ダンス・オブ・ヴァンパイア 


                           
【後編】
         

                                  帝国劇場 7日 1階 S席 H列
                                         8日 2階 S席 B列


                                               

                        当日のキャスト


   クロロック伯爵 山口祐一郎  アブロンシウス教授 市村正親  ヘルベルト 吉野圭吾
   (7日マチネ) 助手アルフレート 浦井健治   サラ 剱持たまき
   (8日マチネ) 助手アルフレート 泉見洋平   サラ 大塚ちひろ  
   シャガール 佐藤正宏   シャガールの女房レベッカ  阿知波悟美
   女中マグダ 宮本裕子   クコール 駒田 一
    
   ダンス・伯爵の化身 新上裕也   ダンス・サラの化身 加賀谷 香 

2006年7月7日(金) 8日(土)マチネ

「ダンス・オブ・ヴァンパイア」 観劇日記の後編です。
前編同様に、ストーリー紹介も兼ねての説明部分が多くなっております。
ネタバレもありますのでご注意のほど。


                                               前編はこちら



(2幕の前にひと言)


この演目、今回レポの対象にした日以降、7月下旬と8月下旬で合計5回観たのですが、
こまかい演技は、観るたびにかなり変わっていたように思います。
改善されている部分も多いのですが、個人的には7月下旬の舞台はちょっとした欲が
出てきた時期なのかなという印象を受けました。


たとえば1幕終わりに教授が伯爵に名刺を渡すのに、トランプマジックみたいに
手の裏からパシッと出したので、かえってお客様の笑いが取れなかったり。
(これは8月下旬には、手を震わせながら渡す演技になっていました。)


教授にかぎらず、ウケるとついついノリが良くなってその結果内輪ウケになったり
やりすぎて笑えなかったり。
公演期間の後半になるほどリピーターが増えてくるし、常に笑いを取るというのは
ホントに難しいことですね〜。
そういう意味では、四季のCFYのようにアドリブ一切無しで、新鮮な笑いに挑戦する姿勢も
高く評価しないといけないのではないかと改めて思った次第です。


ただ、これは初演ならではの手探りの雰囲気ゆえでしょうし、
進化の過程といえるのかもしれません。



・・と、ひと言にしては長めになった前置きは以上です。 失礼いたしました。 



では、あらためて 後編をどうぞ(^^)。





第2幕


始まる直前、オケピにライトが当たってここで初めて指揮者の
西野淳さんから一礼のご挨拶がありました。



愛のデュエット

青いライトが当たる舞台の中央には螺旋階段。
上空には、古い額縁入りの肖像画(?)が何枚も吊され、中世の貴族らしい衣装を
身につけた男女の荘厳なコーラス。 パンフによればこれはご先祖さまみたい。
肖像画から抜け出してきた幻影、それとも歴代のヴァンパイアという設定なのでしょうか。


上手から白い部屋着に赤いニットのストール(?)を羽織ったサラが、一人で歩いてきて
不安と自由への想いを歌いだしました。
でも、「なりたい自由な女に」 とか 「いけないことでも してみたい」 なんて
夏休みでもあるし、青少年育成の補導員さんやPTAが飛んできそうなフレーズですな。
ホントにサラって刹那的というか無防備で、好奇心が旺盛な少女Aなのね(古い☆)。


余談ですが、海外版の舞台ではサラの赤いブーツに魔力があって、
履いたとたんに伯爵の言いなりになっちゃう・・という演出もあると聞きましたが、
日本版でもそのへんがもっと明瞭にされると、どうして先に靴が届いたのか?という
疑問が解消されそうな気がします。
特に欧米の意識では、靴はセクシュアルな意味合いが高いようですし、
少女に与えられる赤いブーツは、「失われる純潔」 を表してるんでしょうね多分。




あたしを呼ぶのは誰?


