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青崎有吾の本棚

  1. 体育館の殺人
  2. 図書館の殺人
  3. 水族館の殺人
  4. 早朝始発の殺風景
  5. 地雷グリコ

体育館の殺人 東京創元社
 第22回鮎川哲也賞受賞作品です。当然コテコテの本格ミステリです。先頃発売の「2013本格ミステリ・ベスト10」で第5位にランクインしています。
 ある高校の体育館の舞台上で放送部の部長が刺殺されているのが発見される。鍵が開いていた入り口には生徒たちの目があったため、体育館は一種の密室状況にあった。犯人はいったいどこに消えたのか。
 この密室殺人を解決するために登場したのが、文化部部室棟の1室に住んでいるという引きこもりのアニメオタクの駄目人間・裏染天馬。警察により犯人にされそうになった卓球部部長の無実をはらすため、部員の柚乃から提示された成功報酬につられて謎解きを開始し、学年トップの頭脳を生かして、論理的に推理を組み立てていきます。
 ときどき挿入されるオタクらしい会話はまったくわかりませんが、そこはスルーしても大丈夫です。鮎川賞の選評にもあったように、論理がちょっと強引かなと思える部分も確かにあります。でも読みやすいし、僕自身はあまり気になりませんでした。ラストにはちょっとおまけの驚きの設定もあって、なかなか楽しめる1作となっています。題名は綾辻行人さんの館シリーズを意識していますね。
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図書館の殺人  東京創元社 
 デビュー作の「体育館の殺人」、「水族館の殺人」に続く高校生探偵・裏染天馬シリーズ第3弾です。シリーズ第2弾の「水族館の殺人」を読まずに、第3弾のこの作品を読みましたが、「水族館の殺人」を読んでいなくても大丈夫です。
 風ケ丘高校が期末試験の中、学校の近くの公立図書館で殺人事件が発生する。殺されたのは幼い頃から図書館に通っていた常連の大学生・城峰恭助。閉館後にセキュリティシステムによる鍵を解錠して中に立ち入ったらしい。凶器となったのは補修を終えたばかりの山田風太郎の『人間臨終図鑑』。現場には、被害者、加害者以外にもう一人の侵人者がいたことを表す被害者以外の血痕が残されていた。また、ダイイング・メッセージらしい被害者が自分の血で書いたと思われる“く”と読める血文字と書棚から落ちた本のカバー桧に描かれていた主人公の絵に血で○がつけられていた。主人公と同じ名前で“く“がつく人物として、司書の久我山が容疑者となるが、ダイイング・メッセージの謎を解くため呼ばれた裏染天馬は、「ダイイング・メッセージなんかに着目して何がわかるっていうんです?なんの意味もありません。それこそ時間の無駄です」と言い放つ・・・。
 冒頭で、被害者の従姉妹である風ケ丘高校図書委員会の委員長である城峰有紗が、試験勉強を一休みして図書館の前にある自動販売機に飲料水を買いに行った際に、何かがあったことが思わせぶりに描かれているのですが、果たして有紗が事件にどう関わっているのかも一つの謎となって読者の前に提示されます。
 コテコテの本格推理、というより本格探偵小説といった方が適切かもしれません。ラストで関係者を集めて名探偵役の天馬が論理的に事件の謎を解き明かします。ただ、今回は天馬が指摘した犯人の設定に納得いきません。犯人が被害者を元々憎んでいたならともかく、今作ではそんな事実は見られず、逆に二人の関係で、本で2回も殴りつけて殺すなんてことは考えられません。犯人が殺人を犯す動機があんなこととは、やっぱり納得いかないなあ・・・。
 本筋とは離れますが、天馬がなぜ学校で寝泊まりしているかの理由について、この作品の中でわずかですが語られます。これについては、次作に持ち越しですが、気になります。 
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水族館の殺人  東京創元社 
 新聞部の取材で水族館に出かけた風ケ丘高校新聞部の向坂香織たち。彼女らが館長の案内でサメの水槽前で取材をしていたところ、飼育員が何者かによって水槽に突き落とされ、サメに食い殺される事件が起きる。警察の捜査で、容疑者全員のアリバイが成立してしまい、困った警部の仙堂はやむを得ず、風が丘高校の体育館の事件を解決した裏染天馬に力を借りることとする。天馬は、事件のトリックを暴くが、今度は逆に全員にアリバイが成立しないこととなってしまう・・・。
 高校の部室に住む高校生・裏染天馬が事件を解決するシリーズ第2弾です。図書館の予約の関係で先に第3弾の「図書館の殺人」を読んでしまい、順番が逆になってしまいましたが、問題はありません(もちろん順番どおり読むにこしたことはありません。第3弾では当然のように登場していた人物が、ここで初登揚していたりしますので。)。警察が高校生に捜査への協力を求めるのか!と目くじら立てると話が進みません。そこはスルーして、天馬の論理的な推理を楽しむ作品です。
