ダンス・オブ・ヴァンパイア 


                           【前編】
         

                                  帝国劇場 7日 1階 S席 H列
                                         8日 2階 S席 B列


                                               

                        当日のキャスト


   クロロック伯爵 山口祐一郎  アブロンシウス教授 市村正親  ヘルベルト 吉野圭吾
   (7日マチネ) 助手アルフレート 浦井健治   サラ 剱持たまき
   (8日マチネ) 助手アルフレート 泉見洋平   サラ 大塚ちひろ  
   シャガール 佐藤正宏   シャガールの女房レベッカ  阿知波悟美
   女中マグダ 宮本裕子   クコール 駒田 一
    
   ダンス・伯爵の化身 新上裕也   ダンス・サラの化身 加賀谷 香 

2006年7月7日(金)・8日(土)マチネ

昨年末に製作発表があって以来、ずっと楽しみに待っていた東宝ミュージカルの新作
「ダンス・オブ・ヴァンパイア」が、7月2日〜8月27日までの上演予定で開幕しました。


原作はロマン・ポランスキー監督映画 「ロマン・ポランスキーの吸血鬼」(1964年)。
「Tanz der Vampire」 のタイトルで、すでにヨーロッパとアメリカでミュージカル版が
上演されている作品ですが、日本版は今回が初演。
ウイーンミュージカルでお馴染みのクンツェ氏が作詞を、鬼才ジム・スタインマン氏が
音楽を担当しているということで、音楽面の仕上がりも楽しみだな〜♪


今回は、開幕1週目に3回観劇したうちの2公演をまとめています。
中心になっているのは、7日マチネ(浦井アルフレート&剱持サラ)ですが、
8日マチネ(泉見アルフレート&大塚サラ)を2階席から観劇してみて、1階席と2階席では
見えるものも違っていましたし、Wキャストの妙もありましたので、それらをまとめて、
なんというか多元中継レポになっています。


ストーリーや全体の流れなど初演の雰囲気を記録しておきたい気持ちに加えて、
帰ってから見た原作の映画の話も織り込みつつ・・と書いていたら、とんでもなく
長いレポになりそうなので、1幕と2幕を前後編として分けることに致しました。
いささかご近所迷惑な長さですが、何とぞよろしくお願いします。





第1幕


暗いグレーの地に白いペンキを投げつけたような薄い幕が下りた舞台。
開演前から青いライトの光がゆっくりと客席まで旋回して、期待感を高めてくれます。



プロローグ


指揮者の挨拶はなく、いきなりオーヴァチュアの演奏から始まりました。 
あーやっぱり生のオーケストラは響きが重厚で良いなあ♪

白いライトが回転して、吹雪を表す中を客席通路から、カバンを2つ下げた
アルフレート登場。薄茶のズボンに黒のブーツ。コートに長いしましまマフラー姿。
雪が肩や帽子にも真っ白く積もり、凍えそうな表情でキョロキョロしながら
「プロフェッサー どこですか?」 


必死で捜しているはずなのに、恩師が凍え死んだら新聞になんて載るかなあなんて、
ちょっと呑気なことを考えてる男の子なんですね。
研究に没頭したら、「先生は周りが見えなくなっちゃうんだよね。」 と無邪気に
語る浦井さんの笑顔が可愛い〜。 


上手端にセリ上がってきたのは、小さめの“かまくら”みたいな雪洞。 
覆っている白い布が飛んでいくと、アブロンシウス教授が手帳とペンを握ったまま
片足上げて中で凍ってます。
市村さんだと知ってはいますが、白髪に白い眉毛、白ひげにメガネの扮装で、
全く素顔がわかりません。ほっぺたに丸く頬紅が入っているのは、コント仕様?(笑)


見つけた時の 「プロフェッサー!!」 の叫びは、浦井さんがリアルで良かったです。
おんぶしようとして一緒にコケる2人。
上手袖に教授を引きずっていくところで舞台が徐々に暗くなります。
オーヴァチュアが盛り上がる中、舞台中央の幕に
「Tanz der Vampire」の青い文字が大きく浮かびあがり、赤に変わったところで暗転。



