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阿部智里の本棚

  1. 発現

発現  NHK出版 
 大学生の村岡さつきはある日、幼い姪のあやねが1人で大学にいる彼女を訪ねてきたと職員に呼び出されびっくりする。あやねはさつきに兄の大樹と義姉が喧嘩をしているのを仲直りさせてほしいと考えてさつきを訪ねてきたと言う。そんな娘を探しに来た義姉はすっかりやつれ果てていた。しばらくした日、義姉から兄のカバンの中にあった薬について問いただしたら諍いになって兄が家を飛び出してしまったと電話が入る。それと同時に兄から義姉と喧嘩をしてタクシーで実家に向かっているという電話が入る。やってきた兄の顔を見たさつきは幼い頃精神に異常をきたして自殺をした母親とそっくりの表情をしていることに気づく・・・。
 物語は現在(平成30年)と過去(昭和40年)の話が交互に語られながら進んでいきます。現在のパートでは他人に見えない恐ろしいものが見えてしまい、精神的に不安定になってしまった兄の大樹と、やがて自分にもそれが見えるようになってしまう妹のさつき、そして二人を守ろうとする父親の村岡家を描き、過去のパートでは幸せに暮らしていたはずの兄が突然自殺したという連絡を受けた弟の省吾が、兄の死の真相を探るために兄の知人を訪ねていく様子を描きます。
 初めて読む阿部智里さんの作品です。本の紹介で読んだ「平成と昭和、二つの時代で起こった不可解な事件。真相を求めて近づこうとする者たちを嘲笑うかのように謎は深まり続け・・・」という点からミステリーだと思って読み始めたのですが、次第にその展開はホラーの方へと傾いてきます。ミステリーとしての部分は、省吾の兄が戦時中の満州でソ連から逃れる中で起きた住民殺害事件の真実でしょうか。しかし、真実は想像できてしまいますし、ホラーとしての話の筋も見えてきてしまいます。ラストの落としどころは個人的にはすっきりしません。 
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