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朱野帰子の本棚

  1. 駅物語
  2. 真壁家の相続
  3. 賢者の石、売ります
  4. わたし、定時で帰ります。
  5. 対岸の家事
  6. 会社を綴る人
  7. くらやみガールズトーク
  8. わたし、定時で帰ります。ハイパー
  9. わたし、定時で帰ります。ライジング

駅物語  ☆ 講談社
 ある理由から、一流企業の内定を蹴り、また総合職ではなく現業職として東本州旅客鉄道株式会社に入社した若菜直。物語は、新入駅員として日本有数のターミナル駅である東京駅に配属された若菜が、鉄道オタクを隠している同期の犬塚、端正な顔立ちながら言動がヤンキーそのものの若菜の指導役・藤原、同じ歳だが若菜の3年先輩の改札係の橋口由香子、以前運転手だった助役の松本、現場を知らない総合職採用のエリートの副駅長の吉住など、個性豊かなキャラの中で成長していく様子を描いていきます。
 この物語を読ませる理由のひとつに、登場人物たちのキャラのおもしろさがあります。中でも、軽そうな現代っ子ギャルだと思ったら、人が見ていないところで努力をしている由香子には惹かれます。また、藤原のように、さすがにあそこまで乗客に悪態をつく駅員は現実にはいないでしょうけど、迷惑な乗客に対する彼の行動には思わず拍手したくなります。
 物語の中だけかなと思う藤原のキャラと違って、物語の中で描かれる迷惑な乗客たちは、実際にどこにもいそうな人ばかり。特に乗り遅れそうな仲間のために無理にドアを閉めさせないおばちゃんはいそうですねえ。それに、酔っぱらって駅員に暴力をふるう人。よくニュースにもなりますが、こんな理不尽な酔っぱらいでも、藤原のようにはできないでしょうし、本当に駅員さんは大変です。
 若菜が駅員になった理由のひとつが、あるときに東京駅で彼女を助けてくれた人々を探すこと。東京駅の大勢の乗降客の中で彼女を手助けした人が、駅員となった彼女と偶然にも関わりを持つなんて、現実にはありえないと心の中では思いながらも、奇跡の物語に感動を覚えながら読み進みました。エピローグも素敵で読了感も最高です。初めて読んだ朱野作品ですが、おすすめです。
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真壁家の相続  双葉社 
(ちょっとネタバレ)
 ある日、母からの祖父が亡くなったとの連絡で祖父の家に駆けつけた真壁りん。真壁家の親族、独身で広告会社を経営する長女、事実婚をしているお気楽な次女、妻と娘を待つ長男、失踪中の次男の妻であるりんの母が集まったところに、祖父の隠し子を名乗る男・植田大介が現れる。物語は隠し子騒動と共に仲の良いはずの真壁家が相続を巡ってゴタゴタしていく様子を描いていきます。大学で法律を学んでいることで相続の手続きを任されたりんは、果たして真壁家がバラバラにならないようにすることができるのか・・・。
 相続にあたって、それぞれのエゴが出てくるのはよくある話です。家族の中で裁判沙汰になるという話もよく聞きます。中には口喧嘩では済まずに警察が出動する事件になることも新聞の三面欄に出ています。裁判沙汰になったらもう家族は元には戻れないでしょう(もちろん事件になればなお)。本当にお金というのは人を狂わせます。
 よくあるパターンどおり、大介がりんの相談相手として、りんを助けて真壁家の相続をいい方向に進めていくというストーリーかなと思ったのですが、意外とそうでもなく、逆に揉め事のきっかけを作ったりします。人気女性アナウンサーの出待ち・入り待ちをするなんて、いい歳しておたくっぽいですし、ちょっと予想外。
 真壁家は普通の家族といっても、りんの父親である次男は失踪中、長女は独身、次女は事実婚、その上隠し子も登場というように、相続にあたって騒動の種になりそうなところはいっぱいです。更には長男の妻や次女の事実婚相手が口を出すものだから余計こじれるのはこれもよくあるところ。他人には言わないのに、家族だからと言ってしまう本音が、それぞれを傷つけあってしまいます。