サラの声に応えるように
螺旋階段の最上部、逆光のライトにひとつのシルエットが浮かび上がります。


不安と期待にふるえる魂を呼び寄せる黒い影。
誘惑と欲望、知ってはいけない世界の象徴である伯爵は、燕尾服に黒マント姿で
憎らしいほど甘い声で歌うんですよこれがまた(笑)。


闇の海に沈もう 
時を忘れるのだこのまま


歌いながら下りてくる伯爵と、階段を昇りはじめるサラ。
中央の踊り場で向き合う二人ですが、微笑みながら見つめる伯爵の表情が優しい〜。


彼女の肩に手を添えて、キスしそうな至近距離に唇を寄せ、そのまま
首筋へ顔を近づけて・・・咬みつくのかと思ったら、ハッとしたようにあわてて顔を離して
「いけない 理性を持て」。


あわてると楽しみが減るってことらしいです。 こういう時は理性が出てくるんですね(笑)。


それでも気を抜くと、首筋に吸い寄せられそうになって、あ、いやいやダメダメって、
キスを待つように目を閉じてうっとり立つサラと対照的に、伯爵がジタバタして
自分と闘ってる姿に笑いが起こります。 ホントにもう2枚目なんだか3枚目なんだか☆


こういう場面は原作映画にはありませんでしたから (映画では風呂場で
すでに咬んじゃってますし)、ミュージカル版だけの味つけが楽しいわ〜♪


さて、この後が1階席と2階席ではちょこっと見え方が違っていたところ。
「明日こそ この娘に 永遠の命をやろう」 と、歌いながら山口さんが左手を高く上げて
長いマントの陰にサラをすっぽりと隠すようにします。
あの身長&腕の長さですから、ただ目の前に立っているだけの女性をお客様の
視野からさえぎるのは簡単だと思うのですが、8日に2階席から見たときは、
山口さんが、確実にマントに包み込む動作をされているのがわかりました。


歌い終わりあたりになると、山口さんが大塚さんの肩に手を添えて
そっと客席に背を向けるように向きを変えてやり、大塚さんはそのまま
山口さんの胸にもたれかかって、ぴったりと身体をくっつけるように立ちました。
うーむ、まさに寄らば大樹の陰(爆)。



それにしても、このマントですっぽりくるむという動作は、なかなか良いですね。
オペラ座の怪人でもこれ、採用して欲しかったな〜。
・・と、ここまで書いて思い出しましたが、一応 「ミラー」 はこういう場面なのかな?
それにしてはさらっとしてるのは、ウェバー版のあのタイミングでは、
ファントムが鏡の中に引き込む動作があまりに早くなるからでしょうか☆



夜を感じろ

螺旋階段が下がって、舞台のお盆が回転、雷鳴が遠くに聞こえる中
天蓋つきの白いベッドが現れます。
並んで寝ているのは教授とアルフレート。


天蓋の上に現れるのが、男性のヴァンパイア。
パンフによると松澤さんと、水野さんだそうです。
水野さんはたしか 「ファンタスティックス」 で印象的なダンスを踊った方ですね。
人数を男女4人に増やしながらロックテイストで、かなり激しいシャウトを交えつつ
「夜を感じろ Feel the night」 と、疾走感たっぷりなナンバーでした。
ただ音が大きすぎるのか歌詞がよく聞き取れない部分もあり、全体の意味は
今ひとつわからず。


天蓋の天井から、白い壁の隙間から、ベッドの下からも、わらわらと湧いてくる
黒い衣装のヴァンパイアダンサー達。 服装はパンタロンだったりスカートだったり、
ブラウスありタンクトップありと少しずつ違いました。
ただいずれも長い爪に牙をつけての、悪魔的なダンスが凄い迫力。


最初はよくわからなかったのですが、これはアルフレートが見ている悪夢という
設定みたい。


そのうち、アルフ自身に似た若い男性ダンサーと、サラの化身、そしてクロロック伯爵の
化身と思われるダンサーさんとの三つ巴になりました。
このアルフの化身をやっている東山さんは、「エリザベート」トートダンサーとして、
ゾフィの死の場面で上手側に出てくる 「死」 でしたよね。
特別端正な横顔に見覚えがありました。


クロロックの化身役の新上裕也さんは、私はそちら方面に全くうとくて
申し訳ないのですが、ダンサーとしてとても有名な方だそうです。
パンフレットの略歴を見ると、今年39歳!激しいダンスを拝見すると、とてもとても
そんな年齢は感じられません。


細い身体をしならせて踊るうちに、アルフの化身はヴァンパイアの餌食になって
しまいます。サラが嘆く動作があったりして、そのままになるかと思いきや、
歌のシャウトに合わせて復活、激しくクロロックの化身と闘う流れになり。


