言いたくないなら聞かない

 全て知らない振りをして笑顔のままで居る

 だって貴方には何時だって幸せで居て欲しいから


 だからどうか笑って下さい










籠から出た蒼い鳥[3]〜










 自分の胸へと顔を埋めてきた新一を快斗の腕は優しく包み込む。
 それはまるで壊れ物を扱うかの様な慎重で優しいもの。


「新一。夕食出来てるんだけど食べられる?」


 敢えて話題を逸らしてくれた快斗に新一はほっとして。
 快斗の腕の中でこくんと小さく頷く。


「だったらご飯にしよっか♪」


 それにも新一はこくんと頷いて。
 何ととか心を落ち着けて顔を上げた。

 そこには相変わらず笑顔の彼が居て、その笑顔に新一の顔にも笑みが浮かぶ。

 漸く笑顔になった新一に、快斗は回していた腕を解き新一の手をそっと握ると自分が立つのと一緒に新一もソファーから立たせてそのままダイニングテーブルへと連れて行く。
 そこには美味しそうな数々の料理が並んでいて。
 やっぱりこういうところは変わっていないと思う。


「相変わらず見事なもんだな」
「新一に褒めて貰えるなんて光栄だよv」


 軽くウインクしてそういう快斗は彼だからこそ様になっていて。

 こんな時に実感する。
 やっぱりこいつは格好良いんだと。


「今日はね快斗君腕によりをかけて作っちゃいました♪」


 けれど次の瞬間に快斗が見せた表情は年齢よりも若干幼いもので。
 そのギャップにまた魅せられる。


「そりゃ楽しみだ」
「でしょ♪じゃあ座って座って♪」


 しっかり椅子まで引いてくれる快斗の相変わらずさに苦笑して。
 新一は勧められるまま席に着く。


 まだ未成年だけれどお互いそんな事は気にせずにワインの入ったグラスを傾けて。
 昔のように穏やかな食事をとる。


「新一、美味しい?」
「ん。美味い」
「良かった♪」


 新一の言葉に安堵した表情を浮かべた快斗に新一もまた安堵する。


 ――上手く騙す事が出来た、と。


 何時の頃からか感じる事の出来なくなった味。
 それが命をつなぐ為の薬や点滴の副作用だと知って、当時はそれなりのショックを受けた。

 けれどすまなそうに謝ってくる哀の姿を見ていたらそんな事は些細な事に感じられて。
 それ程気にならなくなっていった。

 今は…少し辛いけど。



 軽く世間話の様なものをしながら和やかに食事を続ける。
 敢えてお互いに核心は避けて。
 だから必然的に快斗が喋る方が多くなってしまったのだが、新一は楽しそうに快斗の話に耳を傾けていた。


「だからね俺言ってやったんだよ。『お前は一体何時まで無実の一般市民を追い掛け回す気だ!!』って」
「で?」
「そしたらあいつ、『君を追うのは僕の生き甲斐なんです!!』とかほざきやがったんだよ!?」
「白馬らしいな」
「でしょ?」


 今ここに居ないのを良い事に白馬を散々こけ落として。
 お互いに笑い合う。

 新一はまるで今まで居なかった時間を埋めるかの様に快斗に周りの事を聞いて。
 快斗もまた新一の居なかった時間を埋めるかの様に一から順を追って話す。

 何時まで経っても終わる事のない会話は食事が終わっても続いて、場所をリビングのソファーへと移していた。


「そういえばさ、新一」
「ん?」
「蘭ちゃんとか服部とかにはもう連絡したの?」
「……まだ」
「やっぱり」


 そう、聞いた快斗本人も連絡していないだろうとは思っていた。
 もししていれば今此処にこうして二人っきりで居られた可能性は非常に低い。


「しなくていいの?」
「………」


 無言で俯いてしまった新一を快斗は黙って待つ。
 今まで避けていた核心を少しばかりついたのは解っていたから。


「誰にも…言わないんで欲しいんだ」
「…誰にも?」


 首を縦に振った新一に快斗はその訳を尋ねる。


「理由聞いてもいい?」
「居なかった時間が長かったから…周りに知らせるのは少し落ち着いてからにしたいんだ」
「そうだね」


 新一の言葉に快斗も頷く。

 確かにこの二年間で周りの人間の状態も随分変わったから。
 それに…。


「俺もその方が嬉しいし♪」
「…?」
「だって周りに知らせたら新一独占できなくなっちゃうもん!」
「……///」


 真っ赤になった新一をぎゅうぎゅうと抱き締めて。
 こういう所も相変わらず可愛いなあと思う。


「だから暫くは二人っきりで居ようねvv」
「…ん」


 やっぱり真っ赤になったまま、けれど素直に頷いてくれた新一を抱き締めて腕の中に閉じ込めた快斗が新一に見えないところで浮かべたのは少し寂しげな表情。
 それは彼には見せられない快斗の不安。

 新一は腕の中に居る筈なのに、一番近くに居る筈なのに心は酷く遠く感じられたから。



 ――ねえ新一。新一は独りで一体何を抱え込んでるの?















to be continue….


今回の新一さんは特に快斗にベタ惚れ。
快斗の方が前面に出してるけど、内心は新一さんの方が惚れてるかもしれない。

ちなみに今回の裏設定は、探→快新←平だったりします(ぇ)
だから馬は快斗を追いかけてます(苦笑)何時でも彼は報われぬ恋…(爆)

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