夢を見た
綺麗な赤い薔薇
その薔薇の一片の花弁
その花弁がひらひらと舞い落ちてくるのを見た
〜籠から出た蒼い鳥[20]〜
「あーあ…無理させ過ぎちゃったかな…」
ベットの中、青白い顔でぐったりしてしまっている恋人に何度しても意味の無い後悔を今日もまた繰り返す。
彼がいけないのだ。
あまりに魅力的過ぎるから。
でも、病人にこんなに無理をさせてしまった事に少し胸がチクリと痛むけれど。
「ごめんね」
さらさらと白いシーツに零れ落ちる黒い絹糸の様な髪をそっと撫でる。
本当に何も手入れなどしていないし思いっきり乱暴に扱っているのを散々見ているけれど、どうしてこんなに綺麗なんだろう、と首を傾げたくなる程綺麗な髪。
勿論髪だけではなく、新一は全てが綺麗だと思う。
白い細い肢体も。
綺麗な黒い髪も。
そして、どんな宝石も敵わない程キラキラと輝くあの蒼が一番綺麗だ。
恋人としての贔屓目などではなく。
本当にそう思う。
どうしてこの人はこんなに綺麗なのだろうか。
勿論、見た目だけではなく心も。
真っ直ぐで、いつだって前を見ていて。
現実なんか、特に彼の見てきた現実なんか決していいものだけではなかっただろうに、どうしてこんなに素直に生きてこれたのか。
それが未だに一番の謎だけれど。
「大好きだよ。新一…」
今は閉じられた瞼の奥にある蒼に口付けるように、優しく瞼に触れるだけのキスを落とした。
「さてさて、じゃあお姫様が起きて喉が渇いててもいいように水でも持って来とこうかな」
ちょっと名残惜しそうに新一を一瞥してから、快斗は手近にあったバスローブに袖を通すと新一を起こさないように静かに部屋を出て行った。
その直後、いつの間にか位置を変えていた月の光が新一の白い身体を照らし出した。
その場にもし、快斗が居れば気付いた筈だった。
二人の間に落ちた石がさり気無く新一の口元あった事を。
そして―――月の光によって紅く染まった涙が、新一の口元に零れ落ちていた事に。
to be continue….