実際のアルフはベッドの上で苦しそうに、うなされていました。


やがて、ご先祖達が舞台に登場、「逃げろ逃げきれ 奪われるな夢を」
綺麗なコーラスの中で悪夢が去っていきます。


このときヴァンパイア達が、天井や壁のしみに溶け込むようにいなくなる雰囲気が、
こわい夢の去り際をリアルに表現していたと思います。
ラストは暗い中でアルフが寝返りを打ち、横になったままで
胸元に掲げた十字架に、ひと筋の光が当たるという、宗教的な印象になっていました。



ただ、ご先祖とヴァンパイアの関係がよくわかりませんなあ。
それと天蓋の上にある飾りはなんだろう? ミニサボテンか、半分むいたバナナに
見えるけど、お城の主の好物にひっかけてあるわけじゃ・・ないですよねスミマセン☆



今日は完璧

ニワトリが鳴いて、朝。
クコールが下手から、お茶と食事を乗せたワゴンを押してきました。
ホテルマンよろしく腕に白いナプキンをかけて、スープのようなものを器についで
胡椒入れをカリカリ回したり、甲斐甲斐しいクコールが可愛い。
ちゃんとベッドメイクなどもしてくれて、真面目なサービスぶりが素敵です♪ 


原作映画でもクコールが食事の世話をしますが、いかにもイヤイヤやっている
感じですし、アルフを呼ぶ代わりにお尻をけとばしたりする場面もありますから、
舞台版クコールはずいぶんと性格の良い設定になっているようですね。


でもアルフレートが 「今日は完璧な日 なにか良いことが起こりそう」 と歌いつつ、
ワゴンの朝食を見て、「これはどこから?」 もしかしてサラ?と勘違い。
うしろでクコールが 「え?準備したのオレ・・」 と、自分を指さすので
お客様にウケておりました。
ナプキンを口にくわえて 「うわーん」 と泣きながら走り去るクコール(笑)。
セリフなしで、これだけ色々な雰囲気が出せる駒田さんは、ホントにスゴイ☆


やっと起きてきたアブロンシウス教授。
アルフレートに手伝わせながら、洋服を着替えます。なんだか市村さんは
この舞台で、服を着たり脱いだり忙しいですね〜。
紅茶も頂いて、今日は霊廟探索にもってこいの日だ、さあ行くぞ〜と張り切って、
二人が欽ちゃんみたいなツーステップで去っていくのが可笑しかったな〜。



霊廟

盆が回転して現れるのは、ドクロの飾りがついた石の棺桶が2つある暗い場所。
上手から、クコールが木製とおぼしき棺桶を背中にかついでやってきます。
つまづいて棺桶の下敷きになったり(笑)しながら、結局それを下手側に置いて
去っていくクコール。


そこへ奥から棺桶よりも高い場所に現れる二人は、城を探検しながらやっと、
霊廟にたどり着いたという設定みたいですね。
「もっと、ここが明るければ良いのに」 とか、アルフは弱音を吐いたりしていますが、
教授はついに霊廟と棺桶を見つけて大喜び。


「さあ、行け」 と指示された泉見さん 「あは?」 「あは?じゃない!」(笑)って
教授に叱られるアドリブが可笑しかった。
しぶしぶ下りていくアルフに教授が文句を言いながら 「大丈夫か?」 ってたまに
優しい声をかけるのが不思議に笑えます☆


「私も行くぞ!」 と言う教授を止める泉見アルフは 「だめです、だめ〜!」 だったのに
浦井アルフは 「うわ〜うわ〜!ひぃ〜!」 って、自分が飛び降りるみたいに
泣き声を出して大さわぎしていましたっけ。


さて自分も飛び降りようとしたら、どこかに引っかかって、宙づりになる教授。
このへんはほとんどコントの世界です。
宙づりになった教授を引っぱっても、靴が脱げてしまうだけなので、
教授が仕方なくアルフレートに命じます 「ひとりでやれ。」
でも、宙づりになったまま、この 「ひとりでやれ」 を靴の脱げた足をL字に曲げて
指し示す動作がえらく可笑しかったな〜。


浦井アルフ、ここでも泣き声でひぃひぃ言ってます。もしかしてヒヨドリですかあなたは(笑)。


「シャガールの娘がどうなってもいいのか?」 の言葉に意を決して、アルフが恐る恐る
棺桶のフタをあけると、それぞれ伯爵と息子が寝ている模様。
(実際には中は観客には見えないようになっていますが)
この棺桶を覗くときの 「ジャジャーン」 という効果音が、いかにもホラー映画っぽいので
アルフレートと一緒に観客もドキドキ。


