薄紫の花が舞い散る中
初めての約束をした
瞳の奥に熱を宿して
真白の怪盗が
初めて俺に求めた約束
いつか逢おう
春の終わり
薄紫の花が舞い散る季節に
きっと逢おうと約束をした
アイツが望むのならと
俺はうなずいたけれど
未だ果たされることのない約束
逢おうと言ったのはアイツ
うなずいたのは俺
それなのに…
お前を信じているけれど
なぁ、俺はいつまで待てばいい?
Time After Time 〜花舞う街で〜 1
GW真っ只中のその日、志保は久しぶりに庭に出ていた。
ここ最近新しい研究のためにずっと地下に篭っていたので地上に出るのは久しぶりだ。
「もう桜も散ってしまったのね」
阿笠低の庭にある桜の木を見上げながらぼんやりと呟いた。
「お〜い、志保君?どこじゃ?」
「博士、庭よ。」
養父の声に応えると、志保はリビングの窓を開け、そこに腰掛けた。
「おお、ここにおったのか」
「ええ。今年はちゃんと桜を見ていなかったから」
そういいながら、また桜を仰ぐ。
「この桜は遅咲きだからまだ少しは残っているかと思ったのだけれど」
寂しそうに呟く志保に阿笠は残念そうに答える。
「うむ。今年は幾分早くてのぉ。志保君を呼ぼうかとも思ったんだが邪魔になるかと思って止めてしまったんじゃ。すまんのぉ」
「いいのよ、博士。気が付かなかった私も悪かったんだし。気にしないで」
優しく微笑みながら言う志保を見て、博士は嬉しそうに笑った。
数年前、この家に来た時には全く笑わなかった志保。
ここ何年かで、随分と表情を見せるようになった、その事実が阿笠を喜ばせる。
「お詫びにアイスティーでもいれてくるかの」
「ありがとう、博士」
阿笠がキッチンへと消えると志保はまた桜を見上げた。
「もう桜も終わって・・・五月に入ったのね。早いものだわ。」
そのままぼんやりと桜を見上げていると、不意に視界の端に動くものを捕らえた。
「工藤君」
それはちょうど工藤邸から出てきた新一だった。
「よお、宮野。久しぶりだな。研究の方は終わったのか?」
「いいえ、まだよ。でもひと段落着いたから。珍しいのね、あなたが外に出るなんて」
五年前、組織を潰してからというものただでさえ出不精だったというのに、より外に出ることをしなくなった新一。
大学と事件の要請がなければ一秒たりとも外に出ようとしない。ある日を除いて。
「今日は五月四日だからな」
説明ともいえない説明。けれど、全ての事情を知る志保にとっては十分すぎる。
「今年も行くの?」
解りきったことだ。新一はこうして外に出ている。それでも訊かずにはいられなかった。
毎年、『彼』との『約束』のために出かける新一。
毎年、『彼』に裏切られて帰ってくる新一。
そのときの新一の寂しそうな姿を見たくない。そう思ってしまうのは罪なのだろうか。
行って欲しくない。そう思ってしまうのはいけない事なのだろうか。
「ああ、『約束』だからな」
「今年もいないかもしれないわよ」
「それでも『約束』は『約束』だ。破るわけにはいかない」
「・・・そう」
解りきったことだ。新一がなんて答えるかなんて。それでも言わずにはいられなかった。
四年前から毎年のように繰り返される問答。
五年前は自分も『彼』を信じていた。
五年前から彼は変わらず『彼』を信じている。
何度裏切られても。何度涙を流しても。変わらず『彼』を待っている。
「今年は・・・今年こそは・・・きっとあいつも来てるさ」
暖かな日差しの中、新一はゆっくりと天を仰ぎ呟いた。
それは期待であり、願望でもある。
「あまり遅くならないようにね」
「解ってる。じゃあ」
軽く手を上げながら新一は門扉を出て行く。
その後姿を見つめながら、志保は祈らずにはいられない。
「今年こそは、工藤君が『彼』に逢えますように・・・」
小さく祈ると、志保は窓辺へと戻っていった。
To be continued …