 うちではこんな騒ぎにはならないと誰もが思うのですが、それはこの物語の真壁家でも同じ。実際にそのときになれば何か起きるのかはわかりません。僕自身もエンディングノートを作成しようかなあという気になってしまいました。
 さてさて、朱野さんは落としどころをどうするのだろうと思ったら、ラストはあっけなかった感があります。ラストで明かされた事実には「え!この人が一番したたかだったのではないか!」とびっくりです。それにしても、りんの父親はどうしようもない勝手な男ですね。自分だけがかわいい最低男です。 
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賢者の石、売ります  文藝春秋 
 調査会社からスカウトされて家電メーカーに転職した羽嶋賢児。賢児はマイナスイオンが出るといって会社が売り出すヘアードライヤーに対し、マイナスイオンなんて似非科学だと批判し、孤立することになる。
 賢児はとにかく科学的に実証されていないとダメだという拘りの男。こんな面倒くさい男は誰もが避けるのは無理もありません。会社としても雇いにくい人物でしょうし、同僚としても勘弁願いたい人物です。
 幼い頃唯一の友人だった蓼科譲とも、彼が科学とはかけ離れて現実に妥協することから仲違いという有様。社会で生きて行くには現実に妥協することも必要だし、妥協せざるを得ないこともあると思うのですが、彼にはそれが許されない。確かに似非科学に振り回されたくはありませんが、似非科学だとわかっていても、それにすがりたい人もいるでしょう。それも彼には許すことができない。そんな彼がどう現実と折り合っていくのか、あるいはいかないのかが描かれていく本作品ですが、ラストの落としどころは・・・う~ん、ちょっと微妙かな・・・。
 それにしても、知識のない姉を批判して、賢児が小学校で精子や性交のことについての作文を読み上げるエピソードには笑ってしまいました。姉としてはたまらなかったでしょうねえ。 
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わたし、定時で帰ります。   ☆ 新潮社 
 電通の女性社員の自殺から、世間では「働き方」ということに関し注目が集まるようになりました。物語の中にも登場しますが、バブル期に「24時間戦えますか」というキャッチフレーズで有名な栄養ドリンク、リゲインのCMがありましたが、その頃とは時代の様相がすっかり変わっています。若い頃は残業が当たり前、更にはサービス残業もいとわないという時代でしたが、今では残業はするな、残業が多い課の上司は能力がないと言われる時代です。とはいえ、人員は削られ、逆に業務量は増えているのですから、一人に係る負担も大きくて、残業をせざるを得ないのですが・・・。政府も「働き方改革」を大きく打ち出していますが、それはまだ経営者側の意向をかなり気にしたものだと感じます。
 企業のデジタル方面におけるマーケティング活動の支援やコンサルタントを業務とする企業で働く東山結衣は32歳。定時に退社して行きつけの中華料理店のタイムサービスの半額生ビールに舌鼓を打つことを楽しみにしており、恋人との結婚も持ち上がって幸せな毎日。
 そんな彼女の同僚は、毎日のように辞めるという彼女が教育係の新入社員、来栖に、残業しない結衣にも産休・育休を取ることにも批判的な同じ女性の三谷、育児を夫に任せて産休もまともに取らずに復帰した賤ヶ岳、更には、結衣と結婚直前まで行きながら、両家の顔合わせの日に前日までの残業で寝過ごし、そのあげく私との結婚と仕事のどっちが大事だと開いた結衣に、仕事だと断言したことから別れた種田晃太郎。なぜか別れた後に、結衣の会社に転職していて今では結衣と同じチームの上司となっている。
 常に辞めたいと漏らす来栖をどうにか続けさせようと悪戦苦闘する中で、かつて晃太郎の会社の社長であった福永が入社してきて結衣らと同じチームのマネジャーになったことから、結衣の「定時に帰る」というモットーが脅かされるようになります。残業が当たり前だと考える福永に、元社長に恩義を感じて彼をかばい、無理難題を自分ですべて抱え込んで処理していく晃太郎。できる人物は他人も自己と同じようにできないと能力がないと批判的になるのですが、晃太郎は部下ができない分も引き取って処理するのですから、だいぶましです。とはいえ、自分だけのために無理な条件の仕事を抱え、残業も休日出勤もして処理すればどうにかなると考える上司がいるのではたまったものではありませんね。