このチャンスに、アルフに杭で伯爵の胸を打つように言いますが、やっぱり
「1、2 の 3!」 「3!」、「できませ〜ん(涙)」 でリタイア☆


市村さんが 「情けない、嘆かわしい、だらしがない、たるんでる!」 と文句言い放題。
しまいに舌がもつれて 「私をさっさと◎×〜☆(笑)」 って、なってました。
仕方なく、いったん引き揚げる二人。


だれもいなくなったら、木製の棺桶がごとごと動き出してシャガールとマクダが登場。
血を吸ったことをなじるマグダにシャガールが皮肉たっぷりに歌います。
「血でなきゃ金か女 人間だって同じこと 吸うか吸われるかだ」
マグダも踊り出して、とっても楽しそう。 
欲望の世界に堕ちてしまったけど、この二人はそれなりに幸せなんですね。 


そのうち、クコールが来てさっさと棺桶に戻るようにせかしますが、
フタをしても中で歌っているので、腹を立てたクコールが棺桶を上手袖に放り投げます。
「ガラガラドターン」と転げ落ちる音がして、クコールのガッツポーズで拍手&暗転。



本だ!

セットが変わって、天井まで本棚がある図書館に。 
エリザベートで見たような、巨大な本も積んであります。
下手から出てくる教授とアルフ。
教授が 「本だ 本だ!」 学者らしい狂喜乱舞して、また早口で歌い出すのがスゴイ。
「♪アリストテレス、そしてソクラテス、アルキメデス・・」
古今東西の学者のものすごい羅列で、またまた市村さんの器用さに感動☆


「そんなことよりサラを探さないと・・」 と訴えるアルフですが、教授はもう本に夢中。
そのうち、サラのテーマ曲とお風呂で歌ういつもの声が 「アーァ〜♪」


セットが回転して、小さなお風呂場らしきものとカーテンが登場しました。
カーテンが開くとちょうどサラが入浴中。
「サラ!」 喜ぶアルフだけど、サラの方は 「ああ、あんた。」 って、
名前も呼んでもらえないのねアルフ君(涙)。


全体を通して、剱持サラより大塚サラの方がアルフをちらりと見て溜息をついたり、
心底うっとうしそうなのがツボです☆
実はサラは赤いドレスを伯爵からプレゼントされており、今夜それを着て舞踏会で
踊ることで頭がいっぱい。 
お風呂はもちろん、大人の男性からの 「金銀パール・お洋服プレゼント作戦」 は
若い女の子には刺激が強すぎますよね。
同じ女性として、ここらへんの愚かしさはホント耳が痛いわ〜(笑)



Fur sarah

悄然とひとり前方に出てくるアルフレート。  ピンスポットが当たる中、サラへの想いを
切々と歌うナンバーですが、パンフレットには、日本版の曲名が出ていません。
ウイーン版CDでは 「Fur sarah」 となっています。


この愛だけが 真実。 僕のすべてを捧げよう。 


どうしてアルフレートがあの程度のふれあいで、こんなにサラ命!になっちゃったのか
不思議な気もしますが、これも一目惚れの魔法というヤツなのでしょうね。
悪夢にも表現されるように、眠っていた強い自分を目覚めさせるきっかけだったのかも。
泉見アルフも浦井アルフもここは、ホントに熱唱という感じで良かったです。
特に、浦井さんは歌や表現が上達なさったなあとつくづく感心しました。



恋をしているのなら

また、セットが回転して図書館に戻ってきましたが
教授の本の歌はまだ終わってなかったのですね。 まだ歌ってます。


「これからどうすれば良いんでしょう?」
「本があらゆる疑問に答えてくれる!」 という教授にならって、アルフがふと手に取る
本は 「恋愛入門」。・・・ヴァンパイア退治じゃないんかい(笑)。



またサラのお風呂のテーマソングが聞こえますが、なんだか声が違う。

「ホーォ〜♪」

狼の遠吠えみたいな声にお客様も笑ってます。
正面に回ってきたのは先ほどと同じ風呂場ですが、カーテンがあくと
浴槽には、黒いフリルブラウス1枚のヘルベルト☆
たしか風呂桶のフチに腰掛けて、スポンジで足をこすっていましたっけ。
(日によっては歯をみがいていたり、小さなスポンジで小鼻をお手入れしている事も
あったそうです。 公演の後半には、ウサギのぬいぐるみと混浴中という回も。)


