なあ、俺はあの時どうするべきだったんだ?
俺は何を間違ったんだろう
俺は本当はどうするべきだったんだろう
考えても考えても答えはきっと解らないまま…
バロック6:決意
志保に言われた通り2階の客間へと入り、ベットに思いっきりダイブした。
音を立てて軋むスプリングが何処か耳に心地良い。
ごろんっと寝返りをうって、天井を見上げる。
この部屋の天井もまた彼を思い出させる様な『白』。
その白を見詰めたまま、新一は再び過去へと意識を飛ばす。
あの日も空は青かった。雲は綺麗な白を描いていた。
小鳥は囀り、木々は風と戯れ歌い、穏やかな日常という名の幻想を作り上げていた。
『新一。ご飯出来たよ?』
『ん…』
『ほら、ちゃんと起きて?』
『まだ眠ぃ…』
『だーめ。もうお昼だよ?』
『わぁったよ…』
その日も何時もと同じだった。
いや、努めて何時もと同じ様にしていたのかもしれない。
彼に気付かれてはいけなかったから。
『じゃあ新一、俺は行って来るけど…気をつけてね?』
『わあってるよ。俺だって子供じゃねえんだ』
『うん。じゃあ行って来るね』
それが最後に交わした言葉。
アイツが出かけて行った後俺はあの部屋を出た。
何のメッセージも残す事無く、唯部屋のポストへあの部屋の鍵を残して…。
全てが終わったらもう二度と逢わないと誓っていたから。
それが彼の為だとそう思っていたから。
それが浅はかだったと言われればその通りかもしれない。
逃げたのだと言われたら、その通りだと答えるだろう。
それでも、それでもあの時の俺は、それが一番いい方法だと思ったんだ。
こみ上げてくる泪を堪える様に瞳を閉じる。
それでも熱い想いは留まる事無く、そっと零れ落ちる。
どうして彼がこんな事をしたのか解らなかった。
信じたくない。
何も信じたくなんかない。
それでも『探偵』としての自分がこれは現実で真実なのだと自分に伝えてくる。
そんな事知りたくなんかないのに。
「どうしてだよ…」
瞳を開き、潤んだ視界で目の前に広がる『白』に問う。
「どうして…こんな事したんだよ…」
何も問題はない筈だった。
組織を潰して、今までの過去を消して、それでお互い新しい人生を歩んでいける筈だった。
幸せになれる筈だったのに…。
「どうして……」
答える事のない『白』への問いかけは、新一が泣き疲れて意識を失うまで、ずっとずっと続けられた。
「行くのね」
「ああ」
2階から降りてきた新一を志保は階段下で待っていた。
その顔は何かを決意した表情を浮かべていた。
「ねえ、工藤君」
「何だ?」
「貴方彼がこんな事をした理由解ってるの?」
じっとこちらを見詰めてくる志保に新一は緩く横に首を振った。
解らないし、解りたくも無い。
そんな風に。
「そう。でもきっと…きっと彼に逢えば解るわ」
「……そうだろうな」
苦々しく吐き出す様にそう言った新一に志保は少しだけ悲しそうに微笑んだ。
「ねえ、工藤君。貴方達幸せになれるといいわね」
「宮野…?」
志保の表情と、言葉が理解できなかったのか新一は不思議そうな表情を浮かべた。
「何でもないわ。気を付けて行ってらっしゃい」
その新一の表情をかき消す様に志保はそう言って、ゆっくりと玄関の扉を開けた。
それは出陣の合図。
「ああ…行ってくる」
そう言って旅立って行った新一の背が見えなくなっても志保は新一が旅立って行った先をずっとずっと見詰め続けていた。
to be continue….
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