ある理由から、一流企業の内定を蹴り、また総合職ではなく現業職として東本州旅客鉄道株式会社に入社した若菜直。物語は、新入駅員として日本有数のターミナル駅である東京駅に配属された若菜が、鉄道オタクを隠している同期の犬塚、端正な顔立ちながら言動がヤンキーそのものの若菜の指導役・藤原、同じ歳だが若菜の3年先輩の改札係の橋口由香子、以前運転手だった助役の松本、現場を知らない総合職採用のエリートの副駅長の吉住など、個性豊かなキャラの中で成長していく様子を描いていきます。
この物語を読ませる理由のひとつに、登場人物たちのキャラのおもしろさがあります。中でも、軽そうな現代っ子ギャルだと思ったら、人が見ていないところで努力をしている由香子には惹かれます。また、藤原のように、さすがにあそこまで乗客に悪態をつく駅員は現実にはいないでしょうけど、迷惑な乗客に対する彼の行動には思わず拍手したくなります。
物語の中だけかなと思う藤原のキャラと違って、物語の中で描かれる迷惑な乗客たちは、実際にどこにもいそうな人ばかり。特に乗り遅れそうな仲間のために無理にドアを閉めさせないおばちゃんはいそうですねえ。それに、酔っぱらって駅員に暴力をふるう人。よくニュースにもなりますが、こんな理不尽な酔っぱらいでも、藤原のようにはできないでしょうし、本当に駅員さんは大変です。
若菜が駅員になった理由のひとつが、あるときに東京駅で彼女を助けてくれた人々を探すこと。東京駅の大勢の乗降客の中で彼女を手助けした人が、駅員となった彼女と偶然にも関わりを持つなんて、現実にはありえないと心の中では思いながらも、奇跡の物語に感動を覚えながら読み進みました。エピローグも素敵で読了感も最高です。初めて読んだ朱野作品ですが、おすすめです。 |