ある意味で彼を甘く見ていた
ばれる事など予想していなかった
けれど、心のどこかで
彼が気付いてくれるのを期待していたのかもしれない
歪んだ愛情【[】
「快斗…」
我慢など、もうこれ以上堪える事など出来なかった。
彼が好き。
彼の傍に居たい。
ずっとずっと、彼と離れて思っていたのはそれだけだった。
「ごめんね。新一」
「お前は悪くない。悪くないんだ」
「でも、新一の事傷つけた」
流石にあそこまでされるなんて思っていなかった。
傷付かなかったと言えば嘘になる。
辛くなかったと言えば嘘になる。
彼にあんなに酷く扱われた事などなかった自分はきっと傷付いていたのだろう。
けれど、自分がきっと一番傷付いたのは彼を自分がそこまで追い込んでしまったという事。
「違う。お前が悪いんじゃない。………俺がそうなる様に仕組んだんだ」
「新一…」
もう隠し通す事など出来なかった。
もうこれ以上彼の事が好きではないと、彼に興味などないと思わせる事など出来なかった。
「やっぱりあの時のことが原因?」
「………」
彼も気付いたのだろう。
間を空けたとしても、新一の考えに快斗が気付けばそれが導き出されるのに時間は掛からなかった筈だ。
だから、結局新一も頷いてしまった。
「ごめんね」
「どうしてお前が謝るんだよ」
彼は何も悪い事はしていない。
自分が勝手に彼を傷つけて、振り回したのにどうして彼が謝るのか。
「ううん。新一にそんな風に思わせて、新一がこんな事するぐらい一人で考え込ませて。
それにも気付けなくて、それで新一の事あんなに傷つけて…。俺ホント恋人失格だね…」
「そんな事ない!」
彼の言葉に思わず顔を上げてしまった。
本当に久し振りにちゃんと彼の顔を見た気がする。
その顔は少しやつれた様に見えて、それに余計に苦しくなる。
「お前は…お前は誰よりも出来た恋人だよ」
「新一…」
それ以上彼の目を見ているのが恥ずかしくて。
再び彼の胸に顔を埋めてしまう。
そんな自分を彼はぎゅっと抱き締めてくれた。
彼の体温が心地良くて。
伝わってくる彼の脈がいつもより早いのに少し嬉しくなる。
「新一」
「ん?」
躊躇いがちに紡がれる言葉。
「俺さ…」
「?」
「またあの家に戻ってもいいかな?」
「………」
戻る。
彼はそう言ってくれた。
それが彼の家はあの場所なのだと言ってくれているようで何だか酷くくすぐったいような、温かい気持ちになる。
「新一?」
何も言わず快斗の胸に顔を埋めたままの新一に不安を覚えたのだろう。
自分の名前を不安げに呼ぶ快斗に新一は小さく呟いた。
「当たり前だろ…。あそこはお前の家でもあるんだから」