というのを読むのがこの頃辛くなってきました。論理的な謎解きに頭がついていけないのでしょう。とはいえ、ミステリ好きになったのは創元推理文庫の海外の本格ミステリを読んだせいですし、有栖川さんといえば、デビュー作「月光ゲーム」からのファンです。読まないわけにはいきません。
 最初の「あるYの悲劇」はアンソロジー『「Y」の悲劇』のために書き下ろされたもの。エラリー・クイーンの「Yの悲劇」は、僕にとっての今でも海外本格ミステリのベスト3に入る作品です。どんな作品だろうと期待したのですが、単に題名を借りたものに過ぎなかったのですね。被害者があんなダイイング・メッセージを書くのかが、ちょっと納得できませんでした。
 メインとなるのは表題作の「スイス時計の謎」です。アリスの高校時代の同級生たちが事件の被害者と加害者として登場します。被害者の腕時計が消えていたのはなぜなのか、久しぶりに最後の謎解きに頭を使ってしまいました(何度も読み返してしまいました)。論理的に犯人を指摘していく火村の思考についていくのはやはり辛かったです。
 見事に論理的に犯人を指摘していますが、ただ、これでは犯人が自白しない限り、裁判では有罪にできないでしょうね。
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乱鴉の島 新潮社
 離島に休養に行くはずの火村と有栖だったが、手違いから目的の島とは違う通称、鴉島と呼ばれる鴉が乱舞する島に連れられてきてしまう。今は住人から見捨てられた島にいたのは、伝説的な象徴詩人であり、英米文学者である海老原と彼の元に集まってきていた人々。そこに、世間の注目を浴びている若手経営者でマスコミの寵児が現れたことから殺人事件の幕が上がる。
 臨床犯罪学者・火村英生シリーズ4年ぶりの新作長編です。そのうえ、鴉島などという禍々しき名前の付いた島での殺人事件とくれば、本格推理ファンにはたまらない“孤島もの”ということで、読む前からいやが上にも期待が高まりました。
 しかし、孤島での連続殺人ですから、当然犯人は限られた人の中にいて、最後に名探偵が「犯人はあなたです」と指さすという場面を期待していると、作者もあとがきに書いているように華々しい話ではないので、拍子抜けがします。読む前の期待が大きかっただけにちょっと残念です。
 それに、ある目的のために集まった人々が、なぜそこまでするのかという点が、いまひとつ描き切れていなかった感がします。
 殺人の動機も犯人から説明されますが、あまりに唐突すぎて、なんだかこれではとってつけたような印象が拭えません。それよりも、なぜ電話線が切られていたのかという理由の方が、今の世の中を反映している理由でなるほどと思いました。

 若手経営者でマスコミからハッシーなんて渾名をちょうだいしているところは最近のヒルズ族の若手経営者を念頭において書いているのでしょうね。でも登場したと思ったらすぐ殺されてしまうところが哀れです。
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女王国の城  ☆ 東京創元社
 前作「双頭の悪魔」から15年。有栖川さん、待たせましたねえ。ようやく江神・アリスシリーズ第4弾です(あえて、江神・アリスシリーズと言わせてもらいます。)。有栖川さんにはシリーズものとして、火村シリーズがありますが、僕としては青春ミステリーでもある江神・アリスシリーズの方が好きなんですよね。ミステリファンの期待は大きく、その期待に背かぬ内容で昨年の「このミス」第3位、「本格ミステリ」第1位の栄冠に輝きました。
 「双頭の悪魔」からは15年という長い年月がたっていますが、作品上は半年後のこと。まだまだバブルもはじけていない頃のため、アリスたちが話すことが一昔前の物語のような感じがします。携帯電話もまだ一般的ではなかった時代ということも、今回の作品の背景としては重要ですね。携帯電話があったら、この作品はちょっと変わってしまったかもしれません。
 人類の救世主たる宇宙人の降臨を待つという教義を掲げ、信者数を着実に増やしている新興宗教団体「人類協会」。その本拠地の街に向かったまま姿を消した江神を探して人類協会の本拠地・神倉へやってきたアリスたち推理小説研究会の面々。江神と会うことができた彼らだったが、殺人事件に巻き込まれ、外部との接触を断たれてしまう・・・。
