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有川ひろ(有川浩)の本棚

  1. 阪急電車
  2. ラブコメ今昔
  3. 三匹のおっさん
  4. フリーター、家を買う。
  5. ストーリー・セラー
  6. 図書館戦争
  7. 図書館内乱
  8. 図書館危機
  9. 図書館革命
  10. 別冊図書館戦争T
  11. 別冊図書館戦争U
  12. ヒア・カムズ・ザ・サン
  13. 三匹のおっさん ふたたび
  14. 旅猫リポート
  15. 県庁おもてなし課
  16. アンマーとぼくら
  17. イマジン?

阪急電車  ☆ 幻冬舎
 つい先日まで“ありかわひろし”さんという男性作家だと勘違いしていた有川浩さんの作品です。図書館シリーズは知っていたのですが、女性だったとはなぁ。
 今回、有川さんが物語の舞台に選んだのは、片道わずか15分、阪急宝塚駅と西宮北口駅を結ぶ、駅数8駅という関西のローカル線“阪急今津線”です。その今津線を舞台に一駅ごとに繰り広げられる、様々な人たちのエピソードが描かれます。
 各話がわずか10ページ強の短さですが、短い中でもそれぞれのエピソードが印象的に語られます。また、話によって主人公は交代しますが、前の話や後の話の主人公たちが顔を覗かせていて、一つの繋がったストーリーとしても楽しむことができます。
 主人公たちのキャラクターが、これまた素敵なんですよね。特に元恋人とその恋人を寝取った後輩女性との結婚式に花嫁以上に華やかに着飾って出席した翔子は最高のキャラですね。翔子のようなはっきりした女性は好きなんです。そんな翔子に声をかけた老婦人の時江も素敵に歳を取った女性です。翔子が歳を取ったら時江のようになるかなという感じです。
 そのほか、国際的ネズミ(これは、ミッキーマウスのことですね)のキャンパス地のトートバックを持ったユキ、見た目派手な女子大生ミサと、この作品に登場する女性は元気な(別な言い方をすれば気の強い)女性が多いです。みんなとっても魅力的です。それに比べて男性の登場人物たちはちょっと影が薄いですね。
 後半の折り返しでは、前半の登場人物たちの後日談が語られるという構成も楽しむことができます。おすすめです。
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ラブコメ今昔 角川書店
 自衛隊ラブコメシリーズ第2弾だそうです(第1弾の「クジラの彼」は今のところ未読です。)。表題作をはじめとする6編からなる連作短編集です。
 どの作品も自衛官を主人公とした自衛官の恋を描いた作品です。帯に“ベタ甘ラブで何が悪い!”とありますが、まったくそのとおり。今は大隊長となった男の妻との馴れ初めの話、オタクな自衛官との遠距離恋愛に揺れる恋心の話、女たらしと噂される広報官の恋の話、モテモテのブルーインパルス搭乗員の夫に女の影で悩む妻の話、上官の愛娘と恋に落ちてしまった自衛官の話、防大出のエリート女性自衛官と広報部のカメラマンの下士官の恋の話と、どの作品も“ベタ甘”の恋愛話です。ただ、お堅いイメージの自衛隊を舞台にした恋の話というのがミス・マッチな感じで単なる“ベタ甘”な恋愛話以上のおもしろさを加えています。
 それにしても、自衛隊のお偉いさんがこの本を読んだら嬉しがるでしょうね。登場する自衛隊員は国のことを想う理想的な自衛官ばかり。それとも、異性のことばかり考えるなと怒るかな。でも、怒ることなかれです。異性が気になるのは自衛官ばかりでなく、若い人なら当たり前のことですものね。防衛省推薦図書になりそうです。 
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三匹のおっさん  ☆ 文藝春秋
 僕が子どもだった頃、NHKで「お笑い三人組」という番組を放映していました。三遊亭金馬、江戸屋猫八、一竜斎貞鳳が演じる下町に住む幼なじみ三人組が繰り広げるドタバタコメディでしたが、幼なじみといったらやはり三人組なんでしょうか。この作品でも還暦を迎えた三人の幼なじみが遭遇する騒動が描かれていきます。
 昔は還暦といえばもう“おじいさん"でしたが、今の超高齢化社会の中では60歳でおじいさんなどとは言えないですよね。そんなわけで、題名の「三匹のおっさん」はうなずけます。「三匹のじいさん」ではねえ・・・。第1話で嫁に還暦祝いで赤いちゃんちゃんこを贈られた清一がいい顔をしなかったのもわかります。
