medium 霊媒探偵城塚翡翠 ☆ | 講談社 |
この年末の「このミス」、「本格ミステリ・ベスト10」で第1位、「週刊文春ミステリーベスト10」で第5位を獲得した作品です。 主人公は二人。一人は推理作家としての推理能力を警察に買われ、数々の事件を解決してきた香月史郎。もう一人は若き美しき女性で霊媒師の城塚翡翠です。 香月は霊媒師に会うという後輩に頼まれ、同行した際に霊媒師である翡翠に初めて会います。その後、後輩が何者かによって殺害される事件が起き、その際に翡翠の霊媒師としての能力を間近に見ることとなります。それ以降、霊媒師としての翡翠の能力によってわかる事件の真相を、論理的で説得力のある説明を後付けで香月が加えることによって証拠能力を付与し、警察を事件の解決に導いていきます。 物語は3つの事件とその間に挟まれた“インタールード”からなり、この“インタールード”で巷で噂になっている“姿なき連続殺人鬼”の犯行が描かれます。最後はこの“姿なき連続殺人鬼”と翡翠との戦いが描かれることとなります。 インタールードⅠで叙述トリックではないミステリにはまずあり得ないある事実が描かれていたことから、連続殺人鬼の正体が推測できてしまいました(※)。更に話が進むうちに推測が確信となり、「このミス」や「本格ミステリ~」で第1位を取った割にはたいしたことないなあと思って読み進んだら、最終話でものの見事にうっちゃられました。これはやられましたねえ。こんな展開になるとはまったく想像できませんでした。翡翠のキャラがある意味非常にに魅力的です。続編を期待したいところですが、最終話であの展開では、続編は難しいでしょうか。 (ネタバレ) ※最初から殺人鬼の名前が明かされていたのですが、叙述ミステリならともかく普通は名前は出てこないもの。最初から明かされたということは、わかっても問題ないということで、そうなると、香月たちの話のパートでは違う名前で登場しているのではないか。それがおかしくないのはペンネームを使う作家ではないのか。つまり香月が連続殺人鬼ではないのかと考えました。 |
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invert 城塚翡翠倒叙集 ☆ | 講談社 |
霊媒探偵城塚翡翠シリーズ第2弾です。3編の中編が収録されていますが、題名どおりすべて倒叙形式、つまり最初に犯人が犯行を行う場面が描かれ、それから探偵役の翡翠が犯人の犯行を明らかにしていくという形をとっています。 霊媒の能力によって翡翠には犯人はわかるのですが、霊媒能力により犯人が分かると言っても、それでは誰も信じません。犯人の犯行を論理的に暴かなくてはなりませんが、それを前作では香月という人物が担っていました。今作には香月はもちろん登場することはできないため、翡翠自身が犯人の犯行を論理的に解明していくことになります。そうしたこともあってか、今回は“霊媒”であることはあまり強調されていません。 倒叙形式ですから読者には犯人は分かっているので、そのおもしろさは、犯人が完全犯罪だと思っているところに思わぬミスや穴があり、それを探偵、この作品でいえば翡翠が鮮やかに指摘することで、どれだけ読者を「あ!そうだったのか」と思わせることができるかにあります。 3編の犯人は、自分を虐げてきた社長を殺害するIT会社の社員(「雲上の晴れ間」)、盗撮映像をネタに脅迫をする盗撮犯を殺害する小学校の女性教師(「些末の審判」)、警察に自首するよう勧める部下を殺害する探偵事務所の所長(「信用ならない目撃者」)ですが、この中での一番の難敵は最後の探偵事務所の所長・雲野泰典であり、3編の中で「信用ならない目撃者」がストーリ的に一番おもしろかった作品です。ただ、難敵だと思っていたのは読者ばかりで、ふたを開けてみれば、雲野もそして読者も、すっかり翡翠の手のひらの上で踊らされていたという感じです。 相変わらず印象的なのは翡翠のキャラで、目を見張るような美女という見た目はもちろんですが、すぐ躓くとか、アニメのような言葉遣いは読者に強烈なインパクトを与えます。 |
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invertⅡ 覗き窓の死角 ☆ | 講談社 |
『invert 城塚翡翠倒叙集』に続く、城塚翡翠が犯行トリックを解明する倒叙ミステリ第2弾です。2編が収録されています。 夏木蒼汰は誰もいないはずの友人・悠斗の別荘で過ごしていたが、悠斗の母親が現れ、見つかってもみ合いとなり、ふと気が付くと横には悠斗の母親の死体が横たわっていた。自分が殺害してしまったと慌てるところに、豪雨の中、車が故障して動かなくなった城塚翡翠と千和崎真が助けを求め現れる。別荘の住人を装い翡翠たちを迎え入れる蒼汰であったが・・・(「生者の言伝」)。 写真家の江刺詢子は、妹を自殺に追いやったモデルの藤島花音を復讐のために殺害する。その彼女のアリバイを証言したのが、2週間前に偶然カフェで知り合い殺害時刻とされる時間に写真撮影のモデルになっていた城塚翡翠。友人になれると思っていた詢子が藤島殺害の容疑者に浮かび上がり、翡翠は警察からの詢子のアリバイ崩しの要請に悩みながらも真実を追求する・・・(「覗き窓ファインダーの死角」)。 これを読んでいる時にはテレビドラマで「霊媒探偵・城塚翡翠」が放映されており、城塚翡翠を演じる清原果耶さんが意外にイメージに合っていて、つい読書中も彼女の顔が浮かんできました。倒叙ミステリで犯人はわかっているのですから、そのおもしろさは、翡翠が犯人が気づいていないミスを指摘して犯行を明らかにするところにあるのですが、冒頭の「生者の言伝」は、少年も気づいていなかった思わぬ展開になります。これって倒叙ミステリといえるのでしょうか。 犯人が男だと翡翠の美しさに目を奪われてミスを犯しがちになりますが(「生者の言伝」の悠斗くんなんて、もうメロメロでしたね。)、これが同姓となると翡翠の態度があざといとか、男に媚びを売っているとかと嫌いになりがちで、対決相手には相応しいかもしれません。とはいえ、友達の少ない翡翠にとって大好きなミステリの話題で意気投合した詢子は真同様大切な存在であったでしょうから、詢子との戦いは相当きつかったことでしょう。 この作品では、翡翠が幼少時に両親を亡くしており、義父のもとで15歳まで海外で育つという生い立ちが少しだけ明らかになります。また、弟のこととか、警察の諏訪間との関係のこととかは次回のお楽しみでしょうか。 |
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