失礼しました!と逃げだそうとするアルフに、 「待って。」 優しく声をかけるヘルベルト。
「僕たち、友達になるべきだって思うんだ」 の最後の 「だーー」で意味ありげ〜な
流し目をするので、ヘビににらまれたカエル状態のアルフレート。
浦井さんがニコニコしながらも、ひきつっている表情が可笑しかったのですが、
吉野さんの黒のTバックはさらに衝撃☆ 裸足で肌の綺麗なお尻も露わに迫ります。


さっき、本を読みながらアルフが歌ったのと同じワルツなのに、ヘルベルトが
歌うとその優しさがコワイ。 「二人で踊れば パラダイスさ〜♪」
いやがっているはずのアルフが、つい手を取りあって踊るので客席から笑いが。


ヘルベルトも 「あはは、あはは、上手〜」 「見て〜」 と言いつつ華麗にジャンプ(笑)
このフレーズは 「見て〜パラダ〜イス」 と言っていた日もありました。
(8月下旬は 「いいわ、いいわ、優しくしないで〜」 だったので、客席大爆笑)


ここで、素早く吉野さんが牙を装着するスマートさはうまい! 
咬まれそうになったアルフが客席通路に下りて、逃げたと思ったら、
ぐる〜っと回って、また同じ所に戻って来てしまうというのは
原作映画をほぼそのまま取り入れているコメディ場面。
ここはなんといっても、浦井アルフがひぃひぃ言いっぱなしなのが最高に可笑しいです。


再び襲われるアルフレートですが、間一髪、教授が助けてくれました。
でも十字架でヘルベルトを追い払ってから、あきれた教授がへろへろのアルフにひと言。
「女に振られたからって、今度は男か?!(笑)」 



城の最上階に上がりながら、ヘルベルトが鏡に映らなかった話をするアルフ。
原作映画で、二人が城の上に昇るといつのまにかクロロックが後ろにいる
という場面がありましたが・・・。


星空を見上げて、オリオン座より素晴らしいのは人間の頭脳だと断言する教授。
「でも、ここは安全なんでしょうか?」 おびえるアルフレートに
「死ぬほど安全だ」 と教授が言った途端に、どどーんという効果音とともに
こうもり型クレーンが上空に再度登場! 伯爵さま、完全に空中浮遊です〜〜☆☆


しかしここ、ワンタッチ傘みたく、こうもり羽が広がるところは笑えるのですが
伯爵が首だけ動かして歌うのが、SFXみたいでホントにちょっと怖かったです。
あの手を動かないように押さえると、ああなるんだ〜と、納得。
やっぱり、完全にじっとして歌うのは無理なのですね山口さん。



永遠


これは墓場なのでしょうか。 10個近く置かれた棺桶から手がでて、フタがあいて
中から死者が出てきます。 これは、ご先祖さまとはまた違うのかな?
ボレロ風の音楽で歌うのですけど、ここはどうしても 「水戸黄門」 テーマソングに
聞こえるという方が多いのではないでしょうか。


ゾンビというか、古くからのヴァンパイアというべきか、「殺せ殺せ」と歌い踊る
こういうシーンはいかにも夏向きというか、納涼大会ですね〜。
思わず 「死霊の盆踊り」 っていう映画を思い出したりして☆


ナンバーの終わりで、ヴァンパイア達は客席通路を下りて去って行きます。
途中で、お客様を脅かしたり悲鳴があがるのもホラーっぽくて面白いわ〜。
でもこれ、小さな子供さんだったらナマハゲ状態でもう大泣きかも☆



抑えがたい欲望

誰もいなくなった墓地。
暗くなる中で、ひとり現れるクロロック。 燕尾服に黒の長いマント。


クロロックの深い心情を歌う 「独白」 ともいうべき大ソロ・ナンバーです。
パンフレットにも歌詞の全文が掲載されていました。


過去の愛の思い出に浸っても、必ず同時に彼を襲う喪失感。
ヴァンパイアという宿命への嫌悪を感じつつ、それでも抑えられない渇望と欲望。
クンツェ氏の原詩とは多少変わっているのかもしれませんが、「エリザベート」の
「夜のボート」 に感じられる、詩的で哲学的なニュアンスにあふれた曲ですね。



