「明けない夜はないんだよ」


 記憶の中にハッキリと焼きついている言葉


 その言葉を見詰め直したのはいったいいつだったのか

 その言葉を見詰め直させたのはいったい誰だったのか












明けない夜
            〜つごもり
 












 目が覚めるとそこは暗闇だった。
 無意識に身体が起き上がろうとして、激痛に顔が歪む。
 その痛みに耐えられずベッドへと逆戻りして、天井を仰ぐ。


 ああ、そうか…。
 この左腕はもう自分のモノではない。



 痛みはどんなものよりも、痛切にその現実を自分に投げつけてくる。


 この原因は自分のミスだ。
 それは仕方ない。

 嘆いても始まらない。
 どうにもならないのなら、他の解決策を考えるしかない。


 そう思ってからの決断は早かった筈だ。


 代わりの左腕を作って。
 躊躇いもなく、左腕を切り落として。
 そして激痛を伴うその装着も終わって。

 そう、躊躇いはなかった筈だ。
 合理的に判断して、これが一番良かった筈だ。



 それでも、それでもだ。
 幾ら快斗がIQ400の頭脳を持っていたって。
 幾らその頭脳が合理的な答えをはじき出したとしたって。


 頭まで機械な訳じゃない。
 心まで凍りついた訳じゃない。



 ベットの中、静かに右手で左腕に触れる。
 それはもう体温のない、唯の鉄の塊。
 冷たいソレにどうしようもなく、絶望を覚える。








 夢だと思いたい。








 全て夢だと。










 けれどその冷たさは残酷にもコレが現実である事を冷静に伝えてくる。




















 込み上げてくる嗚咽を、ぎりぎりで飲み込む。
 自分の身体の傍に、小さな寝息を感じたから。


 きっと、ずっと傍に居てくれたのだろう。
 椅子に座り、快斗のベットに凭れる様にしながら静かな寝息を立てている彼を暗闇の中じっと見つめる。


 完全な暗闇ではない。
 夜目が利く自分にとっては、はっきりとまでは言わないが彼を確認出来る。


 世界一大切で。
 世界一愛しい人。


 この人の為なら、本当に何でも出来るし、するつもりだ。
 それでも、痛むこの心は、どう取り繕ってもどうこう出来るものではない。








 暗闇と絶望はどこか似ていると思う。


 どこまでも終わりがない様に思えるから。





 果てしなく、ただ虚無的に続いていくだけ。




















 救いはきっと――――何処にも無い。




















 絶望にも、暗闇にも、きっとその中にはどんな救いも存在しては居ない。
 救いがあるとすれば、それはきっと暗闇や絶望の外側に位置するモノ。

 だからこそ、それが光の様に絶望や暗闇に差し込んだ時に、外には光が存在するのだと、希望が存在するのだと分る。










 キッドとしての絶望の自分を救ったのは彼だった。
 孤独だと思っていた自分に、一人ではないのだと手を差し伸べてくれたのは彼だった。

 あの時、自分は一度光を手にした。

 そして今、また暗闇の中に居る。
 けれど、その傍らには彼が居る。

 それだけで…それだけが唯一のきぼう




















「俺は、新一が居てくれるならどんな事にだって耐えられるから…」



















 静かな暗闇に落とした小さな声。
 それは自分に射している光への願いにも似た誓いだった。













to be continue….







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