シャガールの宿屋

幕があくと、舞台左右にテーブルと長イスがあって、奥に大きな扉がある宿屋の食堂。
一転して明るいナンバーは 「ニンニク」 (って、このタイトルかなりスゴくないですか?)
主人のシャガールが、皮つきニンニクをつないだネックレスを10連ばかり
放りあげ、20人ほどの村人達が陽気にニンニクの効用を歌い踊ってます。
「ガーリックガーリック♪」 トランシルバニアは現在でいうルーマニアだそうで、
そのせいかコサックダンス風の振付もありました。


阿知波さんが演じるシャガールの妻、レベッカは元気なおかみさん。
女中のマグダはニンニク入りの料理を、玉じゃくしでついで配っていますが
両手がふさがっているのを良いことにシャガールったら、後ろから抱きついて
お尻でポンと飛ばされたり、スカートをめくろうとして怒られたり。
ニンニクの威力とはいえとんでもないオヤジさんだな〜☆


奥の扉が開いて、吹雪の中を教授をおんぶしたアルフが入って来ます。
アルフにウォッカを飲ませ、教授のためにタライのお湯を用意するレベッカ。
マグダが教授の靴と靴下をぬがせ、お湯に浸してあげるのですが、
目の前にかがみ込むマグダの白い胸元に、目を奪われるアルフレートの
表情がおっかしいです。 特に泉見さん、大きな目玉で凝視しすぎ(笑)。


教授がニンニクのネックレスを見ながら 「あの小さな丸いものを見たか?」
って言ってるのに、
アルフはまだ胸に感動中。「小さくない、でかい。・・丸い・!」 
「ばか、そっちじゃない。」 って、アルフの頭を軽くはたくタイミングが絶妙でした。

シャガールが二人を部屋に案内するところで、舞台の盆が回って転換開始。



宿の客室

舞台の中央にある木の風呂桶。 サラがお風呂に入っています。 
「アーァ〜♪」 細い綺麗な声で嬉しそうに歌いながら。


歩きながら、誰が歌ってるんだ?と怪しむ教授と 、美しい・・・とウットリしている
ここでも緊張感の足りない助手(笑)。
でも、シャガールはさらにとぼけておりまして、別に歌には聞こえないらしいです。
「ああ、あれ。 風ですよ。」 と言われて教授が首をかしげる 「かぜぇ?」 とか
部屋に入ったとたん、「うわ汚い」 なんて、市村さんが言うだけで笑ってしまいました。


風呂をはさんだ2つのドア、上手側は教授とアルフで下手側はサラの部屋。
とてつもなく狭い! 専有面積・約2畳ってところ? ベッドもひとつしかないし。
こんなに狭い部屋なのに、シャガールが 「最高級スイートルームでございまーす」 と
口上がわざとらしいのもギャグなんですね。


風呂場に案内しようとして、娘が入っているのに気づき怒るシャガール。
部屋に逃げ込んだサラが忘れていったのは、洗面器ほどもある大きなスポンジ。 
(この時代にプラスティックはまだないでしょうから、ホントは海綿ですよね) 
気がついて取りに戻ったサラは、風呂場でアルフとばったり。
ぴかーっとスポットライトが当たって、アルフが一目惚れしてしまいます。


ところでダブルキャストのサラお二人を見て思いましたが、剱持さんに比べると
大塚さんは、このお風呂のシーンが結構スキだらけというか(笑)、もう少し
うまく身体を隠して欲しかったなぁ。 
大塚サラはせっかく可愛らしい雰囲気が魅力なのに、肌色のボディスーツとか
あまりにも舞台裏があけすけに見えちゃうのは、ちと興ざめかも。
そういう意味で剱持サラは上手に着替えたりお風呂に入ったり、動作も綺麗で
その点は、とっても良かったような気がします。



きれいな娘を持ったなら


シャガールが板きれを抱えて戻って来ました。

サラが美しい娘に育ったのは嬉しいけど、自分と同じで男達はろくでもないヤツばかり。
遊ばれたり、泣かされるくらいなら大事な娘を閉じこめておきたい。

てな感じで、父親の心情を歌いながら、サラの部屋と浴室をつなぐドアを
乱暴にもクギで打ちつけてしまうナンバーです。


ちょうど隣の部屋では、教授が寝間着に着替えるのをアルフが甲斐甲斐しくお手伝い。
あれこれを片づけて、さてアルフもようやく床に寝る・・・はずなんですけど、
シャガールが打つ金槌の音に合わせて、左右の部屋がぴょっこんぴょっこんと
飛び上がるのがおっかしい☆


