あの日あの場所で起こった事

 あの日あの時に誓ったこと


 何よりも大切な彼を守るにはどうしたらいいのか

 何よりも大切な彼を守るには何が必要なのか


 そう考えて解った


 何よりも、そう何よりも彼を危険に晒しているのは

 他ならぬ自分なのだと










歪んだ愛情【Y】











『逃がすな! 今夜こそキッドを捕まえるんだ!』


 あの日も中森警部のそんな声が響いていた。
 あの日もそんな警部を後目にキッドはいつもの様に易々と犯行をこなしていった。

 最近何故か中森警部に気に入られた新一もその場に同席はしていたのだが、中森警部の面子を潰す訳にはいかないので極力助言は避けていた。
 確かに突っ走り過ぎな所はあるが、いつも一生懸命な警部を新一としても結構尊敬しているから。

 だから、その日も警部とその部下が居る筈もない地上のキッドを追っている時、新一はキッドと深夜の屋上に居た。


『流石は名探偵。貴方だけですよ、私がここに居ると気付いたのは』
『まあ、それだけお前の「芸術」が見事だったって事だろ?』
『まだ根に持ってたんですか?』


 最初に彼に対峙した時に言われた言葉。
 別に根に持つ訳ではないけれど、時たまこうして仕返しをしてやる。


『別に』
『名探偵…。あんまり虐めないで下さいよ』


 クスッとお互いに小さく笑って。
 でも次の瞬間そんな和やかさは消え去った。



『危ない!』
『!?』



 彼が叫んだのと、彼に突き飛ばされたのは同時だった。
 一瞬何が起こったのか解らない程のスピードで、それは起こった。

 そして――彼の肩が白ではなく赤く染まっているのに気付いた時、何が起こったのか漸く理解出来た。


『キッド!』
『来ないで下さい!』


 駆け寄ろうとした新一をキッドは一喝する。
 そして、まるで自分が囮になるかの様にハンググライダーを開いた。


『私が飛び立ったら直ぐ逃げて下さい』
『でも、そうしたらお前が…』
『大丈夫ですよ。貴方より先には死にませんから』


 ちらっと新一の方を一瞥し、そう言って微笑むとそのままキッドは飛び立った。
 自分が囮になると言った通り、わざと目立つ場所を選んで。



『キッド…』



 気付けなかったのは、きっと彼と自分が置かれている立場の違い。
 そして、その為に生まれた危機感の差。

 彼と共に組織を潰した後、残党は全て始末したと思っていた。
 けれど、そうではなかったらしい。
 それが今自達を狙っている。

 だとすれば――自分は確実に彼に迷惑をかける。

 迷惑だけならそれでいい。
 けれどいつもいつもそう上手く逃げられるものではない。



 ああ、自分は―――彼の重荷になってしまうのだと悟った。
















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