「遠い夏 あれはたしか1617年・・」 うん、そうそう間違いないって、思い出して
微笑みを浮かべたり、愛する女性を手にかける魔物の本性をあらわしたり、
顔も声も表情が変わっていくところが、ホントに素晴らしいです。



この原曲はジム・スタインマン氏が他の歌手に書いてヒットした曲だそうですが、
過剰なまでのセンチメンタリズム、美しさ、そして忘れちゃならない80年代らしい
甘美な古くささが麻薬のごとく感じられる名曲だと思います。
この場面の為に新しく書かれたものではないというのに驚きます。


途中から登場する新上さんのダンス・ソロも舞台の奥で同時進行。
伯爵の化身、もしくは影として、彼の内面を表現しているようです。


うーん面白い演出だとは思うけれど、私自身がコンテンポラリーダンスが
あまり得意じゃないせいもありますが、舞台の2点を同時に見ると
どうしても気が散ってしまうのが、ちと残念だったかな。
ウイーン版でもこんな風に、一緒に登場するのでしょうか。


これって歌と同時に踊るんじゃなくて、完全に静と動を分けたらどうだったのかなあ?
たとえば、歌の間奏に化身が踊る間は、伯爵を照らすライトが落ちて
伯爵が動かないシルエットになる。
で、伯爵が歌う時には化身の方がシルエットになって、動きを極力少なくする・・とか。
ただ同時進行だからこそ、表現できることもあったのでしょうし。 難しいですね〜。



伯爵は、ナンバーの途中で石棺のあたりに腰掛け、じっくりと
長い独白を歌で語り続けます。



誰にも理解されない孤高の存在。 
幸せや愛への希望を持ったこともある、しかしそれは決して叶えられず、
永遠に続く絶望でしかない。


世界が終わっても、残るのは欲望だけだと歌う部分 「欲望の 海」  
この 「海」 を発音するときの山口さんの優しい声と、
暗喩としての 「海」 の詩的イメージの重なりの美しいこと。



哀愁と苦悩の表現はときに切なく、ときには怒りを含んで。


ここで1幕のソロで一瞬、クロロックはトートに似てるかもという考えが浮かんだのを
思い出し、あらためて両者の違いを感じました。 


不死の存在であるクロロックと、死そのものであるトート。


山口さんのトートが愛に苦悩しないのは、やっぱり愛=生=死であって
自分が自然の営みの一部であることを知っているからじゃないでしょうか。
だから、彼が与える死は愛と似ているんですよね。


対するクロロックの苦悩は愛もなく死もない、相対的に生の喜びもない。
よりどころになるのは、長い退屈をまぎらわす刺激と破壊の欲求だけ。


だれもが不死に憧れるのに、愛を得られなければその不死だって一種の拷問に等しく。
考えてみれば、ここが死そのものである、トートとの一番の違いなのかもしれません。




コメディといいながら、クンツェ流のこういう哲学的とも言える暗さは
いかにもヨーロッパ的で、アンニュイって何のこと?と言いかねないアメリカ気質では
やっぱりウケなかったところなのかなあと思ったり。
(もっとも、ブロードウェイ版の不成功は演出家にもよるかもしれませんし、
 ウイーン版CDでもクロロックを演じているスティーブ・バートン氏の急死がなかったら
 アメリカでの結果もまた違っていたのかもしれませんが。)


クロロックには自然の恵みである 「死」 は来ず、歌詞にもあるように
天使にも悪魔にもなれない。
人類始まって以来の蔵書が何万冊もあって、この世の全ての疑問に答えられても、
自分の存在の疑問には答えられない。



愛を得ないまま永遠に生きる悲しみ。
人間じゃないものに変わってしまった自分への憐れみ。
切ない思いが声の中に伝わって来て、聞いているうちに涙が出てきました。


「今こそ ここで 予言をしよう」 の時に微笑む伯爵の表情は
もうなんとも言えません。 



「尽きない欲望こそが 最後の神になるのだ」


この歌詞のラストをロングトーンで聞かせて下さいます。 
ショーストップになりそうな大拍手の中、歌い終えて、しばし固く目を閉じている伯爵。



鐘が鳴り、それに気づいたようにマントを揺らして伯爵が去って行きました。
上手からこっそり登場する教授とアルフ。
ここで市村さんが小さく拍手するのが、もう最高です。
うんうん、ホント敵ながらあっぱれって気持ちになりますよね〜☆



