誤算




 梅雨真っ只中の真夜中、綺麗に晴れた空に一際美しく輝く月を背に白い魔術師は優雅にその場所に降り立つ。
 そこでは一人の探偵がフェンス越しに地上の星を眺めていた。


「今宵も良い月夜ですね、名探偵」


 KIDは音もなく新一に近付くとその細い体を後ろからそっと抱きしめる。


「こんな所に呼び出して何の用だ?」


 それに抗いもせず新一は用件のみを告げる。


「相変わらずつれない方ですね貴方は」
「お前は俺に何を期待してる」
「いえ、何も。貴方が来て下さっただけで私は嬉しいのですよ」


 KIDはそう新一の耳元で囁くと、抱きしめている腕に少しだけ力を込めた。


「それで、お前は何がしたいんだ?」
「もう少しだけ…こうしていて頂けませんか。」


 もう少しだけ、今日という日を貴方と過ごしたいからと思う。
 決して口には出せないけれど自分が想うのはただこの人だけだから。


「別にいいけど…それなら場所を移さないか?」
「…貴方がそうしたいのでしたら」


 新一の意外な申し出に一瞬戸惑ったKIDだが、彼がそう言ってくれたのは嬉しい誤算だった。
 ここに居るよりは彼と居られる時間が増えるだろうから。


 そして、KIDは新一を軽々と持ち上げた。


「何しやがる!」
「場所を移すのでしょう?」


 こうしなければ飛べませんよ、そう言って暴れる新一を抱きしめたまま杯戸シティホテルの屋上からハングライダーで飛び立つ。


「何処に行きますか?」
「家でいい」
「私をお招き頂けるのですか?」
「他に人目につかない場所が思いつかないからな」


 お前のその衣装じゃ目立つだろ、と告げてくる新一にKIDは苦笑するしかなかった。









「入れよ」
「では、お言葉に甘えて失礼致します」


 そう言って新一を抱えリビングの窓から工藤邸へ降り立つ。

 そこに用意されていたものにKIDは唖然とした。

 テーブルの上にならんだ料理の数々。
 様々な銘柄の、けれど一目見て上質だと解るワインやシャンパン。
 そして、明らかに間違え様の無いバースデーケーキ。

 ご丁寧に『happy birthday』の文字入り板チョコが乗っている。


「…名探偵?」
「ったく、誕生日祝って欲しいんだろ?」


 一体何故彼がそれを知っているのだろうか。
 彼を呼び出すために出した予告状からは日付と場所しか解らない筈なのに。


「…いつから私の正体をご存知で?」
「言ってなかったか? うちの親父は盗一さんとは親友だったんだよ」


 あっさりと解決してしまった謎。


「けれどそれならば何故…?」


 昼間『黒羽快斗』として会っている時にはそんな事微塵も感じさせる様な事はしなかったのに。
 何故、今日は…。


「言うなら今日が良いと思ってな」


 そう告げると新一はKIDのネクタイを引っ張り自分の唇をKIDのそれに重ねた。


「!?」


 KIDのポーカーフェイスが崩れたのを満足そうに確認すると新一は優雅に笑って言った。


「折角の誕生日なんだ。今日だけはお前にくれてやるよ」

 名探偵じゃない『工藤新一』を、な。


 その瞬間KIDは自分の頬を冷たい何かが伝っていくのを感じた。

 彼は決して自分を受け入れてくれるとは思っていなかったのに。
 だからこそ、少しでも彼に会える事で自分を満足させようと思っていたのに。

 彼はそれ以上の物を与えてくれると言うのだろうか…。


「ったく、泣いてんじゃねえよ」


 しょうがないな、と苦笑しながら新一はKIDの瞳から溢れ出した涙を唇で拭った。


「今日はこれからだぜ、それとも俺のプレゼントに不服でもあるか?」
「いいえ、今まで貰った誕生日プレゼントの中で一番の贈り物ですよ」


 これは来年の貴方の誕生日に何を返せばいいか困りましたね、そう言ってKIDは新一を抱きしめた。





「プレゼントなんかいらない。お前が側に居てくれるならな」





 新一が呟いたその言葉と共に。













END.?


快斗誕生日おめでとう♪と言う訳で20日に焦って書きました(爆)
そしてKID様は最高のプレゼントを手に入れたのでしたvv
実は何とか新一に『happy birthday』と言わせたかったのですが…できず…仕方なくケーキに乗せたチョコレート(爆)
END?になっている訳は恐らく明日(22日)に判明する…筈(おぃ)
7月末まではフリーなので宜しければお持ち帰りください。←持って帰って下さる奇特な方がいらっしゃるのだろうか…。
フリー期間終了致しました。貰ってくださった方々、本当に有難う御座いましたVv


おまけ

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