待つことに慣れてしまえればよかった
そうすればこんなに苦しい思いはしなかったのに
諦めることを選んでしまえればよかった
そうすれば裏切られたなんて思うこともなかったのに
ただひたすらに待つだけじゃなく
自分から逢いに行ければよかった
そう思っても
疎まれるかも知れない
笑われるかも知れない
そう思うと動けない
下らない事を考えてしまう俺は
きっとあいつには似合わない
こんな俺は嫌だから
弱い俺は嫌だから
お前に逢いたいのに逢いたくない
こんな俺でも
なぁ、お前は逢いに来てくれるのか?
Time After Time 〜花舞う街で〜 2
志保と別れた新一は、工藤邸から徒歩十分ほどの距離にある児童公園へとやってきた。
公園内には新一以外の人影はない。子供ですら、一人としていなかった。
外で遊ぶ子供が減ったこともあるが、GW中であるということもこの公園の人気のなさの理由の一つだろう。
そんな静寂の中、新一は迷うことなく進んでゆく。
そして、児童公園の最奥にある藤棚の前へとやってきた。
今年はもう随分と藤の花が咲いている。
あと一週間もすれば満開になるかもしれない。
しばらく薄紫のその花房を眺めてから、ゆっくりと藤棚の下にあるベンチへと腰掛ける。
すると目の前に一房だけ満開の花房があることに気付いた。
立ち上がり、そっとその花房に触れる。
そんなはずはないだろうけれど、でも確かに、微かな温もりを感じた。
その紫の花弁を見つめていたら、ふと『彼』の瞳を思い出した。
かの人の瞳はこの花のような薄紫ではなかったけれど
かの人の温もりはこれほど微かではなかったけれど
毎年、この花を見ると思い出す。
かの人の紫紺の瞳。かの人の優しい温もり。
今でもしっかりと覚えている。
かの人の最後の言葉。
「美しいですね」
月光に包まれて
「散ってしまうと解っていても」
あの真白な罪人は
「いえ、散ってしまうと解っているからこそ」
この薄紫の花を見て
「本当に美しい」
最後にこう言ったんだ
「いつか逢いましょう。貴方の生まれたこの日に。全てが終わったら。この美しい花の下で。私達の本当の姿で」
あまりに突然のことで。おもってもみなかった事で。とっさに言葉が出てこなかったから。
俺はゆっくりと頷いた。
To be continued …