 果たして仕事は完成するのか、そもそも結衣の「定時に帰る」というモットーはどうなるのか、また、恋人との結婚目前でありながらも晃太郎のことが気にかかる結衣の気持ちはどうなるのか、サラリーマンとしての自分のことを振り返りながらいっき読みです。
※物語の中に太平洋戦争の際に行われ、大量の戦死者(それも餓死や病死)を出し、大失敗に終わったインパール作戦のことが語られますが、この作戦を立案・実行した牟田口司令官は死ぬ時まで、失敗したのは無能な部下のせいだと言っていたそうですから、どうしようもない上司に仕えると、とんでもないことになってしまいますね。 
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対岸の家事  ☆  講談社 
 今、世の中は女性も家の外に出て男性同様に働く時代です。そのため、働く女性(もちろん、その夫も)に大きくのしかかってくるのは育児の問題です。保育園に預けようにも待機者が多すぎてなかなか預けられない現状があり、たとえ入園できても子どもが熱を出せば保育園からすぐ呼び出され、仕事をおいても迎えに行かなくてはならないという環境下では、子どもを産むのは難しい、止めようと思う夫婦もいるのは当然です。一方、専業主婦は働く女性からすると、「家事だけやっていればいいんだから楽でいいわね」と、上から目線で見られたりもします。夫からも、そして同じ女性からも「家事」は外での仕事と同価値と認められず、専業主婦の立場は外で働く女性より一段階低くとらえられてしまうというのが実情です。そんな現在の状況の中、「わたし、定時で帰ります」で働く女性を描いた朱野さんが「対岸の火事」ならぬ「対岸の家事」で、今度は専業主婦の奮闘ぶりを描きます。
 村上詩穂は居酒屋チェーンの店長を務める夫と2歳の子どもを抱える専業主婦。話相手のママ友が欲しくて行った児童支援センターで、ワーキングマザーたちが話す「専業主婦なんか、絶滅危惧種だよね」を聞いて、専業主婦であることを選んだことに悩む。しかし、詩穂自身、母が亡くなったあとに父親からさも当然のように押し付けられた家事に不満を感じ、高校卒業と同時に家を出て、父親とも音信不通の状況にあった・・・。
 物語はそんな詩穂を中心にして、マンションの隣室のワーキングマザーの長野礼子、外資系企業に勤める妻に代わり育休をとったキャリア官僚の中谷、町医者に嫁いできたが子どもに恵まれず、医院を訪れる老人たちからプレッシャーを受ける蔦村晶子、認知症の兆候が見え始めた一人暮らしの主婦・村上さんとキャリアウーマンのその娘の日常を描きながら、現在の日本における家事と育児の問題について描いていきます。
 夫婦共働きの身としては、家事の大変さはわかっているつもりですが、この作品を読むとその大変さは身につまされます。ぜひ、男性の皆さんも読むべきです。おすすめです。 
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会社を綴る人  ☆  双葉社 
 父は気象予報士兼タレント、母は料理研究家、兄は大手ゼネコン社員という家族の中で、唯一32歳になっても正社員になれない紙屋。正社員になれと言う兄のコネで老舗の製粉会社の採用試験を受けたところ、面接で散々だったのに、なぜか採用となり、晴れて正社員の職を得る。しかし、配属された総務部では何をやってもミスばかりで、あっという間にできない社員のレッテルを貼られる始末。同僚女性の榮倉にはブログに「給料泥棒」と悪口を書かれてしまう・・・。
 中学生の頃、読書感想文が区のコンクールで佳作に入選した(といっても佳作だけで100作品あったが)、中学校の卒業式での答辞を書いた(ただし、読んだのは別の人)という過去があることが唯一のとりえである紙屋が、その唯一の取り柄といえる文章力で会社に貢献していく様子を描いていきます。