 久しぶりに本格ミステリの大作を読みました。500ページを超える、それも2段組の大作に、最初はなかなか事件が起きないなあとだれてしまいそうになったのですが、事件が起きた後はどんどん読み進めることができました。ラスト近く、エラリークイーンのように名探偵の謎解きの前に挿入される“読者への挑戦”にはミステリ好きとしては嬉しくなってしまいます。中学生の頃、エラリークイーンの作品を読んでいるときに、この“読者への挑戦”に、よし解いてやるぞ!と何度心が奮い立ったことか。この歳になると、なかなか論理的な思考ができずに自分で考えずに解決編を読み始めてしまいましたが(笑) 
 今回もある意味クローズド・サークルものですね。どうしてクローズド・サークルになったのかという理由も、それほど強引ではなかったですね。なかなか登場しない女王が、あんな姿で登場するとはねえ。
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妃は船を沈める 光文社
(ネタバレあり)
 臨床犯罪学者火村英生シリーズです。有栖川さんには、これとは別に英都大学推理小説研究会の江神とアリスシリーズがありますが、そちらと違って、どうもこちらのシリーズは苦手です(どこがというわけではないのですが・・・)。今回は内容はともかく表紙カバーの帯は失敗ではないでしょうか。そして題名も。有栖川さんは「はしがき」の中で“名づけてみると、最初からこのように題される物語だったように思えてくる”と述べていますが、犯人が想像できるような題名はうまくないのではないでしょうか(第1部はともかくとして)。
 内容よりおもしろかったのは、「第1部 猿の左手」の中でウィリアム・W・ジェイコブスの短編「猿の手」の解釈を巡って火村たちが論議を戦わせているところです。「猿の左手」という怪奇小説の名作は知っていたのですが、もちろん内容はアリスたちが思っていたように理解していました。火村のような(それはもちろん作者の有栖川さんの解釈なんでしょうが)解釈の仕方があるなんてまったく思いつきもしませんでした。いやぁ~おもしろい。あらためて読みたくなりました。 
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火村英生に捧げる犯罪 文春文庫
 表題作をはじめ8編からなる短編集です。火村准教授を探偵役とするシリーズの1作です。8編のうち4編は、携帯サイトで発表された、短編というより、ショート・ショートというくらいの短い作品です。日頃からのファンが、ちょっと空いた時間に読むには最適ですが、謎解きとしてはちょっと物足りない感じがします。初心者に火村・アリスコンビのシリーズのおもしろさを伝えるにも役不足でしょう。
 表題作は、題名から火村対犯人の息詰まる頭脳合戦を勝手に期待したのですが、謎解きがされたあと、思わず「この犯人、バカじゃないのか!」と突っ込みたくなる作品でした。いくら火村・アリスコンビが警察が手に負えない事件を解決しているにしても、こんなこと考えないでしょうと思ってしまいます。でも、文庫版あとがきによると、有栖川さんはこの題名に“すごい犯人の不在を暗示したつもり”だったそうですから、僕は作者の意をまったく解していなかったようです。
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江神二郎の洞察  ☆ 東京創元社
 9編からなる江神・アリスシリーズ初の短編集です。
 アリスが大学に入学し、江神二郎と出会い、英都大学推理小説研究会に入部してから、翌年有馬麻里亜(マリア)が入部するまでの1年間を描きます。雑誌等に発表時のものに手を加えて、1年間の時の流れが無理ないようにしているので、長編の青春小説を読んでいるようです。
