直後ではきっとばれてしまうだろう
最初から大事ではきっとばれてしまうだろう
だから時間をかけてゆっくりと
彼が自分から離れて行くように仕向けた
歪んだ愛情【Z】
その日の夜。
自分が帰った時にはもう彼は白い衣装を脱ぎ、いつもの彼へと戻っていた。
『おかえり、新一♪』
『ただいま』
何事もなかった様に。
彼は自分に微笑む。
さっきあった事の方がまるで夢だったかの様な錯覚を起こさせる。
『快斗、肩…』
『ああ、アレならもう手当てしたから大丈夫だよv』
『大丈夫って…』
『新一ってば心配してくれてるの? 嬉しいな♪』
努めて、本当に努めて明るく振舞おうとする快斗。
そんな彼に何だか余計に辛くなる。
自分を庇って怪我をして。
それを気遣わせないように努めて明るく振舞って。
あの場に銃弾は落ちていた。
だからきっと掠めただけだろう。
けれど、それでも身体にその傷が響かない筈がない。
まして、その直後にハンググライダーで飛んできたのだから相当の負担が掛かっている筈。
なのに――。
『新一お腹すかない? 夜食用意したから一緒に食べよ♪』
何て事を言って、彼はいそいそと食卓の準備を始める。
その姿に胸が苦しくなった。
そして、思った。
彼にこんな思いは二度とさせないと。
直後ではばれてしまう。
そう思ってそれから二ヶ月は歯を食いしばって我慢した。
そして二ヶ月経った頃、最初は捻挫から始めた。
犯人を追っていて『偶々』捻挫したのだと。
快斗はぶちぶち言いながらも、何だかんだで手当てをしてくれた。
それから次の週は軽過ぎない程度の火傷。
その次の週は左足首の罅。
その次はわざと自分で付けた頬の傷。
そして極め付けが―――この間の怪我だった。
決意したのが銃の傷なのだ。
終わらせるのもそれが一番いいと思った。
上手くいく筈だった。
上手くいった筈だった。
唯、新一の計画に誤算があったとしたら――――それは自分の気持ちと、快斗の愛情の深さだったのかもしれない。