 自分はいわゆるエリートサラリーマンでありながら弟のことを馬鹿にせず、親身に相談に乗る兄や、紙屋の採用にマルをつけた昔気質の営業マンである渡邉営業部長代理、書類仕事はきっちりとこなす総務らしい紙屋の上司の栗丸さん、そして紙屋のことをおもしろおかしくブログに書く開発部の榮倉さんなど個性的なキャラが登場するので、飽きません。また、紙屋が文章の力で少しずつ多くの人の考えを変えていくというのも予定調和のストーリーですが、読んでいて楽しいです。なぜか、紙屋(仮名)、榮倉(仮名)と仮名で書かれていた理由がラストでわかるところも、「なるほど、そういうことだったのかぁ」と納得です。
 楽しく読むことができる“お仕事小説”ですが、でも、これはあくまで小説世界の中のこと。何をやってもまともに事務仕事ができず、できないだけでなく大切なデータを消してしまうなどここに描かれるミスを最初だけならともかく、それを何度も繰り返すようでは、社会人としては厳しいです。文章力があるというだけでは、現実には会社は認めてくれませんし、文章を作るだけでは榮倉から「給料泥棒」と言われても致し方ありません。現実はそんなに甘くないです。 
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くらやみガールズトーク  角川書店 
 このところ、「わたし、定時で帰ります。」、「対岸の家事」、「会社を綴る人」と、続けざまに働く女性を描く作品を著わしている朱野さん。今回も「~ガールズトーク」という題名からして、働く女性たちを主人公にした短編集かと思って読み始めたのですが・・・。これが予想外のホラー短編集でした。題名の「ガールズトーク」の前に付けられた「くらやみ」の方に重点が置かれていたのですねえ(発表された雑誌が「幽」等ですから、当然ですが。)。
 収録されている8編はどれもが主人公は女性ですが、「ガールズトーク」だけがちょっと異色です。こけしコレクターが“わたし”に語る、あるこけしを巡る話ですが、これは純粋なホラーです。
 それ以外の7編は、「鏡の男」では両親が心配するのは妹ばかりと思い、家を出て一人暮らしを始めた女性を、「花嫁衣裳」では“家”にこだわる夫側の親族と付き合わなければならない女性を、「藁人形」では思い切って告白した男からいい返事をもらって幸せな日々を送っていたが、実は彼は既婚者であり、自分は遊ばれていることを知った女性を、「獣の夜」では幼い子供を育てることに不安を持つ女性を、「子育て幽霊」では年老いて次第に精神的に壊れていく母親を目にする女性を、「変わるために死にゆくあなたへ」では自分は可愛くないと自覚しているがゆえに好きな男の子に告白できない少女を、「帰り道」では母親に新しい命が宿ったとことで不安を感じている少女をそれぞれ主人公に、女性の人生のそれぞれの一場面をホラー形式で描いていきます。
 個人的に印象に残ったのは「花嫁衣裳」、「藁人形」、「帰り道」の3編。
 「花嫁衣裳」は、いつの時代の話だと男性である僕からしても思わざるを得ないほど「家」にこだわる夫側の親族と付き合わなければならない妻の苦悩を描きます。最後の場面は妻側からすれば爽快でしょう。
 「藁人形」では、怖いのは主人公が丑三つ参りをすることではなく、彼女がご神木に隠された藁人形を見つけるところです。これは恐ろしい。それにしても、アマゾンで藁人形を売っているとはびっくりです(実際に検索したら出てきました。)。
 「帰り道」は、曾祖母が亡くなった病院からひとりで家に帰る少女が、奇妙な世界に迷い込んでしまうという話ですが、これは宮崎駿監督の映画の世界みたいです。 
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わたし、定時で帰ります。   ☆ 新潮社 
 大手広告代理店の女性社員の働き過ぎによる自殺から大きくクローズアップされた“働き方”の問題ですが、国では“働き方改革”などと謳って、今さらながらの様々な政策を打ち出しています。今年度からは5日以上有休を取得していない社員に対し、会社側が強制的に休日を指定しなければならないという制度も始まるようです。有休は勝手に好きな時に取りたいですよねえ。取れない環境にある会社が多いのでしょうか。