 建設会社を退職して関連のアミューズメントパークの経理担当におさまった清一、居酒屋を息子に譲って、今は息子の手伝いをしている重雄、技術力を活かして独立し、町工場を経営している則夫の幼なじみ三人が主人公。三人ともそれぞれ、剣道、柔道、そして技術と取り柄があり、これを活かして町で起こる様々な事件を解決していくという痛快な物語です。その中で清一の孫、祐希と則夫の娘、早苗との初々しい恋物語も語られているのも楽しいです。
 下町ホームドラマの雰囲気です。小路幸也さんの東京バンドワゴンシリーズが好きな人なら、間違いなく楽しめる作品です。これはおすすめ。シリーズ化してもらいたいですね。
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フリーター、家を買う。  ☆ 幻冬舎
 せっかく就職した会社をここは自分のいる場所じゃないと3か月で退職し、フリーターとなった誠治。アルバイトをしても気に入らないことがあるとすぐ辞めてしまうという、端から見るとどうしようもない男です。物語は、そんなある日、母親が重度の鬱病になり、その原因が近所の虐めを一身に受けてきたストレスと、それをわかってあげなかった自分たちの責任であると知ったことから、母親のために家を買って今住む社宅から出ようと奮闘する誠治の様子を描いていきます。
 勝ち気で母親思いの姉に対し、何にも役に立たない父親と誠治の男二人が対照的です。自分さえ良ければ妻の気持ちなど考えようともしない自分勝手な夫のことが自分のことのようでちょっと胸が痛いですね。
 アルバイト先の土建会社の社長に見込まれ、正社員となってから、どんどん前向きになっていくところが、そう簡単に人間が変わるかぁとも思うのですが、それはよしとしましょう。期待されれば、人間はそれに応えようと頑張る生き物なんですから。
 父親との付き合いの仕方をアドバイスする現場のおっちゃんたちや彼の人となりを見込んで彼を採用した社長、そして女性ながら現場監督を目指す一流大学出の真奈美など素敵なキャラも登場し、読んでいてほっとし、楽しくなります。ページを繰る手を止まらせないところは有川さん、うまいですよねえ。
 誠治の恋を後輩の目から描いた書き下ろしのおまけもあるのも、うれしいところです。
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ストーリー・セラー 新潮社
 「小説新潮」2008年5月号別冊「Story Seller」に掲載された作品にもう1編を加えて単行本化したものです。ネタばれになるので詳細は書けませんが、入れ子構造のような体裁に仕上がっています。
 どちらも妻が作家の夫婦の物語で、夫が妻の書く物語の大ファンであるというところが同じです。Side:Aでは思考することで寿命が縮まるという奇病になった作家である妻に対する夫の愛情、そしてそれに応える妻の愛情が、Side:Bでは癌が発見された夫に対する作家である妻の愛情、そしてそれに応える夫の愛情が描かれます。
 2編とも、これでもかというくらいなラブ・ストーリーです。男性読者としての感想を言えば、どちらの夫も、作家である妻の仕事に理解を示し、いやそれ以上に妻の作品の大ファンであり、素晴らしい男としかいいようがありません。こんなに理解のある夫がいるのかとやっかみ半分驚いてしまいます。でも、自分が一番好きな作家の作品の最初の読者になるのですから、本好きからしてみれば、こんなに幸せなことはありませんね。
 どちらのラストも切なく泣かせます。ただ、あまりにベタ甘なラストは好き嫌いがあるかもしれません。
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図書館戦争  ☆ 角川文庫
 出だしからすっかり有川さんにやられました。父母宛の手紙で始まりますが、その内容が「・・・念願の図書館に採用されて、私は今ー 毎日軍事訓練に励んでいます。」ですからね。有川さん、上手いですよねぇ。「図書館で軍事訓練?これはいったいどういうこと?」と、先を読みたくなるのは当然です。それまで食わず嫌いの作品でしたが、いっき読みでした。
 この作品を面白く読むためには、物語の背景をよく理解する必要があります。というか、背景をバカバカしいと思わずに読むことができるかが重要です。図書館に検閲に入る良化委員会とそれに対抗する図書館の組織・図書隊がマシンガンをぶっ放し、死者を出す戦いを繰り広げるのですから、何ともハチャメチャな時代です。