途中で市村さんが振動でベッドから落ちたり、ハンガーにかけてあるコートとか、
吊ってあるニンニクのネックレスも一緒に揺れてます。
歌は優しいメロディなのに、ドリフターズみたいなコントシーンなんですね〜。
地面を削るドリルに合わせてブルブルするとか、工事現場風のコントを思い出しました。



初めてだから

次第に暗くなり、背景に月が出てきて深夜。 
サラの部屋よりさらに下手にマグダの部屋、教授の部屋の上手側には
シャガール夫妻のベッドが出てきました。
つまり、中央の風呂場を中心に4個の部屋が舞台一杯に広がっているわけですね。


寝静まった中、起きあがったアルフとサラにスポットライトが当たります。
ほのかな恋心を歌う、二人の初々しいデュエット。


しかしロマンティックな歌をバックに、なぜか舞台はまたコントの世界へ(笑)。


シャガールがマグダの部屋へ夜這いをしているのに、気づいたレベッカ、
「亭主をとっちめてやる!」 と棒を持ち出したものの、教授の頭を叩いちゃいました。
叩かれてなぜかバレリーナのように、華麗にターンしながら去っていく教授☆



神は死んだ

デュエットの終わりがけに客席の下手寄り通路に現れた、黒い大きな影。
二人が去った無人の舞台に音もなく、ゆっくりと上がってくるのは・・


で、出た〜〜〜って感じの、無言でも伝わる客席の反応が面白かったな〜。


山口祐一郎さん演じるクロロック伯爵の登場は客席通路から。
トートはゴンドラ、コロレド大司教は階段といずれも上方向からのお出ましでしたから、
今回はちょっと趣向を変えてみました、というところでしょうか。


雪がちらちらと降りだし、
暗い舞台の奥に、サラが部屋のベッドに座っている姿がぼんやりと見えてます。
銀髪と黒が半分ぐらいずつ混じった長い髪にパープルのライトが当たって、
伯爵は後ろを向いたまま静かに歌いだしました。


ひそやかに、夜の闇からサラに呼びかける誘惑の声。


とらわれの鳥かごから、抜け出しておいで。 永遠の命をあげよう。
おまえはもう私の思うままだ。



こういう歌は、山口さんの甘さのある歌声にピッタリですね〜。
ただ、初回はどうしてもトートみたいな印象をぬぐえなかったかな。
(あくまでここだけです、後半はどんどんヴァンパイア度アップしてました☆)


山口クロロックのメイク、ドラキュラ伯爵のイメージから撫でつけた黒髪を
想像していたのですが、実際はジャベールみたいに長い揉みあげがついていました。
裾を引く黒マント、肩をおおうように黒い羽根の飾りがついていて、
マントの裏地は暗い紅色。 
これは、チラシに出ていたあの扮装なんですね〜。


「私の影に包まれて 生きるため死ぬのだ」 という歌詞が、
いかにもヴァンパイアらしくて面白いです。 ただ、観劇してる時は 「影」 が聞き取れず
パンフレットを読むまで 「私の愛に包まれて」 かと思っていたのですが☆
それにしても銀髪まじりってことは、結構なお年という設定なのかなあ?
牙をつけてないのは、歌うのに邪魔だから? とあれこれ考えているうちに
伯爵は後ろを向いて片手を天に差し上げたまま、奈落へゆっくりと落ちて行かれました。



すべて順調〜人類のために

場面変わって朝。
宿屋の外で、シャガール、レベッカ、マグダが 「すべて順調、万事快調」 と歌いながら
それぞれの仕事にとりかかっています。
そこへ、客席通路から、前屈みで足を引きずるようにして
ぼさぼさした薄茶の髪に黄土色の服を着た、せむし男クコール登場。
駒田一さんですが、特殊メイクでほとんど素顔がわかりません。 顔の表面だけじゃなく
指にも特殊メイクがしてあるようで、異様に指の関節がでこぼこして見えます。


