落語とミステリといえば、思い浮かぶのは北村薫さんの「空飛ぶ馬」を始めとする“私と円紫さんシリーズ”、大倉崇裕さんの「三人目の幽霊」を始めとする落語雑誌の編集者が主人公のシリーズですが、この作品は探偵役が2人いるという贅沢な作品です。
一人は脳血栓で倒れ、体が不自由な山桜亭馬春。この人が安楽椅子探偵として謎を解くのですが、解くといってもこの安楽椅子探偵はちょっとへそ曲がり。素直に真相は話さず、判じ物めいたいくつかの言葉を言うだけ。この言葉から真相を明らかにするのがもう一人の探偵役、馬春の弟子の寿笑亭福の助の役目となります。そこに福の助の妻・亮子が加わって話が進むという格好になっています。
収録されている話は、脳梗塞で意識不明の落語家に殺人の疑いがかかる「道具屋殺人事件」、弟弟子が交際していた女性が行方不明となり弟弟子に殺人の疑いがかかる「らくだのサゲ」、犯罪の疑いがかかった亮子の同僚教師がその日聞いたと言った噺は誰も演じていなかったという「勘定板の亀吉」の3編です。さらに、それらの事件とともに福の助に降りかかる兄弟子の嫌がらせによる無理難題を福の助がどうやって解決するかも描かれます。この辺りが普通のミステリではなく、落語ミステリらしいところです。単に落語家が謎を解くということだけでなく、落語ならではの事実に関連しながら謎を解いていくという趣向がおもしろく、落語を聞いていない僕も一度落語を聞いてみたいなと思ってしまいます。
落語家の妻になってまだ4年の素人に近い亮子を登場させ、彼女に説明し、彼女の視点で落語を語らせることによって、落語を知らない人でも十分楽しめる1作になっています。 |