自分のせいだと
自分が幸せになりたいと思ったせいだと
知っていた
分っていた
いずれこういう未来が来るのだという事は
〜籠から出た蒼い鳥[17]〜
これで良かったのだ。
そう、これで全て終わったのだ。
そう自分に言い聞かせ哀は工藤邸の扉を閉めた。
途端に零れ落ちる涙。
どんなに泣く資格がないと分っていても零れ落ちてきてしまう雫。
彼が好きだった。
そして彼の事も。
大切だった。
大切な人達だった。
優しくて。
暖かくて。
あんな幸せで穏やかな気持ちになれる日はもう二度とやってこない。
けれどそれは自分の罪。
そしてそれに対する罰。
「工藤君を宜しくね…」
それだけ言って、哀は工藤邸を去る為に門を越え道に出たところで―――。
「待てよ、灰原」
―――久し振りにその声を聞いた。
「く、どう君…?」
塀に背を預け、寄りかかるように立っていた新一。
その姿にまた涙が溢れそうになる。
「どうして…」
「お前が来たの分ったから」
きっと快斗と自分が話をしている間にもう既に出ていたのだろう。
流石というか何と言うか。
彼が外に出た事に気付けない程、自分達が感情的になっていたのもあるのだろうけれど。
「工藤君…私…」
「いいんだ。いつかは言わなきゃいけない事だったんだから…」
きっと最初の方は聞いていたのだろう。
新一も哀が快斗に事実を告げた事を知っていた。
「俺がいけないんだよ…。俺は出てくるべきじゃなかった…」
「工藤君!」
俯いて…苦々しげに呟く新一に哀は思わず声を上げる。
けれど、それにすら今の新一は首を横に振る。
「俺は出てくるべきじゃなかった。
あそこで…唯静かに暮らしているべきだったんだ。
そうしたら俺は灰原にもこんな思いをさせずに済んだ…」
「工藤君…私は……私はそれでも……」
哀はそれでも良かった。
いや、寧ろそれで良かった。
やっと……やっと自分の罪を責めてもらうことが出来たから。
「灰原…」
「私のことはいいの。私は貴方に少しでも幸せになって欲しいから」
真っ直ぐ新一を見詰める哀は微笑んでいた。
本当に幸せそうに。
「貴方が少しでも幸せになれるなら、私は何があっても構わないわ」
何があっても。
何を言われても。
事実である事に違いはない。
けれど、それならば今出来るのは彼が少しでも幸せで居られるようにすること。
だから…。
「工藤君、コレ…」
渡されたのは一本の小瓶。
哀のもう一つの目的。
「灰原? コレは?」
「痛み止めよ。昨日やっと完成したの。これできっと痛みはなくなるわ…」
治る訳ではないけれど。
残り少ない時間ならその時間を痛みになど邪魔されないように使って欲しいから。
そう思って持ってきたもの。
もしかしたら…必要なくなるのかもしれないけれど。
「さんきゅ…」
新一はその小瓶を受取ると哀をぎゅっと抱き締めた。
「く、工藤君!?」
幾ら時間が夕方とは言え、それでも人通りがない訳ではない。
いつもの新一ならこんなことはしない。
それに哀もこういうことに恥ずかしさを覚えない訳ではない。
でも…。
「ほんと…さんきゅーな」
今は少しだけそんな事に目をつぶって、最期のこの温もりを噛み締める事にした。
to be continue….