レベッカとマグダは気味悪がって逃げていきますが、サラだけは戸口から見ています。
ローソクを買いに来たクコールは、シャガールが取りに行く間にサラに
「おまえ、一緒に行く 今夜」 つまりは、お城に誘いに来たんですね。
「伯爵閣下に、お支払いをよろしくってお伝え下さい・・」 
シャガールがビクビクしてたけど、そりゃあ、集金したくても怖くて行けないよね〜。
クコールさん、帰り道の通路でお客さまを 「うがー」 っと脅かしていました。


戻ってきたレベッカとマグダ、シャガールがいるところに
クコールを見ていた教授とアルフが来て、「あの紳士は?」と尋ねます。
ヴァンパイアと伯爵のお城のことを言えないシャガールに、教授はさらに謎を追究。
「じゃあ昨夜、私をなぐったのは誰だ?」 と後ろを向いて見せると
教授の後頭部には、鍋敷きぐらいの大きさのバッテンの絆創膏が(×)
あまりにもマンガチックな小道具に、どっと客席の笑いが起こっていました。


では私が調べよう、教授の信念を早口言葉で歌うナンバー 「人類のために」。
浦井さんがずっと口をあけて、見ているのが可愛いわ〜♪
早口の合間に 「フー」 と気を失いそうになって、倒れかかるのをアルフが
抱きとめたり(拍手)、コミカルなダンスにお客様も大喜び♪


しまいに全員まきこまれて 「人類のため 文明のため 人類のため 文明のため」
どんどんペースが速くなり、4人が教授の周りを回り出しました。
ネオンサインも出てきて、華やかなショータイムのパロディなんですね〜☆


大拍手に応えて、5人が手をつないでカーテンコール(笑)。
教授がなかなか引っ込まず、客席に投げキスをしながら、アルフに引っ張って
行かれる、おちゃめなコメディ場面に大いに笑いました。
泉見さん、浦井さんともに 「さあ先生、ほらほら行きますよ」って笑顔で連れてく様子が
微笑ましくて楽しい〜♪ 芸達者な市村さんの真骨頂ですわホント。



あんたは素敵

幕があくと、宿屋の部屋。
風呂場ではアルフがバケツでお湯を入れている様子。 サラは部屋を出て風呂場へ。
泉見さんの日はノックが聞こえなかったのか、サラが2回ノックしてましたっけ。


スポンジのことを尋ねるアルフに、サラが
「とっても柔らかいの。大好き。」 と言いながらスポンジで頬を撫でてくれるので
猫にマタタビ状態のアルフ君。 思わずうっとり 「スポンジ最高・・(笑)」
泉見さんもタイミングが良くて笑えますが、浦井さんの表情がなんとも可笑しいです。


原作映画でも海綿が出てきますが、サラは 「学校にあったものなの」 と言ってます。
当時としては、なかなか手に入らない貴重なものだったのかもしれませんね〜。
(なので、映画ではアルフにスポンジをあげるというシーンも無しです)


スポンジをもらったアルフレートが 「お返しを・・」 というのに答えて
サラがおねだり。 「あんたが今したいこと、私もしたいわ・・。」
剱持サラが、小悪魔っぽく迫ってその気にさせる歌い方がうまかった。
あれは誰だって勘違いするよね〜☆
で、最後になってドアを鼻先で閉められちゃうのですが、
騙されたのに 「でも可愛い」 って、アルフ君は柱を撫でながら、さらにデレデレでした。


ただ、私が観劇した日は、剱持さんが息を吸う音が響いてて、まだ4公演目くらいなのに
長丁場を大丈夫かな?ってちょっと心配になりました。
部分的には、かすれて全く声が出ないところもあったようですし。


嬉しそうにお風呂に入るサラ、「アーァ〜♪」 青いライトが照らす中
シャボン玉がフワフワ風呂桶からわき上がって綺麗〜。



お前を招待しよう

突然のガシャーンという音で、奥の上空から再びクロロック伯爵参上ですが、
この扮装、というか装置が相当スゴイ☆ 大道具というより工業用重機?(笑)。


大きな黒いコウモリの羽根がついたクレーンで、伯爵が立ったまま飛んできました。
巨大なこうもり傘のように、広げた羽をたたみながら風呂場に着陸。
客席も 「これはギャグ?」と笑っていいものか考えている雰囲気だったかも。


でも風呂場に現れるヴァンパイア、という時点でコメディなんでしょうね。
お湯につかっている娘に向かって、狭い風呂場で歌いかける伯爵ってのも
よく考えるとそれだけで可笑しいですし。


