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青井夏海の本棚

  1. 陽だまりの迷宮
  2. そして今はだれも
  3. 星降る楽園でおやすみ
  4. 雲の上の青い空
  5. せせらぎの迷宮
  6. シルバー村の恋

陽だまりの迷宮 ハルキ文庫
 11人兄弟の末っ子の生夫くんの身近に起こる不思議な出来事を下宿人のヨモギさんが解明するという日常の謎ミステリです。11人兄弟という設定がすごいですね。ただ、物語の中に主として登場してくるのは、現在同居している成子、訓子の双子の中学生、フリーターの緑、高校三年生の茅弥と光で、あとは時々顔を出す程度ですが。
 プロローグとエピローグの間に、父母の死を悼む家族の集まりの日に、集合場所で家族を待ちながら生夫が回想する3つの話が挟まります。その3つの話が、生夫が小学生の頃に遭遇した、消えた鉄道模型の謎、無言電話の謎、玄関に置かれていた絵本の謎です。どの謎についても、悩んでいた生夫の前にヨモギさんがふらっと出てきて解き明かしたという思い出が生夫にはあります。意外な真相が飛び出してくるわけではありませんが、生夫が子どもなりに一生懸命考える姿がやさしく描かれています。
 エピローグで、えっ!と思わされることもあり、楽しく読むことができました。最後は、まあそうくるだろうなというエンディングです。日常の謎とともに家族の関係も描いた作品だったのですね。
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そして今はだれも 双葉社
 女子高校生の秘密を握って脅迫を重ねる家庭教師。物語は、同級生の交通事故の理由を知る女子高生が学校に出てこなくなったのが、家庭教師をしていた教師のせいではないかと疑いを持った名門高校の生徒たちが、新任の女性教師とともに、脅迫者である教師を捜すストーリーです。
 帯には青春ミステリーとあったので、高校生たちの活躍を期待して読み始めたのですが、実際に話の中心、主人公となるのは新任の女性教師であり、一緒に謎を追う高校生たちは脇役に過ぎませんでした。したがって、高校生たちの生活、行動が深く描かれているわけではなく、その点期待はずれでした。
 また、主人公の女性教師が考えもない行動をとったかと思ったら、最後は鮮やかに犯人に立ち向かったりして、ちょっと、読んでいてキャラクターがいまひとつわかりませんでした。犯人についても、限られた容疑者の中で、この人怪しい、あの人怪しいとことさら言うので、逆に最初からこの人ではないのかなあと感じさせられてしまって、結局そうだったときは、ちょっとガッカリでした。
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星降る楽園でおやすみ 中央公論新社
 無認可保育所「アイリス」に2人組の男が侵入し、園長と園長の姪の保育士、そしてアヤコ、ミチル、リサ、マコト、タダシの5人の子どもが人質となる。男たちが要求したのは、子ども一人当たり500万円の身代金。男たちが内部の状況を把握していることから、園長は誰かが手引きしているのではないかと疑心暗鬼となる。
 メインの謎は男たちのほかに共犯者がいるのかという点です。園長のことを母親の大切な保育所を金儲けの道具にしたと憎んでいる姪、夫が転職に失敗し、生活のためにアイリスで働く保育士、保育士を目指すアルバイトの女性など、いかにもこの人ではないかと考える園長の思考が読者をミスリーディングします。また、園長の過去がこの事件に関わっているのではないかと示唆するところがあったりして、作者は読者をいろいろと考えさせます。
 さらに、読みどころは、人質に取られた園児のそれぞれの家族の取る行動です。園児の家庭にもいろいろな影の部分があり、事件をきっかけにそれが表面に浮かび上がってきます。それが暴かれることにより、再生へ向かう家庭、反対に崩壊へ向かう家庭がでてきます。ただ、ある父親にあんな行動させるのは考えられないですね。物語をおもしろくするためかもしれませんが、現実的ではないと思いますが。 
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雲の上の青い空 PHP研究所
 元探偵の宅配便ドライバー、寺坂脩二が主人公のミステリー連作短編集です。ミステリーといっても事件といった事件が起きるのは小学校で飼っていたウサギがいなくなった「ウサギたちの明日」くらいで、謎といってもいわゆる日常の謎です。帯に書いてあるようにハート・ウォーミング・ミステリということばがふさわしい心温まるお話ばかりです。心疲れているときに読むには最適です。