 望月が住むアパートの隣室からノートが盗まれ、望月に疑いがかけられる「瑠璃荘事件」。ハードロック喫茶で知り合った女性の謎を解く「ハードロック・ラバーズ・オンリー」。望月の実家に向かう旅先で遭遇した他殺体が列車に轢断された事件を描く「やけた線路の上の死体」。推理小説研究会の発起人で創部メンバーである石黒が抱く疑惑を解明する「桜川のオフィーリア」。アリスが聞いた電話をかけている男が言った言葉が示すものを推理し合う「四分間では短すぎる」。この題名は、ケメルマンの「九マイルは遠すぎる」からですね。密室トリックと思いきや唯一ホラー風味の「開かずの間の怪」。恩師の家からなくなった絵の行方を捜す「二十世紀的誘拐」。唯一の書き下ろしである「除夜を歩く」は9編の中で一番長い作品となっていますが、江神とアリスのミステリ論を読むことができます。ラストは古書店の店主が気前よく散財する理由を探る「蕩尽に関する―考察」。これにより、推理が罪を暴くためだけでなく人の心を救うことを知ったマリアが入部を決意するに至ります。
 作品中で、時期的に「やけた線路の上の死体」の事件の後、矢吹山で起こった「月光ゲーム」の事件でアリスたちが精神的に参っていることや「女王国の城」に出てくる新興宗教団体のことなどが描かれているので、シリーズファンには嬉しい作品となっています。もう一度既刊のシリーズ4作を「月光ゲーム」から順を追って読みたくなります。
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闇の喇叭  ☆ 講談社
(ちょっとネタばれ)
 パラレル・ワールドの世界を舞台にしたミステリです。少女探偵ソラシリーズの幕開けとなるこの作品では、ソラがなぜ探偵になろうとするのかが描かれていきます。
 太平洋戦争後に北海道がソ連の介在で日ノ本共和国として独立し、日本が二つの国に分断されてしまった世界での話です。戦後はアメリカの援助を受けていた日本も、戦争で京都にまで原爆を落とされたことから(この世界では原爆は3個落とされるのです。)、次第にアメリカに対する憎悪が加速し、今では英語も使用できないこととなっており、コンビニが「便利屋」、インターネットが「網絡」と、まるで戦時中のような状況になっています。
 その日本では私人による探偵行為は法律で禁止されており、密かに探偵を行っていた空閑純の母は行方不明となり、父と純は母が行方不明の前に連絡場所として指定した母の実家で暮らしていた。ある日、その町で、身元不明の他殺体が発見され、さらに日ノ本共和国からのスパイ捜しに夢中だった酒屋の主人が殺される事件が起きる。
 殺人のトリックは昔懐かしさを感じさせる大がかりなトリックが使われていて、本格ミステリファンには嬉しいところです。それ以上にこの作品で惹かれるのは日本という国の状況設定です。日本と日ノ本共和国の状況を見ると、これはまるで現実の韓国と北朝鮮の状況のようです。また、探偵行為が禁止されるのは、国家(警察)より私人が犯罪を暴いてしまうこと、つまり国家より優秀な人物が現れることを国家が危惧するかにほかなりません。
 果たして、この自由のない世の中で、純はどう生きていくのか。行方不明の母はどうしているのか、続きが気になります。
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真夜中の探偵  ☆ 講談社
 大東亜戦争後、北海道が「日ノ本共和国」として独立し、日本が分断された世界で、禁止された探偵として生きることを決心した空閑純を描く、少女探偵ソラシリーズ第2弾です。
 父が警察類似行為で逮捕されたため、大阪で一人暮らしを始めた純は、母の行方を捜すうち、父母に客を斡旋していた仲介者の押井と出会う。その後、押井の別宅で押井の家で見かけた元探偵が木箱の中で溺死しているのが発見され、純は事件解決のために奔走する。
 探偵の道を歩もうと努力する純ですが、変装一つとってもまだまだ未熟で押井ら仲介者からも呆れられる始末。ちょっと、力みすぎという感がありますが、探偵になろうとして頑張る純の姿がいじらしい、そんな探偵として歩み出した純の姿が描かれていきます。
 木箱の中での溺死という本格ミステリらしいトリックはありますが、やはり本作でも事件以上に、分断された日本、そして私的探偵行為が禁止され、自由が制限されているという世界設定のおもしろさに魅かれます。この作品では冒頭から純の母の様子が描かれ、生きていることがわかりますが、失踪の理由が果たして何なのか、気になります。
