恋している
 愛している
 これだけは紛れもない事実なのに


 どうしていつもボタンを掛け違えてしまうのだろう










歪んだ愛情【U】











 一週間。
 二週間。
 一ヶ月。

 時が経つ度期待が薄らいでいく…。















「もう帰ってこねえのかな…」


 ソファーに身体を埋めて、天井を見上げて呟く。
 切なくて、辛くてこみ上げてくる涙を天井を見上げる事でなんとか押さえ込む。

 自分に泣く資格はないのだと。
 自分に泣く権利はないのだと。

 そう言い聞かせる。


 ―――それでも抑え切れなかった一滴が頬を伝って零れ落ちた。















「もう俺の事なんて忘れてるんだろうな…」


 あれから一ヶ月。
 彼の活躍はいつも通り新聞の一面を賑わせている。

 自分はこの一ヶ月何も手につかなかった。
 キッドとして狙わなければならない幾つかの獲物が日本を通り過ぎていった。

 でも彼は―――。


「俺との事なんて所詮そんなもんだったんだな…」


 呟けば呟く程にそれがより現実なのだと実感した。






























 気付けばもう三ヶ月が過ぎていた。
 時の流れだけは残酷に変わらずに一定の時を刻み続ける。

 変わらない日常。
 そう、彼と付き合う前に戻っただけなのだと自分を無理矢理納得させた。

 幼馴染に起こされ、一緒に学校に行く。
 学校から真っ直ぐ帰る事もあれば、本屋に寄って推理小説の新刊を買って行く日もある。

 いつもと変わらない日々。
 そう、元に戻っただけだ。


 その日もそうだった。
 いつもの様にお気に入りの作家の新刊を買って家に帰った。

 そして何気なく覗いた郵便ポスト。
 必要のないダイレクトメールの束を持ちリビングへと向かった。

 その束をテーブルに放り出し、ソファーへ身体を埋めた時―――漸くソレが目に入った。


 『工藤新一様』


 アイツらしい真っ白な封筒が。






























「………」


 呼び出されたのはいつもの様に深夜の屋上。
 けれど今日は予告ではなく――唯の密会。

 既に先に着いていた彼を視界に捉えても紡ぎだせる言葉などなかった。


「お出で頂けないかと思っていましたよ」


 ゆっくりと此方を振り返る白い影。
 その口元に浮かんでいたのは自嘲的な笑み。


「……呼び出されたら普通来るだろ」


 何と返したら良いのかわからなくて。
 漸く声になったのはそんな言葉。


「普通…ですか」


 苦笑する白い影と真っ直ぐに見詰め合うことは出来なくて。
 思わず視線をずらした。


「私の事などもう見たくもない?」


 視線をずらした一瞬。
 その一瞬の間にその影は自分の目の前に立っていて。
 気付けば彼の手が自分の顎を掴み、無理矢理彼と目を合わせられていた。


「私の事などもう見たくもないと言うんですか?」


 感情等全て捨ててしまったかの様な。
 何もないガラス玉の様な瞳。

 それを見ているのが辛くて、ぎゅっと目を閉じた。


「そうですか。もう見たくもないと…」


 本当は違うのだと。
 本当はそうではないのだと。

 思わず口に出そうとして、それを押し殺す。


 ここで言ってしまっては、一体何の為に彼を傷付けたのか解らなくなってしまうから。


「解りました」


 それだけ言って離された手。
 それに少しだけホッとして目を開けた瞬間―――噛み付くように口付けられた。


「っ…!」
「貴方の気持ちは良く解りました。それなら…」


 両手首を掴まれ無理矢理フェンスへと押し付けられた身体。
 そのまま何度も何度も無理矢理キスをされて。
 気付けば両手は手錠でフェンスへと固定されてしまっていた。


「何、す…」
「好きになってもらえないなら―――嫌われた方がマシだ…」


 血を吐くように苦しげに吐き出された言葉。
 抵抗など出来なかった。

 それを彼がどう取ったのかは知らない。
 でも、






「ごめんね。新一…」






 遠くなる意識の中でそんな言葉を聞いた気がした。
















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