目の前に広がる紅

 全てが血の様に紅くて


 その異様な光景に

 吐き気すら覚えて目を覚ました








籠から出た蒼い鳥[21]〜









「うっ…」


 目覚めた瞬間感じたのは気持ち悪さ。
 吐きそうなぐらいではないが、気持ちの悪さに思わず口元に手が伸びた。


「んっ…?」


その手に、何か液体の様なモノが触れた。

何かと思って淡い月明かりの下で目を凝らせば、手に付着していたのはさっき夢の中で見た紅。


「!?」


 その紅に飛び起きて、近くにあったタオルで必死にそれを拭う。
 けれど、拭っても、拭ってもその紅はしつこいぐらいに手に留まり続ける。


「っ……」


 その紅が手に残っているのが嫌で。
 何故だか分からないけど酷くそれが恐くて。

 必死に擦り続ける。

 手が擦れて赤くなっていくのも厭わずに。










 ―――ギィッ…










「!?」


 その瞬間、突然聞こえた音に新一はびくっと身体を竦ませた。
 音の聞こえた方におそるおそる目を向ければ、そこにはドアを開け入って来た見慣れた彼の姿があった。


「快斗……!」
「新一? どうしたの!?」
「快斗…快斗っ…!」


 ベットの上で月明かりに照らされて、ぽろぽろと涙を零す新一を快斗は慌てて抱きしめた。


「新一…? どうしたの?」
「快斗……」


 けれど、それに新一は何も答えない。
 ただ、快斗に助けを求めるようにしがみ付くだけ。


 だから快斗もそれ以上何か聞くのを止め、そっと新一の頭を撫でる事にした。


「よしよし」


 優しく。
 何度も何度も髪の上を行き来する手に少しずつ新一も落ち着きを取り戻していく。


「大丈夫だよ。俺が傍に居るから」


 耳元で聞こえる快斗の声が新一の気持ち悪さを楽にしていく。



「大丈夫。何も心配いらないから」



 まるで魔法のようだと思う。
 彼がそういうと何も恐いものなどない様に感じられるのだから。




















「新一。少し落ち着いた?」
「んっ…」


 快斗に暫く抱き締めてもらって。
 優しく優しく撫でてもらって。

 落ち着いた新一はやっと顔を上げ、快斗と視線を合わせることが出来た。


「どうしたの?」
「嫌な…夢、見た」
「嫌な夢?」


 快斗の言葉にこくっと新一は小さく頷いた。


「目の前に木があって…その木に実がなってるんだ」
「実?」
「そう、遠くから見ると真っ紅な実。それが段々木の近くまで近付いて行くと…」


 そこまで言って、新一はまたぎゅっと快斗の背中に回したてに力を籠めた。
 そんな新一の額に快斗はそっと唇を落とす。


「無理しなくていいんだよ?」
「大丈夫だから…」


 泣きそうになりながらも気丈にもそう言った新一に快斗は微笑む。
 それに勇気付けられた様に新一はもう一度口を開いた。


「近付いて行くと、その紅い実は………人なんだ」
「人…?」

「そう…。真っ紅に染まった――――人の死体なんだ」

「………」


 言ってから、再び快斗の胸に顔を埋めてしまった新一の背中を快斗は優しく撫でてやる。
 それは新一が泣き止むまでずっとずっと続けられた。









to be continue….



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