知っていたつもりだった

 分かっていたつもりだった


 彼が自分にとっていかに大切で

 彼を自分がいかに愛しているか


 けれど俺はきっと

 本当の意味では知らなかったのかもしれない



 彼の大切さと

 そして、彼の愛情の深さを








籠から出た蒼い鳥[19]〜









 パンドラは確かに手に入った。
 でも、伝説通りならそれを使うにはボレー彗星の時に使わなくてはならない筈だ。

 今は…もうそれは通り過ぎてしまっていて…。










「快斗」


 漸く落ち着いたらしい快斗の気配を感じ取って、それまで好きにさせていた新一が口を開いた。


「離せよ。苦しいだろ?」
「あっ…ごめん」


 ぎゅーっと抱き締められていた腕から出て、新一は放られていたパンドラを拾いあげると改めてじっと見詰めた。


「なあ、快斗…」
「ん?」
「これってどうやって使えばいいんだ?」


 パンドラの存在は知っていた。
 彼とそういう関係になって、彼の正体を聞いて、彼が何を目的をしているのか聞いた時に一緒に聞いた。

 けれど、使い方までは聞いていなかった。


「あー…それなんだけどねぇ……」
「?」


 なんだか酷く言い辛そうにしている快斗に新一が首を傾げる。


「いや、俺も色々調べたんだよ。それを手に入れてから」


 すぐに割ってしまおうかと思ったけれど、長年人々を惑わせ続けたその愚かな女の正体を知りたくて。
 興味から調べてしまった。

 そして分かった結果。


「何か分かったのか?」
「んーとね、それ一応薬みたいなんだ」
「薬…?」
「そう、薬。多分昔の秘薬みたいなもんじゃないかな?」


 透明な石の中。
 月の光によって中に毒々しい程の紅を見つける事が出来た。

 自分の無意味な程に天から与えられた頭を使って、その紅を調べ倒した。

 新一が居ない寂しさを紛らわせるかの様に。


「成分は、流石に割って取り出してないから分からないけど、でも液体なのは確かだ」
「液体…? そんな感じはしないけど…」


 そう言いながら新一は手の中の石を振ってみる。
 が、別に液体が入っている様な感触はない。


「んー…百聞は一見にしかずって言うし…。とりあえず見てみる?」


 こくん、と頷いた新一の手を取って快斗はリビングを出て階段を上り、今は快斗が寝室として使っている元は客間であったその部屋のドアを開けた。

 どの客間も同じ様に大きな窓が設えてある。
 空を見るにはうってつけだ。

 そして、今日はまるで狙ったかのように雲の無い綺麗な夜空だった。


「翳してごらん?」


 快斗の言葉に導かれるままに新一はその石を月へ翳す。

 それまで透明だっただけの石の中に新しく現れたのは、異常なまでの毒々しい紅。
 まるで月の光に反応して、その石が血を滴らせたような紅。


「ね?」
「ああ…凄いな…」
「つまるところ、それは月の光にだけ反応して溶ける様になってる。きっと普段は中で固形物として固まってるんだろうね。
 固まってる時は色も透明になるし…。でも、実際のところ何なのかは割ってみないと分からない」


 けれど、その石の中にあるからその効果があるのかもしれない。
 もしかしたら空気に触れてしまったら、その効果はなくなってしまうような物質かもしれない。

 迂闊には取り出せない。


「じゃあ、どうしたらいいんだよ?」
「さぁ…。俺も困ってるんだよ」


 苦笑を浮かべた快斗に新一は月の光を受けながら微笑んでやる。


「折角IQ400の天才的頭脳があるっていうのに宝の持ち腐れか?」
「うっ…俺だって色々考えてたんだよ?」
「ああ、じゃあ俺が居ない間に考え過ぎて煙でも出たか?」
「もぅ…新ちゃんが虐める……;」


 むぅ…っとむくれる快斗を新一は思いっきり笑ってやって。
 けれど、一瞬快斗の口元に上った笑みにびくっと身体を竦ませた。


「かいっ…」
「新一君…。いい度胸してるよね?」
「何言って…」
「ここは今俺が使ってる部屋。後ろにはベッド。そんでもって、俺は新一君の恋人v
 ってことは、勿論そういう事も分かっててそんな風に俺のことからかってるんだよね?」


 にこやかにそう言われて、じりじりと新一は後退さる。


「ちょっ、ちょっと待てよ!」
「なぁに?」
「今はそれより、このパンドラをどう使うかの方が…」
「無理。俺すっかり煽られちゃったもんv」


 舌舐めずりをする、という言葉が正にぴったりな感じの狼から新一も逃げようと試みたのだが…。


「あっ…」


 気付いて振り向けば、もうベットサイドまで追い詰められていた。


「つーかまえた♪」
「この詐欺師」
「何で? 俺は怪盗だよ?」


 しれっと、探偵である自分の前で怪盗だなんて言って下さる恋人をじーっと見詰める。


「お前は俺が嫌がるような事はしないよな?」
「うん。勿論だよ♪」
「じゃあ、やめ……」
「俺は新一が気持ちい事沢山してあげるからねv」
「ばっ、何す……んんっ…!」


 有無も言わさず新一の唇を奪って。
 思いっきり抱き締めて。
 息もつかせぬ程に唇を貪って。

 それでも、最後には助けを求めるように首に回された細い腕に、快斗は心の中だけでほくそ笑んだ。









to be continue….



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