 主人公は高校生の頃、良化委員会により本を取り上げられたところを助けてくれた図書隊員に憧れ、図書隊に入隊した笠原郁。何をするにも一所懸命、直情径行型の郁と、そんな郁を厳しく鍛え、ときに振り回されるながら陰で支える上官の堂上、笑い上戸の堂上の同僚・小牧、気真面目で優秀な郁の同期・手塚と美人で賢い柴崎という愉快なキャラがいっぱいです。郁と堂上のやり取りは大いに笑えます。
 でも、いい意味一所懸命でも、考えが甘く自分の言動がどういうことを引き起こすかをまったく理解せずに行動する郁が現実に自分の部下や同僚だったらイライラするだろうなあといいのが正直な気持ちです。この点、同期の手塚の気持ちがよくわかります。そんな郁より外見は八方美人ですが意外としっかり者の柴崎の方がお気に入りです。
 本好きとしては、御免蒙りたい時代が舞台です。自分で自由に内容を吟味し、おもしろければ読むというのが本好きの基本、予め検閲が入った本を読むなんて考えられないし、読みたい本が本屋さんの棚にも図書館にもないなんていう事態は最悪の状態です。図書隊、負けるなと声援を送りたくなります。
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図書館内乱  ☆ 角川文庫
 図書館シリーズ第2弾です。今回は冒頭、娘が防衛部に所属していることを知らない郁の両親が、図書館に郁の働きぶりを見に来ることによるドタバタを描くことから始まります。
 小牧と彼に恋する女子高校生・毬江との恋愛模様や手塚の家族関係、八方美人の柴崎の顔の裏に隠されたある過去など、前作では郁と堂上が中心に描かれましたが、今回は彼ら二人以外の登場人物のプライベートな部分も描かれます。
 図書隊とメディア良化委員会との戦いに利用される小牧に恋する女子高校生の恋心、図書館中央集権主義者である手塚の兄の行動、そして新たな館長を迎えた図書館内部における原則派対行政派の争いなど次のページが気になっていっき読みです。柴崎ファンとしては、柴崎にアタックする男性に、柴崎は籠絡されてしまうのかという点も、大いに気になるところです。手塚以上に切れ者の兄の慧は、今後も何らかの形で郁に関わってきそうです。
 最初は「図書館で戦争だって? どうしてそんなにこの本人気があるんだ?」と、疑心暗鬼で読み始めたのですが、すっかりシリーズの世界にハマってしまいました。今後の展開に目が離せません。

 ※作品中で小牧が毬江に勧めた「レインツリーの国」は、実際に新潮社から発売されました。
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図書館危機  ☆ 角川文庫
 図書館戦争シリーズ第3弾です。前作のラストで憧れの王子様が堂上だと知ってしまった郁。郁にはまだ知られていないと思っている堂上。そんな二人のちぐはぐな行動が笑いを誘います。
 最初の「王子様、卒業」は、図書館に出没する痴漢退治の話。前作で登場した聴覚に障害を持つ毬江が被害にあったことから、小牧はもちろん、郁等が力を合わせ痴漢を追います。囮となった郁もそれなりの格好をさせると、意外と女性らしさが漂うようですよ。
 「昇任試験、来たる」は、あの賢い手塚が昇任試験で四苦八苦する姿を描いた話。それに対して、いつもは手塚に呆れられている郁が思わぬ才能を発揮するという、いつもと正反対の状況になる様子、特に手塚の思わぬ弱点が明らかにされるというのが愉快です。
 「ねじれたコトパ」は、いまでも時々テレビ等で、「ただいま不適切な表現がありました」とお詫びをする場面がありますが、そうした不適切な言葉をテーマとした話。僕自身も使用していた“床屋"が不適切な表現なんて知りませんでした。 “理髪店"より“床屋"の方が身近な感じがして、いいと思うのですが。
ちょっと考えさせられる一作です。
 「里帰り、勃発」と、続く「図書館は誰がために」は、郁の地元である茨城県立図書館で開催される茨城県展の警備を依頼された郁たち図書特殊部隊と良化特務機関との戦いを描いた話。この戦いが郁にとっては人生の転機ともなり、そして、図書隊にとっても新たなスタートともなる話となっています。今後、図書隊がどう変わるのか、それとも変わらないのか、今後の行方が気になります。
 郁と堂上だけでなく、なんとなく柴崎と手塚もいい感じの様子になってきて、彼らの恋愛模様も気になるところです。そして、もう一つ。手塚の兄、慧の登場が少なかったことは不気味です。彼は今後どう暗躍するのでしょうか。
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図書館革命  ☆   角川文庫
