期待など本当はしていなかった

 全てが伝説だと思っていた


 愚かな女の名が付いた石も

 永遠の命も


 全て本当は伝説だと思っていた



 そう、思っていた…








籠から出た蒼い鳥[25]〜









「血って…」
「まあ、大方予想はつくけどね…」


 嘗て永遠の命を宿していたと伝承される生き物。
 人の血を啜って生きたのだと伝承される生き物。

 永遠を与えるという紅がその血である事は、きっと快斗の想像だけではないだろう。


「それって…」
「試しに飲んでみる? 俺の血でも…」


 クスッと笑った快斗が取り出したのは小さなナイフ。
 それを快斗は躊躇いも無く軽くスッと手首へと滑らせた。


「なっ…バカ! 何やって……」


 止めようと。
 新一はその手を、そのナイフを跳ね除けようとしていた……筈だった。





 けれど気付けば―――その傷口に口付けていた。





「予想通り、か…」


 新一に傷口の血を舐め取られ、むず痒い様なチリッとした微かな痛みに快斗は安堵にも似た小さな微笑を零す。


「そんなことだろうとは思ってたけど…」


 苦笑しながらも快斗は自分の手首の血を舐め取っている新一の髪をそっと撫でた。


「まあ、新一が吸血鬼っていうのはお似合いかもしれないけどね…」


 綺麗な綺麗な陶器の様な白い肌。
 血を滴らせた様な真っ赤な唇。

 そして、宝石の様に煌く蒼い瞳。

 ある意味彼の容姿なら普通の人間よりも、そっちの方がそれらしい気さえしてくる。



「快、斗…?」


 一頻り快斗の血を舐め取っていた新一が、我に返ったかの様に快斗を呼びその視線をやっと快斗へと合わせた。


「どうしたの? 新一」
「俺…」


 自分の行動に戸惑ってこちらを見詰めてくる新一に快斗はにっこりと笑ってやる。










「ねえ、新一。新一は俺の血飲んだんだからさ…俺にもくれるよね?」










 そう言って笑った快斗の口元には、人にしては些か長過ぎる犬歯が見え隠れしていた。









to be continue….



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