 犯行時間を誤解させるトリックについては、なかなかユニークなトリックでしたが、天馬が明らかにしても犯人はわかりません。このミステリは、トリックよりもロジックがメインであることがわかります。ラスト、容疑者全員を前にして、天馬がひとつひとつ、論理的に可能性を潰していくところに、老化した頭がついていけない部分はありましたが、これぞ“本格”です。まさしく懐かしの探偵小説のスタイルで、中学時代から創元推理文庫のエラリー・クイーンやヴァン・ダインを読んできた者としては、わくわくします。
 鮫に食い殺されるという、映像的には目を背けるシーンがありますが、ユーモア溢れた語り口がとっても読みやすく、その点はあまり気になりません。 
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早朝始発の殺風景  集英社 
5編にエピローグが加えられた連作短編集です。それぞれの話は登場人物も別で独立していますが、最後の「エピローグ」で全員登場という形になっていることで強引に連作にした感じがします。また、どの話も場面転換はなく、それぞれ、電車、ファミレス、観覧車、公園、同級生の部屋という一場面で話は完結します。したがって、どの話も、その場での相手の話の内容や話し方、あるいは所作によって、表面に現れていたものとは違う事実を推理していくことになります。
 表題作である「早朝始発の殺風景」は、始発電車で遭遇した高校のクラスメートの話。二人がどうして始発の電車に乗るのかをお互いが推理していきます。表題の“殺風景”とは「眺めに情趣が欠けていたり単調だったりして、見る者を楽しませないこと。また、そのさま。」ではなくて、登場人物の女子高校生の苗字。こんな苗字があるのでしょうかね。それに男子生徒の苗字も加藤木という珍しい苗字です。
 「メロンソーダ・ファクトリー」は、いつものファミレスで、学園祭でクラス全員が着るTシャツのデザインを選ぶ3人の女子高校生の話。自分のデザインを選んでくれると思っていたのに、友人がもう一つのデザインを選んだことにより、その子が今まで隠していたことを知ることになる様子を描きます。
 「夢の国には観覧車がない」は、フォークソング部の引退記念で遊園地に来たが、なぜか後輩の伊鳥と男性同士二人で観覧車に乗る羽目になってしまう寺脇の話。なぜ、二人で観覧車に乗ってしまったのか、しだいに明らかになってくる後輩の企みと後輩の話の端々に覗くある思いが何とも言えません。
 「捨て猫と兄妹喧嘩」は、両親の離婚で父と母の元にそれぞれ別れて暮らす兄と妹の話。妹が拾った猫の処遇を兄に相談していくうちに、兄の抱えるある事実に気づく様子を描きます。
 「三月四日、午後二時半の密室」は、高校の卒業式を風邪で休んだ煤木戸と彼女に卒業アルバムを届けに来たクラス委員の草間の話。煤木戸の部屋で草間が彼女と話をしているうちに日頃とっつきにくい彼女の本当の姿を知っていく話です。
 「エピローグ」は、最初の「早朝始発の殺風景」から1年後の話。それぞれの話の登場人物が総登場します。この「エピローグ」は書籍化する際に編集者の要望で付け加えられたもののようですが、これによって、その後が気になった殺風景が始発電車で通っていた理由で語られたあることが実行されたことがさらっと描かれます。恐るべし、女子高校生ですね。 
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地雷グリコ  ☆  角川書店 
 主人公は亜麻色のロングヘアに短めのプリーツスカートにぶかぶかのカーディガンを着た頬白高校1年生の射守矢真兔。物語は、そんな真兔が挑む5つのゲームでの対戦を描きます。事件が起き、高校生探偵が謎解きをするミステリではありません。優等生とは程遠い今どきの高校生に見えるが実は論理的思考能力や洞察力、柔軟な対応力等に優れている真兔が、対戦相手を見事に騙して勝利していきます。
 ただ、この5つのゲーム、普通のゲームではなく、皆が知っているゲームに何らかのルール、条件を加えて新たな形のゲームにしたもの。冒頭の表題作でもある「地雷グリコ」はジャンケンをして“グー”で勝ったらグリコと言いながら3歩進み、“チョキ”で勝てばチヨコレート、“パー”で勝てばパイナップルと言いながら6歩進むという誰もが幼い頃よく遊んだ「グリコ」に独自のルールを付け加えたもの。「坊主衰弱」は百人一首の絵札を使っての神経衰弱、「自由律ジャンケン」はジャンケンに対戦相手に教えずオリジナルの手と効果を考えて、“グー”“チョキ”“パー”とそれぞれのオリジナルの手の合計5つの手で勝負をするもの、“だるまさんがころんだ”ならぬ「だるまさんがかぞえた」は“だるまさんがかぞえた”と言う者とタッチをする者が予め数える数と進む歩数を決めて対決するもの、フォールーム・ポーカーは4つの部屋を使ってのトランプのポーカーといった具合に、よくこんな捻ったゲームを考えるものだと作者の青崎さんに拍手です。
 5つのゲームのほか、真兔、鉱田ちゃんの二人と彼女らと中学の同級生で星越高校に入った雨季田絵空との因縁が最後に解消されるところは青春ですね。 
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