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赤川次郎の本棚

  1. ホームタウンの事件簿
  2. マリオネットの罠
  3. 上役のいない月曜日
  4. いもうと

ホームタウンの事件簿  ☆ 角川文庫
 赤川次郎の作品といえば三毛猫ホームズシリーズを始め、ライトタッチのミステリで、いわゆる本格ファンからは見向きもされないかもしれない。僕自身もここ十年以上その作品を読んだことはないが、でも実際のところ簡単に短い時間で読むことができて、そのうえ正直おもしろい。この作品は、とある団地に住む一家を主人公にした7編からなる連作短編集。団地の中を駆け巡るあることないことの噂話・・・。誰もがちょっとしたことから被害者にも加害者にもなりうるという人間関係の恐ろしさを描くホラー小説である。
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マリオネットの罠 文春文庫
 赤川さんの処女長編です。以前、推理小説研究会編・著「本格ミステリベスト100 1975→1994」で第52位にランクされた作品です。絶版で読むことができなかったのですが、新装版が発売され、ようやく読むことができました。
 赤川次郎さんといえば、まず思い浮かぶのは「三毛猫ホームズシリーズ」に代表されるユーモアミステリーですが、この作品のようなサスペンス調のものも、なかなかのものです。
 フランス留学から帰った上田修一が家庭教師を依頼された家には、美人姉妹が住んでおり、さらに地下室にはもう一人の妹が幽閉されていた。修一が彼女を救おうとしたことから、惨劇が引き起こされる。
 失踪した上田、彼の行方を追う婚約者の美奈子、彼女を助けるダンディーな上西、そしてナイフで殺人を次々と犯す女と、全体像が見えないまま物語は進んでいきます。美人姉妹の正体は?連続殺人の意味は?等々ラストにすべての謎が明らかとなりますが、途中でこのラストのどんでん返しが予想がついてしまったのは残念なところです。
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上役のいない月曜日 文春文庫
 これもまた25年前に刊行された文庫の新装版です。当時赤川さんの作品に夢中になっていた頃読んだ作品を再読です。
 赤川さんの作品といえば“幽霊”シリーズや“三毛猫ホームズ”シリーズ、“三姉妹探偵団”シリーズなど有名作品が数々ありますが、赤川さん自身が作家の前はサラリーマンをやっていたせいもあってか、サラリーマンを主人公に描く作品も侮れません。
 この作品集も5つの短編が収録されていますが、主人公はどれもサラリーマンであり、サラリーマンの悲哀を描いた作品です。
 表題作の「上役のいない月曜日」の部下たちの気持ちは、よくわかります。ブルーマンデイと言われるように気分が乗らない月曜日に、うるさい上役がいないなんて最高です。しかし、こういうときに問題は起こるもの。責任者の上役がいないというのは、部下としては逆に困ったものです。本当にサラリーマンの気持ちがわかり過ぎるくらいわかっている作品です。この作品集の中で一番後味いいラストとなっています。
 「花束のない送別会」は設定としてはいささか強引かなという嫌いはありますが、あまりに哀しい事件解決後の状況に、サラリーマンって辛いなあと切実に感じてしまいます。
 「禁酒の日」はこの作品集の中で一番面白い設定の作品です。会社の末端に位置する社員が会社の命運を握るなんて、考えただけでも楽しい設定です。最後のどんでん返しも赤川さんらしい愉快な終わり方となっています。
 「徒歩十五分」の主人公が住み始めたニュータウン、今では住民の高齢化が進んでしまっているんだろうなあと再読で変なことを思ってしまいました。
 最後の「見えない手の殺人」だけは、別にサラリーマンということでなくてもいい作品です。恋人の父親が倒れた現場から離れてしまったという一つの決断が、主人公をどんどん不幸な運命へと向かわせてしまう話。ラストは切なすぎます。
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いもうと  新潮社 
 30年ぶりに書かれた「ふたり」の続編です。といっても、「ふたり」は未読で、僕が知っているのは大林宜彦監督が赤川次郎さんの原作を映画化した「新尾道三部作」の一作としての「ふたり」です。「ふたり」では事故で亡くなった姉の千津子の幽霊が妹の実加の前に現れるというファンタジックな作品でしたが、残念ながら千津子の幽霊は今作では登場しませんし、ファンタジックなシーンもありません。そういう意味では期待外れでしたが、前作と同じく、その内容は実加の成長物語、前作から11年後の実加の姿を描いた彼女の成長物語です。
 父は浮気相手だった会社の同僚・内田祐子と暮らし、母は精神を病んで入院中。そんな母にかかってきた父からの電話の後、母は病院から失踪し、雨の公園で発見されたが、亡くなってしまう。それから数年が過ぎ、大学に進学せずに就職した実加は父と距離を置いていたが、ある日、祐子からの父が入院しているという電話で、入院先に行った実加は、父と祐子との間に女の子、自分の妹が生まれていることを知る。そんなとき、実加は会社で重要なプロジェクトのリーダーを押しつけられる・・・。
 物語は、重要なプロジェクトのリーダーとしてプロジェクトを成功裏に終わらせるために奮闘する中で、親友の悲恋やそして自分があれほど嫌っていたはずの妻子のいる男との恋などを経験し、女性として、そして一人の人間として生きる実加が、自分の前に立ちふさがる問題に逃げることなく立ち向かっていく様子が描かれていきます。大林監督の「ふたり」の雰囲気を期待していたファンにはちょっと物足りなかったと思いますが(実加は作家になるのかなあと僕自身は期待していたのですが。)、実加の今の姿に拍手です。 
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