本当は使いたくなんてなかった
本当は二度と見たくもなかった
けれどもしかしたら
もしかしたらこんな事もあるのではないかと思っていた
そんな予感、本当は当たって欲しくなんかなかったのに
〜籠から出た蒼い鳥[16]〜
「パンドラって…貴方、それを探す為に今…」
「ああ、まだキッドをやってるって話? あれは唯のカモフラージュだよ」
事も無げにさらりと快斗はそう述べる。
まるで何の興味も示していないように。
「パンドラが見付かって、すぐキッドを辞めたら俺がパンドラを見つけたって言ってるようなもんだ。
流石に俺もそこまで馬鹿じゃないよ?」
その為に新一にすら見付かっていないと嘘を吐いた。
一番大切な人にすら、嘘を吐いた。
巻き込みたくない。
そう言えば聞こえは良いが、言わなかったのはあくまでも目的の為。
そう言ってクスッと笑う。
裏の顔で。
新一には決して見せない顔で快斗は哀に笑いかける。
「ねえ、君は一体新一に何をしてあげられるの?」
「………」
「何も出来ないなら消えてくれ」
俺と新一の目の前から、今すぐに。
吐き捨てるように快斗は哀に向かって言葉を紡ぐ。
演技でも、偽りでもない本当の憎悪を向けて。
「分ったわ。私はもう二度と貴方達の前に現れない」
気丈にも哀は快斗を真っ直ぐ見詰めそう言い放った。
「だから…一つだけ約束して?」
「何?」
興味もなさそうに快斗は哀に尋ねる。
今更何を聞くのか、と。
「彼を――彼を幸せにしてあげて…」
それまで一滴も零れなかった涙。
その涙が哀の頬を一筋の透明な道になって零れ落ちて行った。
「分ってる。そんな事言われなくても当然だろう?」
けれど、快斗はそんな物には少しも心を動かされなかったと言う代わりに冷たく言い放った。
「そんな事言われなくたって俺は新一を幸せにするよ」
冷たいけれど真っ直ぐな言葉。
ソレに安堵して哀は立ち上がった。
「もう二度とここには来ないからこれは処分しておいて」
そんな一言を残して。
to be continue….