ただ、ヴァンパイアは想像上の動物(?)だから、何でもありとは思うけど、
私には空を飛ぶイメージはあまりないんですよね〜。
恐がりでホラー映画とかほとんど見てないから、定石を理解してないのかな。
「ポーの一族」 なんかもそうですけど、私のイメージではヴァンパイアは絶滅寸前の
希少品種で、血を吸うこと以外は人間的な部分が多いという印象なんです。
なので、背中から羽根が生えたり空を飛んだり、眼の色が光ったりという
SFXチックな設定はちょっと・・☆かも。


それはさておき、クロロック伯爵の用件は、おまえを城の舞踏会に招待しよう、
ということだったようです。
招待といえば聞こえがいいけれど、要するに誘惑に来たってことですよね。


そのエサこそ、サラが一番求めているもの。

自由、そして大人の世界。 
親の過干渉で不満が一杯の少女にとって、これほど魅力的な誘惑があるでしょうか。



剱持サラは色が白いだけでなく、首から肩がほっそりして綺麗です。
こげ茶色のウェーブがかかった長い髪。 うつむいた時の睫毛が濃くて、
魔物に狙われる少女というこの物語にはピッタリではないでしょうか。
ダブルキャストの大塚サラは、剱持さんに比べるとぽっちゃりして、
血色の良いみずみずしい肌が別の意味で美味しそう。


可憐な花を手折るか、甘い果実を摘みとるか。 クロロック伯爵にはどちらも
堪えられない獲物なんでしょうね〜。 しかもお風呂に入ったばかりで衛生的だし(笑)。



ただ誘惑と言いつつも、ここ後半は曲調が結構明るいというか、雄々しくて元気が出そうな
雰囲気もありまして(笑)。
それにしても両手を胸の高さにあげて、定位置で歌う山口さんがなんだか嬉しいわ♪
下手側、上手側とぐるりと風呂桶をまわって、帰りはちょっぴりあわただしく
こうもり型クレーンで羽根を広げて帰宅されました。


自由と大人の世界への誘惑に酔い、催眠術にかかったようになるサラ。


ここ原作映画では、風呂場の天窓から雪が降りこんで来るので
サラがあれ?と見上げるとクロロック伯爵が足からぐわーっと下りて来るんでビックリ。
その上、いきなり風呂桶に身を乗り出してサラに咬みつくので 
「えーもう咬んじゃうの?」 ってさらにビックリの場面でしたっけ☆



外は自由〜ウジャブジャ

宿屋の外には、月が出ています。
白い部屋着に淡いグリーンのニットガウンをはおって外を見ているサラ。
そこへ客席通路をクコールがカンテラを手にやってきて、舞台端に布の包みを
置いて無言で去っていきました。


折しもアルフがサラを想いながら外に出てきてばったり。
喜ぶアルフと、家を飛び出したい気持ちで一杯のサラが歌い出します。
サラの自由へのあこがれと、アルフが考えている未来は、すれ違っているのですが、
それに気がつかないのですね。 サラの眼中にはすでにアルフはありません。


純情青年には可哀想だけど、年上の男性の誘惑は甘美なものでございます。
しかも相手は鏡の中から歌姫を誘惑したり、皇后陛下の心をかき乱したりと
昔から、三角関係に関してはスゴ腕ですからね〜(笑)。



サラはアルフを追い払い、クコールの持ってきた包みから赤いブーツを取り出します。
「私、伯爵さまと踊るのね?」 と喜ぶサラ。 


ここからはダンスシーン。
ドアから黒い衣装を着た5人の男性ヴァンパイアダンサーが登場。
靴を履き替えたサラと入れ替わって、同じ衣装の加賀谷さんが化身として踊ります。
ダンスのフィナーレと共に、サラはアルフが止めるのも聞かず通路を通ってお城へ。
残された靴を抱きしめるレベッカと、娘を助けに追って行くシャガール。



暗転の間に宿の食堂になり、ここで時間の経過を表しているのですね。
結局、シャガールはヴァンパイアの返り討ちにあい、遺体が運び込まれてきます。
シャガールの遺体に、杭を打ち込もうとする教授とアルフですがこれは失敗。
レベッカが泣きながらテーブルの上に寝かされた夫の遺体に布をかけてやり、
その場を去っていくのですが、個人的にはこの場面が一番怖かったです。



誰もいない宿屋のテーブル。 全身を布におおわれた遺体。 
いつ動き出すのか、何がおこるのか?


