定年物語 | 中央公論新社 |
自分に身近な問題である「定年」という言葉に惹かれて、図書館から借りたのですが、作者の新井さんはこれ以前に、この作品と同じ大島正彦さんと陽子さんを主人公とする「結婚物語」「銀婚式物語「ダイエット物語・・・ただし猫」を著わしているようです。人生の転機を二人を主人公に描いているのですね。また、陽子さんはSF作家で60歳を過ぎているという設定ですから、これはもう新井さん本人をモデルというか、新井さんの家庭を描いているのではと思ったら、あとがきで「ほぼ事実です」と書かれています。 正彦さんは定年を迎え、嘱託として引き続き働いていたが、世間では新型コロナウイルスが猛威を振るう中、満員電車で感染してはと、妻の陽子さんは退職を勧め、正彦さんは素直にそれに従い退職をする。小説家で退職ということはない陽子さんと違い、営業職で毎日を遅くまで仕事をしてきた正彦さんはゴミ出し以外の家事をまともにしたことはなく、陽子さんとしてはさて何をさせようかと考えていた。一方、正彦さんは定年を機に趣味に時間を費やそうと俳句に精を出す。 コロナ禍で定年を迎えた正彦さんと妻の陽子さんの定年後の生活を描いていきますが、今まで仕事ばかりで家のことを何もしていない夫が、一日家にいることになってどう生活していくのかが面白おかしく描かれます。どこの家でも当てはまりそうなエピソードが語られます。ただ、61歳でリタイアなんて昔はともかく、今の世の中では贅沢ですよね。今では65歳定年はおろか、70歳まで働けと言われていますから。年金や労働力不足の問題があるのでしょうけど。正彦さんが61歳で働くのを止めることができたのは、妻が小説家で収入があるためか、それとも正彦さんの勤め先が大企業で多額の退職金を相当貰ったのか。貯蓄が2000万円以上ないと老後は普通に暮らせないと言われる中、年金も削られる一方で、私たちはいつまで働けばよいのでしょう。正彦さんが羨ましいと思いながら我が身が働かなくていい日が来ることを夢見ながら読み進めました。 |
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