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論理爆弾  ☆ 講談社
 少女探偵ソラシリーズ第3弾です。
 母が行方不明直前に訪れたという情報を得て、純は九州の山奥にある深影村を訪れる。そこで起こる連続殺人事件。さらには日ノ本共和国から部隊が潜入して、戦いの結果、村へ入る道が落石で塞がれてしまう。
 奥深い村での連続殺人事件、それが孤立した村での話となれば、本格ミステリ定番のクローズドサークルでの事件です。そのうえ、その村には落人伝説もあるし、拝み屋のおばあさんもいるというのですから、これは「八墓村」的展開になるのか。いよいよソラ(純)が金田一耕助のように名探偵として事件を解決するのかと期待しながらページを繰って行きました。でも、「論理爆弾」という題名でありながら、ラスト思わぬ真実へと行きついてしまいます。
 そんなおどろおどろしい設定もありながら、一方では敵対する「日ノ本共和国」からの特殊部隊の潜入という、混じり合いそうもない事実が別にあるのですから、どう読んでいったらいいのか戸惑います。
 母の行方についても、しだいに明らかとなってきており、今回犯人に翻弄された純が今後どう成長していくかも含めて、この後の展開に目が離せません。
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幻坂 メディアファクトリー
 天王寺七坂と呼ばれる、真言坂、源聖寺坂、ロ縄坂、愛染坂、清水坂、天神坂、逢坂の七坂を舞台にして描かれた短編集です。
 有栖川有栖さんの作品ですから、当然ミステリだと思って読み始めたら、どの作品も幻想系あるいはホラー系といっていい作品でした。唯一ミステリ色が強かったのは、「源聖寺坂」です。心霊現象が専門の探偵である濱地が、ある現象について論理的な謎解きを行い、予想外の事実を明らかにします。
 どの作品も生者と死者の関係が描かれるというパターンの中で、趣が異なるのは「ロ縄坂」です。この作品では、猫が多く棲みついている口縄坂に足を運ぶ猫好きな女子高校生の身に起こる恐ろしい出来事が描かれます。“くちなわ”とは“蛇”のことを指すようですが、これは怖いですねえ。
 ラスト2作「枯野」と「夕陽庵」は描かれる時代が現代ではなく、前者は題名からも想像できるように松尾芭蕉を、後者は建長8年(1256年)の時代の男をそれぞれ主人公にした作品であり、天王寺七坂周辺を舞台にした話とはなっていますが、直接“坂”とは関係のない話です。坂を描いた7編からは時代が遡った話であり、ちょっと読みにくい嫌いがあります。“坂”をモチーフとしながら、これに徹しないでこの2作をこの短編集に加えた意味づけはわかりません。
 大阪の町のことをまったく知らない僕にとって、各話の冒頭に坂の写真が置かれてはいるものの、坂の周辺がどんな雰囲気なのかがわかりません。実際にこれらの坂を知っていればもう少しストーリーを楽しむことができたのかもしれません。
 各話はそれぞれ関連のない話ですが、「源聖寺坂」と「天神坂」には共通の登場人物として心霊現象専門の探偵・濱地健三郎が登場します。シリーズ化するのでしょうか。
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怪しい店 角川書店
 5編が収録された火村・アリスシリーズの短編集です。さまざまな“店”を舞台にした事件を火村とアリスが解決していきます。
 冒頭の「古物の魔」は古物店が舞台。古物店の店主が押入から死体で発見される。発見したのは店主の甥でアルバイトの粟島時也。容疑者は亡き父の遺品を法外な値段で買い戻すことを要求されていた男と店主から貢いでもらっていた女。いつもはワトソン役のアリスが謎解きをしようとしたときに火村が登場。たまにはアリスに活躍させれば良かったのにと思う1編。
 「燈火堂の奇禍」は古書店が舞台。古書店の店主が店から出て行った若い男を追って出てきて「泥棒。返せ」と叫んで転倒し、意識不明となる。常連客によると1冊の古書が本棚からなくなっているという。欲しい本があっても偏屈な店主の気分次第で「10日したらまた来てください」というところに事件の発端があったという話です。
