「オメー最近、オレん家掃除しに来たか?」
『え? 行ってないけど…どして?』
「いや…だったらいいんだ…悪かったな……」
蘭との電話を切った後、コナンは黙って目の前に見える工藤邸を見つめた…。
One of the two Wings ─片翼─
「…………」
「名探偵?」
「………………」
「…好い加減、機嫌を直して貰えませんか…?」
闇夜の中でひっそりと佇む工藤邸。
その暗闇の中、濡れた髪を無言で拭き続けるコナン。
……そしてその隣には、明かり一つ無い部屋の中でさえ、眩いほど鮮やかな白を纏う魔術師の姿。
「…で、なんでお前がここにいるんだ?」
一通り拭き終わり、雫が落ちないのを確認して顔を上げる。
漸く顔を上げてくれた名探偵に、KIDはにっこりと微笑み、
「勿論。麗しき愛しの名探偵にお会いしたいが為にv」
「今すぐ通報してやろうか(怒)?」
…………。
にっこりと満面の笑みでのお言葉に、組織の連中を相手にしている時と同じような殺気を感じたKID(笑)は、口調を快斗のものに戻し呟く。
「ヒドイなぁ。折角心配してたってのに」
「誰も頼んでねぇ。だいたい、何時からここにいたんだ、お前」
「そんなに前じゃないよ? 名探偵がお隣に泊まり始めた頃から…かな?」
「……結構前じゃねぇかよ」
KIDからの返事を聞き、コナンは改めて項垂れた…。
工藤邸の様子に新一が気付いたのは数日前。
そして、それを裏付けるかの様に届いたハロウィンパーティーの『招待状』。
大まかな状態を予測した新一は、夜中にこっそり阿笠邸を抜け出し…そこで、邸内に潜んでいたKIDからの水鉄砲を食らった。
──正確には『母・有希子の姿に変装していたKID』から。
楽しそうに水鉄砲を向けるその姿は、どう見ても自分の母そのもの。
しかし違和感を感じ、濡れた髪に構う事無くその原因である人物を見上げ……次の瞬間にはらしくなく叫びかけた。
…もっとも、すぐに状況を思い出し未遂で終わったのだが。
「それにしても、良くオレの変装を見破ったな?」
膝を付き、コナンの首に掛けられたタオルを手にするKID。
その口調は何処か楽しそうで…
「気付かない訳ねぇだろ。姿だけで気配は変えてなかったんだからな」
「でもさ、殆どの場合これでいけるんだけどなぁ……中森警部とか♪」
にやり…と、今度ははっきりと楽しげに言ったKIDに、コナンは軽く溜息を付き、
「……お前のその、凛とした冷涼な気配は誰にも真似出来ない。その気配を隠そうともしていないお前を見つけるのは簡単だ」
「…へぇ」
──そう言うけど、今まで誰もいなかったんだよ? 名探偵?
「もう一度聞くが…ここで何やってるんだ、お前」
首に掛けたタオルを手にしたまま動きを止めたKIDに、コナンは同じ質問をした。
KIDが膝を付いた事によって、今は真正面から視線を合わせる事が出来る。
「だから言ったデショ? 『心配だった』って」
コナンの声に我に返ったKID。
何でもなかった様に自慢のポーカーフェイスを貼り付ける。
…それすらもこの名探偵の前では無意味なのかもしれないが…
タオルを再びコナンの頭に被せ、今度はKIDの手で湿った髪を拭いていく。
「…お前は目を離すとすぐ無茶をするからな」
「いつもしてるみたいな言い方だな」
「おや。否定出来ますか?」
「…………」
どうやら否定は出来ないらしい。それくらいの自覚はあったようだ(笑)。
まして、これから『無茶』をしようとしているのだから…
「それで? 名探偵はどうするつもりかな?」
黙り込んだコナンに苦笑を浮かべ、KIDは仕方ないとばかりに問う。
「…言わなくても解ってんだろ?」
「まぁね。伊達に名探偵フリークじゃないから♪」
「……自分で言うなよ」
「あはは。拒否しないんだ?」
「それこそ今更だろ? ただの偶然にしちゃ、邂逅が多すぎだ」
「あら〜、…ホントの偶然もあったんだけどなぁ…」
会話の間もKIDの手はコナンの髪を拭き続ける。
コナンも、それを黙って受け入れている。
そして…
「──オレの変装技術。役に立つと思わない?」
と、KIDはタオル越しにコナンの頬を包んだ…。
「……怪盗が、何の利益があって探偵のオレに手を貸す?」
「愛しの名探偵。いつも言っている筈ですよ? 貴方の心を盗む為には、どんな努力も危険も問わない、と…」
「予告状は出てないぜ?」
「稀代の名探偵相手には、いつも臨機応変で望まないとなりませんから…出す余裕が無いのです」
「月下の魔術師も、たいした事ねぇんだな」
「貴方限定ですよ」
真正面に向き合ったまま言葉を交わす。
お互い何処まで本気で、何処までが嘘なのか解らない、不思議なやり取り。
それでも…本当は解っている。
二人が戦っている敵は、少なからず何かしらの繋がり・関わりがある…と。
お互いの行動を見て、すぐに『何か』と戦っている事には気付いていた。
…そしてそれが、一つ間違えば『死』を迎えることも…
もしかしたら同じ組織なのかもしれない。
手を組めば、もっと的確に素早く行動が出来るかもしれない。
それでも、二人は具体的なことを何一つ口にしない…。
「……何が欲しいんだ?」
まさか、無償で手伝う訳じゃ無いんだろ?
「聞き入れて頂けますか?」
「事と場合によるな」
「私の望みは貴方自身。…しかし、それは自らの力で手に入れると誓っています」
「…ふぅん。じゃあ、どうするんだ?」
「貴方からのご褒美を…」
そう言ったKIDに、コナンは楽しそうな笑みを浮かべる。
まるで、その答えすらも予測済みだったような…
「欲の無いヤツだな」
「欲張ってばかりいては、破滅を招くだけです」
「そりゃそーだ」
くすくすと笑い、タオル越しに包まれたままのKIDの手に自分の右手を重ねる。
そして左手でKIDの頬に触れた…。
「ま、仕方ねぇからくれてやるよ。ご褒美とやらをな」
目前にまで顔を近づけてから、不適な笑みを浮かべて言ったコナンに、KIDも満足そうな笑みを浮かべる。
その鮮やかなまでの微笑みを見て、コナンは静かにその蒼い瞳を閉じた…──
いつも確信には触れない二人。
それでも、その口から流れる言葉は、いつも紛れも無い真実。
…誤魔化してばかりいる言葉達を本気で口にするのは、
今は一つしかないお互いの羽根が重なり合うのは…
──全てが終わってから…。
【このお話しは42巻の捏造ネタです(by桜月雪花)】
きゃ〜Vvご褒美ご褒美Vv(狂)
桜月様は実はこれがコナンは初書きだそうなのですが…素晴らし過ぎますVv
読みながら一人PC前で悶絶してました。
男前なコナンさんにKIDと共にくらくらなのですvv
しかもオマケが二つも♪どちらも素敵Vv個人的には1が…(笑)
桜月様、素敵なお話を有難う御座いました♪
おまけ‐パターン1−
おまけ‐パターン2−
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