 いよいよ図書館シリーズ最終編です。
 原子力発電所へのテロ事件が発生、事件のモデルになったとされる小説の作者、当麻蔵人を良化委員会が拘束しようとしたため、編集者の折口は図書基地に当麻を連れて逃げ込みます。
 表現の自由を守るため、図書隊と良化委員会との一大決戦です。キーマンとなる作家の当麻を守って、まずは折口がメディアを使って良化委員会に対抗します。手塚の兄の慧もこれを支援することに。手塚の兄の慧は、今回もかなり重要な役回りを演じますが、登場時に期待したほど暗躍している感じがしないのが意外に残念な気にさせられます。もっと悪役でもよかったのにと思うのは僕だけでしょうか。
 裁判闘争を経て、最後は東京から大阪までの逃避行となります。果たして郁は無事に任務を果たすことができるのか、手に汗握る展開にページを繰る手が止まりません。それに何より、冒頭でデートらしきものをするまでになった郁と堂上の恋はハッピーエンドを迎えるのか、柴崎と手塚の関係はどうなるのかなどなど、大団円までいっきに読ませます。
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別冊図書館戦争T  ☆ 角川文庫
 シリーズ番外編第1弾です。「図書館革命」のラストの郁の告白とエピローグとの間の郁と堂上の関係を様々な事件を絡めながら描いていきます。
 内容としては、「シアワセになりましょう」に登場する作家の木島ジンに差別表現について語らせるなど、堅い部分もありますが、それ以上に郁と堂上との初めての夜を描いたりして、読んでいるこちらが恥ずかしくなるほどベタ甘な作品となっています。
 二人がゴールインするまでに踏まなければならない過程、デートや堂上の家族への挨拶の様子が描かれています。ここまで郁の両親は登場していましたが、堂上の家族がここにきてやっと登場。堂上にあんなキャラの濃い妹がいたとは。いままで登場しなかったのがもったいないくらいです。
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別冊図書館戦争U  ☆ 角川文庫
 この巻をもって「図書館戦争」シリーズも最後を迎えるシリーズ番外編第2弾です。
 冒頭は今まで脇役として活躍していた緒方副隊長の過去の失恋話です。緒方が図書隊に入る前の驚きの過去も語られます。そして、後半3編は、ラストにふさわしく、あの二人はどうなるんだとやきもきさせられた柴崎と手塚の関係が描かれます。新たな同室者である水島にイライラさせられる柴崎、柴崎を巧妙にストーカーする男の存在、そしてネットに流された柴崎のアイコラ写真等々柴崎の周りに様々な事件が起きます。シリーズファンなら、当然これで終わらなくてはというラストで締めくくられ、嬉しい限りです。
 巻末に収録された「ウェイティング・ハピネス」では、冒頭で語られた緒方の失恋話のその後も語られますし、玄田隊長のことも忘れずに語られて大団円です。本当にベタ甘な恋物語でしたし、堅いことを言わせてもらえば、表現の自由のことについてチョッと考えさせられたシリーズでした。
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ヒア・カムズ・ザ・サン 新潮社
 劇団キャラメルボックスが今年の5月から6月にかけて公演した同名舞台の7行のあらすじから、有川さんが舞台とは異なるストーリーを紡ぎ出した「ヒア・カムズ・ザ・サン」と、人名や物語の大枠など舞台と同じ設定で異なるストーリーとなった「ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel」の中編2編が収録されています。
 物に触るとその物に残る人の記憶を感じ取ることができるサイコメトラーである古川真也を主人公に、彼の同僚(「Parallel」では彼の恋人)のカオルの父親が米国から帰ってくるという話の骨格は2作とも同じです。
 舞台とこの2本の作品の中では、有川さんの「ヒア・カムズ・ザ・サン」のストーリーが一番お気に入りです。単に母娘を日本に置いて脚本家として名を挙げようと米国に旅立った父との二十年ぶりの再会を描くだけでなく、その再会に捻りをきかしてあるところがミソ。舞台とは異なるラストに拍手です。
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三匹のおっさん ふたたび  ☆ 文藝春秋
 「三匹のおっさん」シリーズ第2弾です。“おっさん”というより、還暦を過ぎたじいさん”といった方が適切なキヨ、シゲ、ノリの幼なじみ3人組にキヨの孫・祐希が加わって、今回も縦横無尽の活躍を見せてくれます。