 そんな働き方が問題になるこの時代に、残業はせずに定時に帰ることを信条とする東山結衣を主人公とするお仕事小説第2弾です。 定時に帰ることは当然ですが、そう簡単ではありません。もちろん、効率よく仕事をすればいいのですが、効率よく仕事をこなして時間ができた分、今度は人を減らされるという悪循環に陥ることもあります。また、自分の仕事を処理せずに帰るという太い神経があっても、残された分のその人の仕事は別の誰かが処理しなければなりません。そんなこと平気だと思っても、他人はやさしく仕事を肩代わりしてくれませんし、人事も黙ってそんな人を見過ごしてくれるものでもありません。このように、定時に帰るという前には大きなハードルが立ちはだかっています。この作品でも結衣の仕事を元婚約者の種田晃太郎がほとんど会社に泊まりこんで仕事をすることになるという現実があります。
 今回、定時に帰るというモットーの結衣の前に立ちはだかるのは、自分は大型ルーキーだと勘違いが甚だしいが、結局何もしない新人・甘露寺(しかし、そんな彼のやり方が思わぬ結果を生むのですが、そこはまあ小説を面白くするエピソードですね。)や、スポーツマンでなければ人にあらず、男女差別も当然という取引先の会社。今回は、この会社のコンペに勝ち抜くということと、それに合わせてこの会社の体質を結衣が変えていくというストーリーになっています。前作からの登場人物に加え、上に述べた大物新人などの個性豊かな脇役陣が今回も登場し、どんでん返しもあって目が離せません。 
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わたし、定時で帰ります。ライジング  ☆   新潮社 
 定時で帰ることをモットーとする女性・東山結衣を主人公にしたシリーズ第3弾となります。
 マッチョな集団であり、女性は男より劣ると考えていた役員ばかりのスポーツウェアメーカーであるフォースの大型案件を勝ち取った結衣と種田晃太郎は、ヨリを戻し、結婚することを決心する。いざ、結婚届を出そうとしたその日、仙台支店の仕事が炎上し、対応を任された晃太郎は急遽仙台へ。一方、結衣は、仙台支店から来た部下の本間の残業をさせてくれという申し出に手を焼いていたが、同じく仙台支店から来た創業メンバーの一人である塩野谷は残業を認めてしまう。やがて、会社内には残業をして手当をもらった方がいいという生活残業の考えが若手を中心に広まっていく・・・。
 相変わらず個性的なキャラが登場します。前作にも登場した自分に自信満々で演説させたら抜群にうまい甘露寺が最高のキャラです。今回新たに登場した中では、午前中3時間しか働かないのに1000万円をもらうシステム開発のエンジニアとして採用された八神蘇芳。男性か女性か分からないキャラで、上司であろうと顧客であろうとため口で話す人物ですが、結衣の下で働くことを希望してやってきており、人間的に嫌な奴ではありません。
 給料は上がらない上に、働き方改革だ、効率的に仕事をしろと叫んでも、残業手当を含めた分を恒常的な収入として考え、それで生活設計している者にとっては、残業手当の削減はそのまま生活に影響が出る大きな問題です。能力があって仕事を時間内で処理することができる人より、だらだらと時間をかけて仕事を処理する人のどちらが会社にとって有益な人材なのかは考えなくてもわかります。ただ、残業をせざるを得ないほど業務が多いのか、それとも、その人の業務処理能力が低いがゆえに残業をせざるを得ないのか。はたまた残業手当が欲しいがゆえに意図的に時間外に仕事をしているのか、これを判断するのはなかなか難しいですよね。上司のマネジメントも大変です。「俺が若い頃はそんな仕事残業なんてしなくてできた!」と、部下に言うだけでは、業務はうまく回りませんよねえ。
 今回も結衣は残業手当を欲しがる部下に、その分給料を上げると宣言して会社に要求します。まあ、なかなかこの作品のラストのようにはうまくいかないのが現実ですけどねえ。
 さて、このシリーズはまだ続くのでしょうか。ラスト、結衣は部下以上に非効率的で仕事をしないと言われるあの業界の担当になりますからねえ。結衣があの業界にどう立ち向かうのか、それもまた見たいです。 
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