舞踏の間

薄い幕が降りて、向こうにうっすらと燭台の明かりが動くのが見えてきます。
クコールが舞踏会の準備をしているのですね。
よーく見ると、クコールもタテロールのカツラをかぶっておめかししてるんです。しかも
そのカツラから、バネみたいなのが伸びてコウモリがくっついてフワフワ飛んでました。
公式ブログですっかり有名になったリー君も、ちゃんとご出演というわけで、
ご苦労さまでございます。


「永遠」の伴奏に合わせて、通り過ぎるヴァンパイア2人の頭をなぐって気絶させ、
衣装を奪って、舞踏会に潜り込む教授とアルフレート。


マントなしで黒の燕尾服姿の伯爵が螺旋階段に現れました。
この衣装、上着前面と袖に銀糸で豪華な刺繍がほどこされておりまして、
まるで 「ベルサイユのばら」 みたいなあでやかさ。
(そういえば、マンガでオスカルがジェローデルとの結婚話を蹴散らすために
パーティを開く場面がありますが、あのときにオスカルが父から
「なんだ、そのすばらしい格好は」って言われる衣装に似てますよね・・。
って、読んでない方には全くわからない表現でごめんなさい。)


「楽しもう 舞踏会だ」 の最後が 「だぁああ」 って山口さんが悪人声を
出すところが面白いな〜。 あれ、なにげなくやってるけど、歌の最後にああいう声を
継ぎ目なく出すのは、とっても難しいのではないでしょうか。



いよいよ今夜の生け贄の登場です。
赤いドレスが美しいサラ。 
剱持サラのドレス姿は、ウエストが細くてシルエットがホントに綺麗。
大塚さんは剱持さんに比べると、ぽっちゃりしてるけど、こちらは若さがリアルで
それぞれ別の意味で輝くような美しさがありました。


ダンスの合間に伯爵がダンサーさんの後ろに隠れて、向こうを向いています。
山口さんが衣装の胸元から牙を出して装着するのが、2階からだと
しっかり見えるので、これはなぜかちょっとお得感が(笑)。


こちらに向き直ったら、口を大きく開けて牙をお客様に見せる伯爵。
その後の手順は以下の通りでした。


1.正面を向いて陶酔状態になっている、サラの真後ろに立って
2.赤いドレスのウエストに両手をかけて身体を固定し、
3.彼女の右の首筋にガブリ。


7月下旬に見た時は、サラの右手を掴むという動作も入っていたようですから
これはあくまで初期の基本形だったのかもしれません。


ただ、3回観劇したうちの2回目だったかな、剱持サラの細いウエストに
両手を回して咬みついてから、もう一度山口さんの両手に力が入って
ぐっとさらに深く抱き寄せたのは、なんだか妙にエロティックでしたね〜。



メヌエット

舞踏会が始まって、ヴァンパイア達が踊り出します。
教授とアルフレートも端っこで踊っていますが、ヘルベルトには気づかれているみたい。
アルフはサラに 「一緒に逃げよう」 と話しかけ、教授の指示でサラを鏡の前へ。


大きな鏡が上から下りてきますが、実際には鏡ではなく黒っぽい薄い布か網を
張ったものだと思います。
3人だけが鏡に映っていることを表現するために、鏡の向こうにダミーがいて
教授達と同じ動作をしています。


伯爵はじめヴァンパイア達が襲いかかろうとした瞬間に、背の高い燭台を
十字架の形にして、逃げ出す3人。 
悲鳴をあげる伯爵の声が、まるで銭湯か鍾乳洞かというスゴいエコーで笑えました。
それでも初回は、 「どけろ早く、やつらを追え〜」 って言ってるのかなあと思いましたが、
2回目は、うわんうわんしてて、全くわからず☆



荒野2

雪の荒野を3人が逃げるシーン。 1幕の荒野と同じような感じかな。 
教授とアルフとサラらしき姿が舞台の奥を走ります。 これもダミーでしょうか。
「美女と野獣」みたいなオオカミ人間登場で、クコールがやられちゃうシーンもありました。