 第1話は、そんな3人の活躍とは関わりない話から。前回悪徳商法に引っかかり、高額な空気清浄機を買わされそうになって大騒ぎになったキヨの嫁・貴子がパートに出たことによる騒動を描きます。悪徳商法に騙されるほどおっとりとした貴子が、果たしてパートが勤まるか・・・。        、  吋
 第2話は、近所の書店での万引き防止に三人が活躍する姿を描きます。本の万引きという作家に大いに関わりにある話ですから、有川さんも力が入ったのでは。
 第3話は、ノリの再婚話に表面では賛成しながら心穏やかではない娘の早苗と、彼女の気持ちに翻弄される祐希らの様子が描かれます。
 第4話は、他人の土地へ平気でゴミを捨てる人たちの問題が描かれます。ここでは「近頃の若いやつは!」といつも言っている3人にとって、ちょっと耳の痛い話も。若者ばかりではありません。老人だって道徳を守らない人がいますよね。
 第5話は町内の神社のお祭りの復活を考えたシゲの息子・康生が直面する現実が描かれます。信仰の自由を振りかざされては神社のお祭りはできないですよね。でも、そういう人に限って子どもたちには無料で配布されるお菓子を取りに行かせるっていうのは、「あるある、こういう話」って思ってしまいました。
 第6話はキヨの妻・芳江の何気ないひとことから3人同様町を見回ることとなった還暦過ぎのじ−さんたち3人組が起こす騒動を描きます。
 どの話も、どこの町内でもありそうな問題を描いた作品となっていて、身近に考えられる話となっています
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旅猫リポート  ☆ 文藝春秋
 ある理由で飼猫のナナを手放さなくてはならなくなったサトルは、引き受け手を探して小学校、中学校、高校の同級生のところを訪れます。
 物語はナナの視点と各章に登場するサドルの友人の視点で進んでいきます。サドルは訪ねていったどこでも歓迎されます。これはサトルの人柄によるものなのでしょうが、いざナナを引き取れるかとなると、それぞれの家には事情があることがわかってきます。
 サトルがあまりに優しすぎて、それゆえに次第に明らかになっていく事実に読んでいるこちらのショックは大きいです。有川さん、ずるいです。これでは涙腺が緩んでしまうではないですか。
 サトルを見るナナの生意気な口調にも、サトルを愛していることがひしひしと伝わってきます。我が家では犬は飼ったことがありますが、猫はないので、飼主の気持ちはわかりませんが、猫好きにはきっとたまらない作品でしょうね。
 この作品は、原作の有川浩さんとキャラメルボックスの阿部丈二さんによる演劇ユニット「スカイロケット」により、2013年4月に舞台化となる予定です。観にいこうかなあ。
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県庁おもてなし課  ☆ 角川文庫
 高知県庁に実際に存在する「おもてなし課」を舞台に、有川さんが描く“お仕事小説”です。
 県庁に限らずお役所といえば、たらい回し、迅速性がない等々の批判があり、『行政も「民間感覚で」』というスローガンがどこでも叫ばれます。この作品は、民間感覚に戸惑い反発しながらも次第に変わっていく県庁職員の様子を描いていきます。   
 物語は、観光大使に委嘱した地元出身の作家から、委嘱されたものの何の音沙汰もないといった苦情電話がおもてなし課にかかってくるところから始まります。これは、実際に作者の有川さんが観光大使に委嘱されたときの経験だったそうで、この経験からこの話を書こうと思い立ったそうです。
 話自体は、かつて県庁内でパンダ誘致論をぷって閑職に追いやられ、結局は県庁を辞めざるを得なかった清遠のいわゆる民間感覚でのやり方に戸惑いを覚えながら、やがて自分たちも同じような意識で仕事を進めていくようになる様子を描いていきます。題材としては、ありふれていますが、現実に有川さんが経験したことと豊富な取材によるものでしょうか、行政の仕事の不合理性が見事に描かれていて、読んでいて思わずばかじゃないかと呆れかえったりしながら、おもしろく読みました。お仕事小説にとどまらず、おもてなし課職員の掛水とアルバイトの多紀との恋、さらに、ある人物たちの恋を描くことにより、ダ・ヴィンチの“ブック・オブ・イヤー2011”の総合・恋愛ランキング部門で第1位に輝いています。
