「新一〜これ切って♪」
「ん」
「後は、これを火にかけて〜♪」

 ことこと煮込めばこっちはOK〜♪


 今日は珍しく新一に事件の依頼も、推理小説の新刊の発売もなく快斗はご機嫌で昼食を作ろうとしていた。
 そんな快斗に嬉しい事がもう一つ。

 面倒臭がりの新一からの「一緒に御飯作ろう?」のお誘い。

 それを断る理由など無く、ただただ頷く快斗なのだった。
 が、彼はこの後衝撃の事実を知ることになる(何)








〜ある日の快斗くん3〜









(まさか…ここまでとは…)


 まだまだ新一と付き合い始めて日が浅い快斗は今日初めて新一とキッチンに立ったのだが、新一の包丁さばきを見て気が遠くなるのを感じた。


(よくこれで今まで生きてこれたよな…)


 そう快斗が思ってしまうほど新一の包丁さばきは酷かった(爆)
 それは皮むきを頼んだニンジンが元の姿のおよそ三分の一程度になって戻ってくるほどに。

 容姿端麗、眉目秀麗、警視庁の方々が協力を仰ぎ、数多くの分野からのスカウト来るほどの名探偵もどうやら皮むきは苦手らしい。


(これで自炊してたっていうんだから、ある意味凄いかも)


 新一は両親と離れて一人で住んでいる。
 という事は自分で家事もこなさなければいけない訳なので料理も自分で作っていたらしいのだが…。


(俺料理できて良かった…)


 快斗が心からそう思ってしまったのは無理も無い。
 そんな可愛らしい(いや、関係ねぇだろby新一)恋人の事に気を取られていたからであろうか。

 どうやらジャガイモを剥いてていた手が滑ってしまったようで快斗は中指を切ってしまった。


「…っ………」


 普段の彼ならば新一が側にいる時に怪我をしても声になど出さないであろうが油断をしていたこともあり思わず声が漏れてしまった。


「お前何やってんだよ!」


 それが新一にばれないはずが無く、切ってしまった左手を直ぐに奪い取られた次の瞬間、


「し、新一!?」


 快斗は目の前の状況をとっさに理解する事が出来なかった。


「ん?」


(そ、それは犯罪だよ…///)


 快斗の目の前の光景それは―――新一が快斗の切ってしまった指を自分の口に含んでいる姿。

 傷口から出た血を吸いとってくれている。
 そして自分の呼びかけに対して上目遣いで返事をする姿。


(…やばい)


 これはまずい。
 本当にひじょーにまずい。

 だってだって、上目遣いだけでもやばいというのに、彼の口腔の熱さだとか、可愛い下が自分の指を舐めてくれちゃったりしているのがありありと分かってしまったり…。
 快斗は自分の理性の限界を試されているような気がした…。


「わりぃ、痛かったか?」


 余りに意外な新一の行動に固まってしまった快斗の様子に新一は心配そうにそう尋ねた。


「いや…大丈夫。うん」
「ん、お前顔真っ赤だぞ?」
「え…そ、そう…?」

(そりゃぁねぇ…)


 可愛い恋人が自分の指を咥えて上目使いで見てくりゃ誰でも赤くなるだろう…。
 快斗は今更ながらに新一の天然ぶりを思い知ったのだった。


「まってろ、今消毒すっから」


 そう言って新一はさっさと救急箱を取りに行ってしまう。


(新一…無自覚は罪だよ…)


 心の中で盛大に溜め息をつく快斗を残して。








「ったく、大事な商売道具に傷なんか付けてんじゃねえよ」


 快斗の傷は意外に深く、新一は手当てをしながら舌打ちをする。


「だって〜、新一が可愛過ぎるんだよ〜」
「人のせいにしてんじぇねぇ!」


 そう言うと、包帯を巻く力が強められた。


「新一…痛い…」
「だったら大人しく手当てされてろ」


 そう言って新一は器用に包帯を巻いていく。


「新一って包帯巻くのは上手いよね」
「なんだよその『包帯巻くのは』ってのは」


 まるで俺が不器用みたいじゃねえか、と新一は不機嫌そうに眉を寄せた。


(あ、自覚ないのね…)


 これは絶対本人の前で包丁さばき云々の話をしちゃいけないなぁ、と心に誓う快斗だった。


「ほら、終わったぞ」


 綺麗に包帯を巻き終え、仕上げに包帯止めを付けるとそっとその手を自分の手で包み込んだ。


「新一?」


 そんな新一の様子に何かを感じ取った快斗はそっと名前を呼ぶ。


「お前は俺のもんなんだから勝手に傷なんかつけんじゃねえよ」


 顔を真っ赤にしながらも素直にそう言ってくれる新一に快斗は盛大に抱き着いた。


「新一〜愛してるよ〜Vv」
「うわっ!? 馬鹿!抱き着くんじゃねえ!」
「だって新一可愛いんだもんvv」
「可愛くない!!」


 げしげし、と新一に蹴られながらも快斗は幸せを噛み締めていた。


(俺ホント幸せ……)


「俺は新一のなんだろ? だから新一も俺の〜Vv」
「ったく、引っ付いたままじゃ料理できな……」
「ん? どうしたの新一?」
「快斗…焦げ臭い…」
「え…あ〜〜!!! お鍋掛けっぱなしだ〜!!!」


 急いでキッチンに戻る快斗の後ろ姿に新一は優しく微笑んだ。


「ばーろぉ…。俺はとっくにお前のもんだよ」


 静かに呟いた言葉は新一だけの秘密…。












ある日友人と「指チュパはやる方は無自覚がいいんだよ!」と熱弁していたのがこれを書いた発端(爆)
やる方が無自覚、やられる方がドキドキが醍醐味です!(笑)
しかし、今回は快斗が良い目みてやがる…。
『ある日〜』はあくまで快斗いじめられ話しなのに(酷)





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