 宅配便は今の生活には欠かせないものとなっています。インターネットで本やDVDを注文するようになってからは、より身近な存在になってきました。そうしたことからすれば、宅配便のドライバーを主人公にするという発想があってもおかしくはありませんね。先日読み終わった坂木司さんの「ワーキング・ホリデー」も主人公は元ホストの宅配便ドライバーでした。
 ただ、この連作集の全ての作品が主人公が宅配便ドライバーである必然性があるわけではありません。宅配便ドライバーであるが故の話は「銀幕の恋人」「透明な面影」でしょうか。それより、元私立探偵が出会った謎を昔取った杵柄で解決するといった方が適切かもしれません。
 作者の青井さんが「どんよりした雲の上にちょっと頭を出してみたら、青空が見えた。そんな物語を書きたいと思って『雲の上の青い空』というシリーズを書き始めました。」と言っていますが、まさしく青空が見えてほっとした、そんな雰囲気のお話です。オススメです。
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せせらぎの迷宮 ハルキ文庫
 小学校時代担任だった先生が定年を迎えるに当たり、教え子たちがかつてクラスで作成した文集を揃えて贈ろうと計画します。主人公の史は友人に頼まれて自分のクラスの文集を探しますが、誰も文集のことなど知らないし、持っていない。彼女は当時の記憶を辿って文集の行方を捜そうとしますが・・・
 文集探しのミステリという形をとっていますが、中身は小学生の女の子の学校生活を描いたものです。
 子どもというのは残酷なものですが、それゆえ自分がやっていることを史のようには冷静に考えられないものです。この作品では、主人公の史が自分の気持ちをわかりすぎです。大人になった史が子どもの頃を振り返るならともかく、小学5年生が、あんなに自分の気持ちや行動を分析できるものなのか疑問。もし、そこまで考えることができたのなら、あんな嫌な自分は忘れようとしても忘れられないものです。嫌なこと、忘れたいことほど意外に人間は覚えているものです。史があんなに簡単に忘れてしまうなんてことはありえないでしょう。普通だったら○○(ネタバレになるので伏せます。)に対して、声などかけられないでしょうに。あれでは史という女性は記憶喪失かと思ってしまいます。
 ラストですべてが解決しますが、普通ではあんな幸せな終わり方は考えられないなあ・・・と思ってしまうのは僕だけか?
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シルバー村の恋 光文社文庫
(ネタバレあり)
 コミュニティーセンターを舞台に日高家の祖父、嫁、出戻りの娘、孫息子、孫娘をそれぞれ主人公にした連作ミステリです。
 といっても、彼らが謎を解<わけではありません。謎を解<のは別の人です。謎解きよりは、家族のそれぞれの思いを描いたホームドラマといってもいいかもしれません。雰囲気としては赤川次郎さんの作品のような感じの作品です。
 第1話は、年寄り相手の詐欺から女性を守ろうと奮闘する祖父が主人公。男はいくつになっても女性から頼られると弱いですねえ。気持ちはよくわかります。
 第2話は、自分が通う英会話スクールとフランス語会話スクールとの開催場所のバッティング騒ぎに巻き込まれた出戻り娘が主人公。兄夫婦にとっては邪魔な存在でありながら、甥、姪にはいい顔見せ、食事の皿を洗うのは義姉まかせというのどうなの?という人です。そんな人が、自分がいないとこの家族はダメだというのは思い上がりですよね。
 第3話は、フィットネスフロアでのお気楽主婦たちの騒ぎに巻き込まれた嫁が主人公。誰よりも長く生きて人生楽しもうと料理教室に通うと嘘をついて身体を鍛えてている嫁がかわいく思えてしまいます。
 第4話は、女装のペンキ魔騒動に巻き込まれた孫息子が、第5話はそんな騒動に巻き込まれた弟を助けようとする孫娘が主人公。自立心が芽生え親の言うことはうるさく感じる年頃となってきた姉とまだまだ甘ったれの弟のコンビが愉快です。
 お互いに心の奥底に抱いていたことをぶちまけあって、めでたしめでたしのラストはありきたりですが、こんなほのぼのとするラストもたまにはいいものです。
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