 「ショーウインドウを砕く」は厳密に言えば“店”を舞台にした事件ではありません。主人公は芸能事務所の社長ですが、芸能事務所を舞台として事件が起きるわけではなく、事務所が倒産する事態となって主人公が起こした殺人事件を火村たちが暴く、いわゆる倒叙ものとなっています。他の収録作と異なって“店”ということで括るにはちょっと違和感があります。あまりに一方的な考えによって殺される被害者が哀れです。
 「潮騒理髪店」は理髪店が舞台。といっても、これも理髪店で事件が起きるのではなく、この店にかかってきたいたずら電話と海岸で電車にハンカチを振っていた女性の謎を火村が推理していくストーリーとなっています。日頃女性が行かない理髪店に女性が来たというのがこの話のポイントです。でも、火村たちが推理したとおりだとしたら、今の時代でそれはあり得ないだろうと思いますが。
 表題作の「怪しい店」は、“みみや”という変わった名前の店が舞台。人の悩みなどの話を聞くだけのお店が経営していくことができるのかという疑問から解決に近づきますが、真相にはひとひねりがあります。
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鍵の掛かった男  ☆  幻冬舎 
 火村・アリスシリーズ、13年ぶりの長編だそうです。昨年の「このミス」で第8位、週刊文春の「ミステリーベスト10」で第5位になった作品です。
 ある朝、大阪・中之島にある小さなホテル“銀星ホテル”のスイートルームで長い間暮らしていた老人、梨田稔が死体となって発見される。警察は自殺による縊死と断定したが、ホテルの常連客で梨田とも親しかった女流作家の影浦波子は、自殺に納得できず、火村とアリスに真相の解明を依頼する。入試前の慌ただしさで火村が時間が取れない中、アリスが一人で調査を始めるが、梨田には身寄りがなく、彼の過去も知れず調査は難航する・・・。
 いつもはホームズとワトソンの役割で火村とアリスが行動しますが、今回は火村が入試前で忙しく、アリスがホームズ役を担って調査を始めます。火村は電話でアリスが状況報告するだけでなかなか登場してきません。謎解きよりは、5年以上にわたってスイートルームに住み、2億円以上の預金があり、ボランティア活動をして静かに暮らしていた男の隠された人生がアリスの調査で次第に明らかとなってくるところが、この作品のメインです。
 火村が登場してからは、それまでのゆったりとした時間が急に早く流れ出し、最後は火村が犯人のミスに気付いて犯人を指摘します。
 犯人の動機が最後まで隠されていたので、そちらからのアプローチはできなかったのですが、あれが動機では逆恨みとしか言いようがありません。この犯人、最後は殊勝ですが、梨田を殺すだけでなく、あんなこともするとは(ネタバレになるので伏せますが)、本当に嫌なやつですよ。 
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ミステリ国の人々  日本経済新聞社 
 有栖川さんによるミステリ紹介の本です。元々は日本経済新聞に掲載されたエッセイをまとめたものですが、ちょっと変わっているのは、作品に登場する主人公だけではなく、それ以外の登場人物にも焦点を当てているところです。
 もちろん、ホームズやルパン、エラリー・クイーンやミス・マープルにポワロのような有名どころも登場しますが、泡坂妻夫さんの亜愛一郎シリーズに顔を出す“三角形の顔をした老婦人”のような、普通だったら「そんな人、出ていましたっけ?」と首をかしげるような人も取り上げています。もちろん、僕自身もシリーズは読んでいますが、そんな老婦人、まったく印象に残っていません。でも、こうやって取り上げられると、「へぇ~そうだったんだ!」と、気になって再読したくなります。
 取り上げられた53人のうち知っているのは17人だけ。作品名を知っているものはありましたが(我が国のミステリの三大奇書といわれる「ドグラ・マグラ」「黒死館殺人事件」「虚無への供物」は作品名は知っていても、恐ろしくて読む気になれません。)、聞いたこともない作家の作品が数多くあります。現在活躍している作家ではなく、物故者である作家の作品を取り上げているので、基本的にはかなり昔の作品が多いせいでしょうか。
 現役の作家の本を読むのに精一杯の身としては、改めて、そういう作家の本を続むかというと難しい。 