 “おもてなし”という言葉は最近流行のようで、おもてなし条例などという条例を制定している県も多いようです。でも、“おもてなし”を条例で規定するということがいかにも行政らしくて堅い印象を受けますけどねぇ。
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アンマーとぼくら  講談社 
 題名にある“アンマー”とは、沖縄で“母親”を表す言葉だそうです。作品は沖縄を舞台に、沖縄に住む母親と3目間の休暇を過ごすために東京からやってきたリョウを主人公に、息子と母親、そして父親の物語が描かれていきます。
 北海道に住んでいたリョウは幼い頃母親と死に別れたが、自然写真家であった父親は妻の死からわずか1年で沖縄でガイドをしていた晴子さんと再婚したため、リョウは沖縄で暮らすこととなる。最愛の母の死からすぐに再婚した父親への嫌悪もあって、最初は晴子さんのことをなかなか“お母さん”と呼べないリョウだったが・・・。
 父親が本当にどうしようもない子どもです。失礼な言い方をすれば、あれほど好きだった妻を亡くして1年で再婚したのは、大事な物をなくして落ち込んでいた子どもが別に気に入ったものを見つけて自分の物にしたくなるのと同じです。自分ひとりでは亡くなった妻の母親にも会えないとは、どんな大人なんだろうと呆れてしまいます。子どもの気持ちを理解しようとしないし、“”一途な”とか“純粋な”などという形容詞をつけてかばいたくはありません。
 そんな父親を補ってあまりあるのが、実の母と義理の母です。彼女らの深い愛情があったからこそ、リョウがここまで育ってきたのでしょう。
 3日間で、義理の母と今は亡き父親と巡った沖縄の地を歩きます。沖縄に行ったことがないので、その景色を思い浮かべることはできないのが残念です。その3日間の中でファンタジックな出来事が起こります。ちょっと読者をミスリーディングする仕掛けもあって、ラストは読者を温かな気持ちにさせて幕を閉じます。
 僕自身は聞いたことはなかったのですが、“かりゆし58”の「アンマー」という曲に着想を得た作品とのことです。YouTubeで聞いてみました。リョウの名前の由来が出るのはこの歌があったからなのかぁ〜と納得。 
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イマジン?  ☆  幻冬舎 
 主人公・良井良助は子どもの頃観た「ゴジラ対スペースゴジラ」の映画をきっかけに映像の仕事をやりたいと専門学校に入り、卒業時に念願の映像制作会社の内定を得たが、その会社は計画倒産し、良助は就職先を失ってしまう。その上、計画倒産の会社に関わっていたということで、その後製作会社を受けても不合格ばかりで、今はバイトで食いつなぐ毎日を送っていた。ある日、バイトの先輩で今では製作会社「殿浦イマジン」の社員として働く佐々からバイトを頼まれた良助は、自分の夢であった映像制作の現場に関わっていくこととなる・・・。
 子どもの頃からの夢のスタート地点に立つことができた良助の成長物語です。様々なアクシデントが起こる中、横暴な監督、まともに仕事ができないのに監督のお気に入りの助監督、温厚だが一癖ありそうな監督、スタッフには居丈高で人の気持ちを読めないプロデューサーなどを相手にしながら、とにかく、誰よりも走り回り、その憎めない性格で周囲の人に可愛がられながら、一つ一つ仕事に精通していく様子が描かれていきます。
 そんな良助を助ける「殿浦イマジン」の人たちのキャラが個性的です。強面ながら実は優しく社員を見ている社長の殿浦、殿浦と同じく強面だが信頼のおける先輩の佐々、誰よりも社長の殿浦を信頼し経理の面からサポートする今川、イケメンで冷静な亘理、優秀な助監督で、ある出来事をきっかけに他社からイマジンに移った島津幸など、こんな社長や同僚のいる会社なら頑張ってやっていけそうと思う人々ばかりです。
 冒頭の良助の最初の現場となる「天翔る広報室」は、有川さんのテレビドラマ化された「空飛ぶ広報室」をモデルにした話ですね。喜屋武七海は新垣結衣さんでしょう。ついつい新垣結衣さんの顔を脳裏に思い浮かべながら読み進んでいきました。「みちくさ日記」はこれまた岩田剛典さんと高畑充希さん主演で映画化された有川さんの「植物図鑑」の現場をモデルにしたものです。これには有川さんらしき原作者も登場し、原作のイメージとドラマが合わないと非難するファンへの強烈な一撃があります。
 読み易くていっき読み。読後感爽やかです。 
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