無音で、不気味な時間が流れるホラー映画っぽい雰囲気に初見の時は、
マジで胸がドキドキ☆



死んじゃうなんて

下手から、部屋着のマグダがふらりとやって来ました。
遺体の手をとって自分の胸にあて、愛人だった頃の逢い引きを思い出したり
マグダなりの悲しみを歌っていると、突然起き出して牙をむくシャガール。
逃げ回るマグダですが腕をつかまれ、最後には咬まれてしまいます。


マグダが咬まれる瞬間、真っ赤なライトが舞台を染めあげて
まるで夕陽にむせぶようなエレキギターが、実にドラマティックでした。


その後ぐったりしたマグダ抱えてテーブルに載せ、布をかけて
かくれるシャガールですが、とどめを刺しに戻ってきた教授とアルフレートに
気づかれてしまいます。
この場面はちょっと、必要以上にドタバタしてた感じでしょうか。
二人はシャガールを追いかけ回して捕まえ、胸に杭を打ち込もうとするのですが
「1、2 の3!」 なかなか金槌を下ろせない小心者のアルフ。
結局、命乞いをするシャガールを助けるかわり、伯爵の城へ案内させることに。


雪の降る中を、客席の通路を使って城までの道中を表現しているので、 
教授たちも客席のお客様に道を聞いたりしながら、進んでいきます。
緊張感とスピード感のある音楽の中、舞台の上では黒い衣装のバンパイアが
踊り始め、クロロック城が近づいたことを知らせていました。


音楽の切迫感と、雪が降りしきる照明がかもし出す
このサスペンス風の盛り上がりは良かったな〜。



クロロック伯爵の城

幕が上がると、H・R・ギーガーの絵のように青いライトに浮かび上がる城の門が。
コウモリの巨大な骨格標本っぽいデザインになっています。
気味の悪い門が左右に開くと、中央奥に赤のガウン姿でクロロック伯爵がお出迎え。


「ようこそ お待ちしていたお二人を」
ガウンといっても普通のものよりゆったりとして長く、色々仕込みもあるようで
黒い襟の飾りなど豪華な刺繍もされています。


ここでは短いソロで自己紹介・・なんですけど、ふとした感慨に耽っているのか
ちょっと哲学的な自分の世界に入りこむ伯爵。
原詩がどんな感じなのかわかりませんが、ヴァンパイアとしての
アイデンティティをひとりごちているということなんでしょうか。
ヴァンパイア・ハンターの前で良いの?という気もしないではありません。


でもきっと伯爵にとって、戦いを挑んでくる教授とアルフレートは、
ちょっぴり刺激的な退屈しのぎ。
村人たちとは違って多少の手応えがある、上等の獲物という程度なんでしょう。
しかもアルフがサラに一途に恋しているとなれば、どんな楽しみがあるかと
内心は小躍りするような気持ちなのかも。


長い孤独にうんざりしていた、こんな出会いを待っていたと伯爵は
教授に歌いかけます。
ロマンティックなメロディに目を閉じたり、陶酔しているような表情が色っぽいな〜。


曲調が変わると、伯爵が我に返ったような表情になって
「はははは・・」って、笑うんですけど、教授も 「はははは・・」 と同じように言うのが
コントみたいで妙に可笑しいです。 
でもこれは、宣戦布告の合図。 
伯爵と教授の直接対決は、本心を隠したウソくさい駆け引きとやりとりが
えらく面白いんですよね〜。



自分たちは旅の者だが、この素晴らしい城を見せて欲しいと頼む教授。
「私の目に狂いがなければ、この城は13世紀のものだ」
「・・お目が高い(笑)」 
なーんて敵同志なのに、なんでも鑑定団みたいな事を言ってほめあったりしています。


甘い声で教授に名前を尋ね 「プロフェッサー・アブロンシウス!」 と
嬉しそうに驚いてみせる伯爵。
「ご存じでした?」 「えーえ!(もちろん、って感じで微笑む)」
で、教授の著書を愛読したと言うのですが、「こうもりの研究」 のところで、山口さんが
両手を小さくぱたぱたさせて、こうもりの手振りをしたのが可笑しかったわ〜。
無邪気な様子の伯爵さま可愛いすぎ☆