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狩人の悪魔  角川書店 
 「このミス」国内編第6位、「本格ミステリベスト10」の第2位を獲得した火村准教授シリーズの1作です。
 有栖は出版社の企画した対談で知り合ったホラー作家の白布施から京都の自宅へ招かれる。有栖が白布施の家に泊まった翌朝、2年前に亡くなった白布施のアシスタント・渡瀬が住んでいた家に来ていた渡瀬の友人だという女性が殺されているのが発見される。その死体からはなぜか右手首が切断されていた。更には女性のストーカーであり、犯人と目された男も殺され、今度は左手首が切断されているのが発見される。
 登場人物が少ないので、犯人もその動機も予想することができ、謎解きの結果はそのとおりだったため、意外性はまったくありませんでした。そこは残念。ただ、「本ミス」第2位となった作品らしく、手首を犯人がなぜ切断したのかという点など火村が論理的に犯人を追い詰めていく過程が読みどころです。意外に今回は有栖も頑張っています。
 題名からして、今回は従前から語られている火村の夢の謎が語られるのかと思いましたが、それは今後にお預けとなりました。 
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インド倶楽部の謎  講談社ノベルス 
 前作「モロッコ水晶の謎」から13年ぶりの“国名シリーズ”の新作です。物語の中で、エラリー・クイーンの“国名シリーズ”についても言及されているように、このシリーズも国の名前がついているからといって、それほど事件の謎がその国に関わりのある謎という訳でもありません。今回の「インド倶楽部」もインド好きの集まったグループのことを単にアリスが「インド倶楽部」と呼んだだけのことです。ただ、今回は動機がインドに大きく関係しているとは言えるかもしれません。
 神戸にあるインド風のその外観から「インド亭」と呼ばれる屋敷では、家主である実業家の間原郷太を中心に毎月一度、インド好きの7人の男女が集まり食事を楽しむ会を開催していた。ある日、例会の余興として、前世から自分が死ぬ日までのすべての運命が記されているというインドに伝わる「アガスタティアの葉」の公開リーディングをすることになり、インドからリーダーが招かれる。その場では、出席者の過去が次々と言い当てられ、「アガスティアの葉」の神秘さに皆驚いて終了する。それから数日後、リーディングを仲介したコーディネーターの出戸守が遺体となって発見され、さらにメンバーの一人、探偵事務所の所長である坊津が殺される事件が発生する・・・。
 とにかく、この「インド倶楽部」の面々の思考がまったく理解できなかったので、物語の中にのめり込むことができませんでした。彼らは前世や輪廻転生を真顔で話し、前世はインドで知り合いだったと信じ切っているのですから、「なんだ、この人たちは!?」とまずは思ってしまいました。それも、そもそもは、メンバーの一人があなたと私は前世ではこうだったと言い出したのを疑いもなく受け入れて、自分もその気になってしまうのですからねぇ。読んでいるこちらが引いてしまいます。
 作中で語られる昔の事件の真相は想像できてしまったのですが、それはともかくとして、犯人の犯行の動機は、これまたまったく理解できません。裁判で動機を問われて、その話をしたら精神鑑定となるのではないのかなとも思ってしまいます。こんな動機、推理しようがありません。一番かわいそうなのはコーディネーターの出口でしたね。 
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カナダ金貨の謎  講談社ノベルス 
 表題作を始め5編の中短編が収録された火村・アリスシリーズです。
 表題作の「カナダ金貨の謎」は、国名シリーズ第10弾です。男が殺害され、殺人現場から男が身に着けていたメイプルリーフ金貨のペンダントが持ち去られた事件に火村とアリスが挑みます。いわゆる倒叙ミステリで、犯人は最初からわかっています。犯人はなぜ金貨を持ち去ったのか、犯人がいったいどこでミスを犯したのか、それを火村とアリスはどう突き止めていくのかが、倒叙ミステリとしての醍醐味ですが、犯人の視点以外にアリスの視点のパートがあるところが、通常の倒叙ミステリとはちょっと違います。
