ささやかな約束をした
大切なあの人と
一度もしたことのない
約束をした

お互いを縛るだけだと解っていたのに
お互いを縛るだけだと解っていたから
たった一つの約束をした

 いつか逢おう 

あなたの生まれたこの季節に
すべてが終わったら
きっと逢おうと約束をした

ささやかな約束は
未だ果たされてはいないけれど
それだけが
私を支え私を縛る
唯一のもの

 いつか必ず
 貴方を迎えに行きます…










Time After Time 〜花舞う街で〜 3











その日、小泉紅子は珍しい客を迎えていた。

「それで?一体わたくしに何の用?」

客に向かって紅子は尋ねる。

「用・・・って言うか・・・お前になら話せるかと思ってな」

そう言って客――黒羽快斗は自嘲気味に笑った。

普段の快斗ならば決して他人に見せることのないその表情。

けれど、この目の前の魔女には全てがばれてしまっているから取り繕う必要も無い。

「話・・・?わたくしに?」

怪訝そうに眉をひそめる紅子

「そ。はなし。まぁ、強いて言うなら相談になるかな?」

努めて明るく言う快斗に紅子は今日が何の日なのか思い出した。

「光の魔人との約束のことかしら?」

「流石は紅子。話が早くて助かるねぇ」

「誉められるほどのことじゃなくてよ。それで?」

冷たくあしらう紅子に快斗は苦笑を返す。

「冷たいねぇ。ま、いいけど。」

茶化す快斗に紅子は苛立たしげに髪をかき上げる。

「話す気がないのなら帰ってくださらない?」

「解ったよ。」

これ以上からかうのは良くないだろう。ただでさえ話を聞いてもらおうとしているというのに。

もしかしたら話したくないのかも知れないなと、快斗は思う。

自分のことだというのに、いや、自分のことだからだろうか・・・なぜなのか解らない。

自分の物思いを紅子に悟られる事なく、快斗は話しだす。

「パンドラを見つけたってのに・・・どうしても・・・行けないんだよね・・・」

五年間、誰にも語ることのなかった事。

「四年前はさ、仕方なかったと思うんだ。」

怪我を負って、ほとんど動けなかった。

「あいつに心配かけたくなかったしね。」

ベッドから起き上がることさえ困難だったあの怪我。

パンドラを手に入れるためだったとはいえあれだけの怪我を『彼』に見せたくはなかったから。

「あの時はよく生きているものだと思ったよ」

ぽつりぽつりと語る快斗。

それを黙って聞いている紅子。

「でもさ、三年前・・・あの時は・・・行けたはずなんだ」

誰にも・・・寺井にさえ言うことはなかった・・・

「でも、行くのが怖くなった・・・」

「行くのが?」

やっと反応を示した紅子。その声は嘘をつくなと言下に言っている。

「そうだな・・・行くのがってのはおかしいよな。実際行ってるんだし。」

「逢うのが怖かったのでしょう?」

紅子は容赦がない。

「罪人たる貴方が、罪を暴く『彼』に近づくことに躊躇したのでしょう?」

「ああ」

「『彼』の光を他でもない貴方が翳らせることを恐れたのでしょう?」

「ああ」

「そして今になって、後悔しているのね」

「ああ。あの時あんな約束しなければ、あいつは俺なんか待たなくってもよかったんだ」

その言葉に紅子は『彼』が快斗を待ち続けていることを知る。

「なぁ、紅子。俺はどうすればいい?」

罪深いこの自分が、『彼』の前に現れてはいけないと思うのに

罪深いこの自分を、『彼』は今も待ち続けている

「・・・馬鹿な人」

ぽつりと紅子は呟いた。

なんて愚かなのだろう。この目の前の男は。

なんて愚かなのだろう。この自分は。

「逢いたいのでしょう?」

この男を間違いなく愛しているというのに

「ならば逢いに行きなさい」

恋敵たる者に味方している

「『彼』も貴方を待っているのでしょう?」

なんて愚かなのだろう

「でも・・・なんであいつは俺を待っているんだと思う?」

なぜ、そんな簡単なことすらこの男は解らないのだろう

「貴方に・・・逢いたいからでしょう」

「俺に?どうして?」

それとも、自分に対する嫌がらせなのだろうか

「貴方はどうして『彼』に逢いたいと思っているのかしら?」

快斗を疑ってしまうそんな自分が嫌で仕方がない

「・・・あいつが・・・好きだから・・・」

ズキンと胸が痛む。

解っていたこととはいえ、本人の口から直接聞くとやはり堪える。

「なら、『彼』もそうなのではなくて?」

淡々と告げる。

そうでもしないと、この胸の痛みを悟られそうで。この狂おしい想いに気付かれそうで。

「本当にそう思う?」

不安そうに尋ねてくる快斗に

「直接逢って自分でお確かめなさい」

冷たく突き放すように答えた。





To be continued …



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