その上、長いガウン(というよりマントの一種?)の中から本を取り出して
「ご著書にサインを」 
ミーハーなおねだり発言で、ここでも客席から笑いが。
教授もペンを取り出して嬉々としてサイン、本にキスをしてから渡していました。



続いてアルフレートに気づいた伯爵が尋ねます。
「こちらは学生の方?」 「助手です」  「なんて素晴らしい・・。」
なにが素晴らしいのかよくわかりませんが(笑)、すっごく優しいベタベタの
声色が妙にツボ☆
原作の映画にも、教授が名刺を出したり、伯爵が 「こうもりの研究に関する著書を
読んでいるのでサインをもらいたい」と言うエピソードが出て来ますが、
こんなには笑えないんですよね〜。


そんなこんなで小ネタの応酬のさなか、舞台奥からゆっくりと歩いてくるのは
伯爵の息子ヘルベルトを演じる吉野さん。
黒の長い上着にレザー風細身のパンツ。ストレートの髪に、濃いメイクが綺麗です。


ヘルベルトはゲイらしく、アルフレートを舌なめずりせんばかりに、
熱っぽい視線で見つめるので、浦井さんも泉見さんもビクビクしてます。
ヘルベルトが鞄を運んでくれるのですけど、鞄を抱える時にこっそりお尻を
すりつけるようにするのでアルフは 「ひえ〜っ(汗)」


息子を二人に紹介した後、伯爵はクコールに案内させようと指示をします。
でも、この呼びつけ方がまたアブノーマルな雰囲気で。
「クコール・・」 と、手の甲でクコールの頬を撫でながら、
いかにも愛おしそうにねっとり、甘くささやくクロロック伯爵。


山口さん、女性とのラブシーンでもこれほどメロメロした声は
出さないような気がするな〜。
こんなにセクシーな声なのに、舞台の上は男ばかりなんですね(笑)。



フィナーレ

部屋に案内されて去っていく教授、クコール、ヘルベルト。
最後にアルフがついていこうとすると、クロロックが呼びとめて
例の洗面器ぐらいのスポンジを取り出してみせます。
「スポンジ!」 思わず飛びつくアルフ。


今度はクロロックがアルフレートに語りかけるナンバー。
これは、先ほどの続きって感じでしょうか。
要するにサラと同様、アルフに私のものになれと誘惑してるわけですね。



ロマンティックなメロディに乗せて、ゆったりと流し目をくれるような雰囲気があったり、
あやしなだめるように 「そうだろう?」 と含み笑いをしたり。
ヨコシマな誘惑の視線は、やっぱりちゃーんとトートとは演技を変えてるんだなあと
感心してしまいました。


しかも歌いながらアルフレートの頬や髪にふれる仕草が、なんとも官能的〜。
時にリズミカルに力強く歌いかけるかと思うと、一転して優しくささやき、
山口さんの声と表情の色合いも微妙に変化してゆきます。




そして、このナンバーのラストがホントに素晴らしかったです。
切なさのある曲調が徐々に変わって、雄々しく盛り上がり、
最後は 向かい合ったアルフの手をスポンジごとつかみ、持ち上げながら
山口さんの驚くべきロングトーン。 


「つかめ自由を その手でーー」




劇場を震わせる美声がいつまで続くのか、あまりのスゴサに圧倒される客席。
アルフの表情も熱に浮かされたようになっていました。
「人間を越えた存在」
伯爵の言葉が心底感じられる瞬間ではないでしょうか。



呆然と歩き出すアルフを先にやり、舞台奥に去っていくクロロック伯爵。
最後の瞬間にゆっくり振り返ると、こちらに向けた顔ががらりと変わっています。


真っ赤な照明が照らす、目をかっと見ひらいた表情はまさに魔物。
隠していた本性をここで露わにしているのですね。



テーマ音楽の盛り上がりと共に、いよいよ血塗られた物語の予感をひしひしと
感じさせて、印象的な1幕の幕切れでした。






さて、この続きは後編に譲りたいと思います。
ホント長くてスミマセン(^^A)。





                                             (この項続く)






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