 「船長の死んだ夜」は、元船長だった男の殺害事件が描かれます。壁に貼ってあったポスターが剥がされていた事実から、犯人を推理していきます。既に発売されている「七人の名探偵 新本格30周年記念アンソロジー」に収録された作品です。
 「エア・キャット」も「アンソロジー 猫が見ていた」に収録されている作品です。被害者の本棚から火村が抜き出した夏目漱石の「三四郎」の中に犯人の手がかりが残されていたが、アリスは火村の部屋で事件前日に書かれた「三四郎」のメモを見つける。火村はなぜ事件の前日に「三四郎」を予知していたのか。猫好きの火村を認識する作品です。
 「あるトリックの蹉跌」は、火村とアリスの出会いを描いた作品です。大学の大教室での授業中にアリスが書いていたミステリを隣に座った火村がのぞき込んで読み、犯人を推理したことが二人の出会いだったというシリーズファンにとってはたまらない作品でしょうね。「46番目の密室」にも登場するシーンだそうですが、すっかり忘れていました。この作品では二人の出会いに加えて、アリスが書いていたミステリがどんな話だったのかがわかります。
 「トロッコの行方」では、歩道橋からの転落死事件が描かれます。マイケル・サンデルの『これからの「正義」の話をしよう』にも取り上げられていた“トロッコ問題”をモチーフとした作品だそうです。そもそも“トロッコ問題”を知らなかったので、興味深く読むことができました。『これからの「正義」の話をしよう』を読みたくなります。 
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こうして誰もいなくなった  角川書店 
 表題作である中編「こうして誰もいなくなった」ほか、13編の2ページから50ページほどの種々雑多な短編が収録された作品集です。有栖川さんの作品にお馴染みな火村とアリスのコンビも登場しませんし、江神二郎も出てこないノン・シリーズ作品を集めたものです。
 この作品集の中で、まったく訳が分からなかったのが「矢」。「いったい、これは何? これで執筆料が貰えるのか?」と思う作品でした。
 「線路の国のアリス」は読んでわかるとおり、「不思議の国のアリス」のパロディです。
 「劇的な幕切れ」は自殺志願のサイトで知り合った女性と自殺しようと山の中に入る男の話。これはちょっと後味良くないラストです。
 「未来人F」は、江戸川乱歩の少年探偵団シリーズのパロディ・パスティーシュを集めたアンソロジー『みんなの少年探偵団2』に掲載されたもの。最初は江戸川乱歩なのにSFなのかと思ったら、ラストは明智小五郎も登場してめでたしめでたしの結末でした。
 既読だったのは、「本と謎の日々」。『大崎梢リクエスト!本屋さんのアンソロジー』に収録された作品です。本屋さんの中での何気ない日常の謎を店長さんが鮮やかに解き明かします。
 ラストに置かれた表題作は、題名からわかる通りアガサ・クリスティーの「そして誰もいなくなった」を下敷きとした作品です。大富豪によって孤島の別荘に招待された客たちが隠していた悪行を暴かれ、1人また一人と殺害されていきます。そのたびにマントルピースの上に置かれていた海賊の人形の首が折れているのが発見されるという、まさしく「そして誰もいなくなった」と同じです。ただ、「そして誰もいなくなった」は、マザー・グースの童謡に合わせて殺人が起きますが、さすがにそううまく同じ設定という訳にもいきませんので、それはなしです。元ネタとなる「そして誰もいなくなった」は読んでいるので、あの犯人の設定をどう捻ってあるのかと思ったら、そうきましたかという感じです。アガサ作品には探偵が登場しませんが、こちらには“響・フェデリコ・航”という何ともおかしな名前の名探偵が登場し、犯人を指摘します。
 表題作は楽しむことができましたが、ミステリでない作品も多く、とりとめもない作品集だなあという印象が強かったです。 
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捜査線上の夕映え  文藝春秋 