ここだけ見ると、どうしてクコールが?って感じもありますが、原作映画では
物語の前半でクコールは狼を殺して血を吸うので、仕返しされたんだなあと
わかるようになっていますから、日本版はここちょっと説明不足の感もあるような。
(しかも狼シーンが影絵みたいなので、初見でクコールの最期の意味がわからなかった
 お客様も多かったかも。)



外は自由・リプライズ

ようやく逃げ切って、1幕冒頭の場所までたどりついた3人。
教授は早速メモ帳を取り出して、例のかまくらで研究成果を書き留めています。
しかし、ホッとしたのもつかのま、サラにいつのまにか牙が生えて、
アルフの首に咬みついてしまいます。


倒れたアルフがむくっと起きあがり、指についたものを見て、呆然としながら
「何?」 「血よ、舐めてみて。」 とサラに勧められてペロリ。 
「・・悪くないねぇ。」 を、泉見さんは邪悪な雰囲気で言うのですが
浦井さんてば 「うん、悪くないね。カフェラテも。」 ぐらいの普通さだったけど、
あれは演出的にOKだったのかなあ。 
いかにも天然っぽい浦井さんらしくて、個人的には好きでしたけども。



フィナーレ

やがて流れてきた音楽に、教授が意気揚々と
「我らの勝利だ 理論の正しさが証明された」 と歌うのですけど、
何も知らないのは教授だけ。
観客にはこれが的はずれな勝利宣言であることがわかるわけですね。


客席に下りていく3人に変わって、
赤いライトに照らされた舞台に、ヴァンパイア達がどんどん登場して歌い踊ります。
昔のテレビドラマ 「ヤヌスの鏡」 でも使われた曲が懐かしい〜。
カーテンコールを兼ねて、この物語のその先を表現するこのフィナーレは
世界全部がいずれヴァンパイアになるというオチなのですね。



原作映画では、ソリにヴァンパイアになったサラとアルフを乗せたまま
走り去っていく教授の姿に重ねて
「教授のおかげで、世界に悪鬼が満ちることになった。」 というような
ナレーションが入ります。


でも、こちらは説明は一切無し。 ナンバーの最後に、 「べー」 って舌を出した
クロロック伯爵の巨大な垂れ幕が下がって、いかにもブラックなフィニッシュ。



パワフルに、ロックテイストのまま、紙吹雪をまき散らしながら
教授以外の全員がヴァンパイアになってダンスダンスダンス!って感じ。
さらに 7月下旬に観劇したときは、山口さん自ら1階席、2階席それぞれに
「Stand up!」 の無言の指示をなさって、お客様も総立ちでした。



指揮の西野さんもこちらを向いたら、パワーショベルみたいな
特大の牙をつけていたので、お客様に大ウケ☆ 最後まで楽しませてくれますね〜。




結局のところ  「ダンス・オブ・ヴァンパイア」 とは、
単なるお城の舞踏会じゃなく、いずれ世界中を満たす血と破壊と欲望の饗宴。
搾取と暴力、戦争とか色々なものを含めた、この世の終焉なんだなあと思いました。



「エリザベート」 もハプスブルク家の崩壊が大切なテーマになっていますが
うがった見方をすれば、こういう世界の終末への密かな憧れというのは、
キリスト教的感性が生活に根ざす文化の特徴なのではないでしょうか。



天使と悪魔、天国と地獄。 
欧米では善と悪の対立思想が根強いけど
視点を変えれば、理性と欲望は、建前と本音にも置きかえられる身近なもの。


ヴァンパイアは十字架を弱点に持ち、神の威光をさらに明らかにするための
伝道材料として伝説的に生まれた部分もあります。
しかし、それは抑えつけられた人間がもつ本音への憧れ、欲望へのあこがれの
具現として偏愛されることにもつながったのではないでしょうか。


だからこそヴァンパイアは神の摂理に逆らう、魅力的な悪徳の一派として、
真夜中の舞踏会を開く存在になるわけですね。




で、これを純正の日本産に置きかえるなら、ゲゲゲの鬼太郎なんでしょうね〜。


なにしろ、 夜は墓場で運動会♪ ですから(笑)。








さて、今回は終演後のホワイエもご用意しました。
良かったらあと少しだけ、おしゃべりにおつき合い頂ければ幸いです♪





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