 火村とアリスシリーズの1作です。大阪市内のマンションで元ホストの男の死体がクローゼットの中にあったスーツケースの中から見つかる。死因は鈍器で頭を殴打されたため。彼の家に通っていた女性や借金をしていた男など容疑者が捜査線上に上がるが、マンション入り口に設置されている監視カメラにより、いずれもアリバイが成立する。
 名探偵が登場する作品は、とかく時の流れを感じさせませんが、このシリーズも30年以上続いていますが、火村もアリスもシリーズはじめと変わらず30代のままです。この作品では、冒頭アリスは34歳だと自分で述べています。ただ、この作品の舞台となるのは令和の現在。世間はコロナ禍の中にある中での事件が描かれ、アリスたちは外出時はマスクをし、火村はオンラインで講義を行い、フィールドワークも控えています。証言を求めたい人が「GO TO トラベル」で出かけてしまって帰ってこないなんて笑ってしまいます。
 今では都市であれば、町中には監視カメラが至る所にあり、事件が起きるたびに、その映像が流されますが、今回は逆に監視カメラの映像が犯人と思われる人々のアリバイを証明することとなります。
 後半、火村とアリスは関係者の住んでいた島へと旅立ち、そこで思わぬ人物の過去が明らかになります。脇役が急に表舞台に出てきたので、この後どうなるのだろうと大いに気になりました。
 トリック自体は明らかになったときには「えぇ~!!!」と思ってしまったのですが、それはびっくりというより、「なんだかなぁ~」と脱力感に襲われた感じです。そうそう途方もないトリックというわけにもいきませんよね。 
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濱地健三郎の呪える事件簿  角川書店 
 心霊現象を専門とする探偵・濱地健三郎を主人公にするシリーズ第3弾です。今作では現実同様コロナ禍の世の中を舞台にした6編が収録されています。助手の志摩ユリエも濱地と関わることによって、次第に霊を見ることができるようになってきています。
 コロナ禍で日常生活や仕事のありようも変わり、在宅勤務やリモート会議ということも多く行われるようになりましたが、冒頭の「リモート怪異」はリモートでの飲み会での怪異を描いた作品です。わざわざパソコンを通してまで他人との飲み会をしたいのか個人的には理解できないのですが、それはともかく、飲み会に限らず、人とパソコンで話をしている背後に何かいる、自分には見えないけどパソコンの先の相手には見えるというのは怖いですねえ。
 「戸口で招くもの」は廃屋に首と手のない幽霊が現れて、持ち主の男性を手招きするという話です。濱地が真相を辿っていくと、実は今の世の中らしい事実が明らかになってきます。
 「囚われて」は濱地の事務所の留守電に「タ、ス、ケ、テ」という電話がかかってくることから始まります。いったい誰からということで、ユリエの友人・進藤叡二を巻き込んでの捜索が行われるのですが、その電話の相手は意外でしたねえ。作者のミスリーディングにやられました。
 「伝達」はおでん屋で食事をした帰りにパトカーのサイレンを聞きつけ現場に行った赤波江刑事が、運ばれていく被害者のポケットから落ちた財布の中身を確認してみると、箸袋に濱地探偵事務所の電話番号が書かれているのに気づくことから始まる話です。今回は赤波江刑事からの初めての心霊探偵への依頼の話です。
 「呪わしい波」は妻に先立たれ一人暮らしのアンティークショップの男性が、このところ頻繁に金縛りに遭うようになり、久しぶりに訪ねてきた娘がその衰弱ぶりに驚いてたまたま机の上にあった濱地の名刺に気付いて助けを求めてくる話です。登場人物の不動産会社の社長と女霊能者は今後再登場しそうな感じですね。また、物語の本筋である怪異とは別になぜ濱地の名刺が娘の目にとまったのかが気になるところです。
 「どこから」は霊的なものを視ることはできないが、その存在を肌で感じることができる能力を持つ看護師の野沢季久子から依頼されて。独り暮らしの男性に取り憑いたものと濱地が対決するという話です。ユリエが心配するほどの苦戦を強いられていると思った濱地ですが、本人はそれほどでもなかった様子が描かれます。 
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