──その合言葉は必然だった。


 それは、2人にしか解らない…2人しか知り得ない唯1つの合言葉。

 それは、呼び合っていた2つの運命が交わる為の『計画』のハジマリ…


 ……やがて訪れる「計画的邂逅」まで2人を支配する、短くて重い言葉。





                         ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
                           8月のBlue Sapphire -7-

                               〜怪盗KIDからの挑戦状?〜
                         ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「もう、目を開けられても大丈夫ですよ」

 頭上から聞こえてきた声に、コナンはゆっくりとその蒼き瞳を開く。
 それから緩慢な動きで周囲を見まわし、

「…中継地点か…?」

と、呟いた。

「本当なら、貴方はここで私を待っている予定だった…違いますか?」
「その通りだ。今日の天候と建物の位置から場所は割り出してた」
「全く…、やはり私が認めるのは貴方だけですよ、名探偵」

 今回、予告状は元よりコナンにだけ宛てられた“招待状”にも、この中継地点の場所は明記されていなかった。

 時々、気紛れのように暗号の中に紛れているその場所を、正確に把握したのは今までに1人しかいない。
 そしてその人物は、たとえ何も記されていなくとも、その場所を割り出す事くらい容易にやってのける。

 それが、目の前にいる少年の姿をした名探偵なのだ…。

「さて。それでは本来の目的に入りましょうか」

 抱きかかえていたコナンを地面へ降ろし、キッドは視線を合わせるように跪く。
 そしてそのまま、恭しく取った右手に口付けた──


「…なんだってこんな面倒臭いやり方にしたんだ?」

 キッドの行為を黙って見つめていたコナンは、やがてポツリと呟く。

「知ってたんだろ? コレがイミテーションだったことくらい」
「おや…お気付きでしたか」
「実際見たらオレでも解った。どーせお前の事だ、本物は持ってるンだろ?」

 徐にポケットから出された蒼い宝石。
 それはあの展示室に飾られていた…キッドの今日の獲物。

「やはり、貴方がお持ちだったんですね」

 月光りに淡く輝くイミテーションブルー。
 その輝きは、やはり本物とは明らかに異なっていて…

 ……まして……


「貴方の仰る通り、本物の女神は…こちらに」

 今だ取ったままのコナンの手はそのままに、空いている方の手をくるりと翻す。

 …次の瞬間には現れている女神。

「アイツ等は極端だからな…。あそこまであからさまに普段と違う行動を取れば、嫌でも違和感を感じる」
「良い考えだとは思いますが…名探偵にその気がないのなら、全くもって意味がない」
「今日の目的は犯行の阻止じゃねぇし……第一、お前を捕まえる気はないさ」
「おや…、私には興味がありませんか?」

 コナンの発言に「こんなに私はお慕いしていますのに…」と呟く怪盗。
 そんな怪盗の言葉に、

「……解ってて言ってる辺りがムカツク」

 そう言ってコナンはキッドから手を離す。
 離れていった手に苦笑を浮かべつつ、

「大きな犯罪の前には、このような犯罪は小さすぎますか…?」

と、キッドは尋ねた。
 その言葉にぴくり、と片眉を上げるコナン。

「…なんか、勘違いしてねぇか?」

 不機嫌さを全開にして呟く。

「犯罪に大きいも小さいもない。それに、お前自身には…癪だが興味もある」
「………」
「だけど…それを今、追及しようとは思わねぇ。馬鹿じゃねぇんだから、それくらい解るだろ?」

「…私が貴方に情報提供しているから、ですか?」

 面倒臭そうに言葉を紡ぐ探偵に、怪盗は恐る恐る常に思っていたことを口にした。
 しかしそれに対するコナンからの返事はなく…ただ、沈黙だけが流れる。


「お前……マジで馬鹿か?」

「酷いですよ、名探偵…;」

 キッドにとっては長く、果てしなく続くかと思われたそれ。
 実際は数秒にしか満たなかった沈黙の後、やがて開かれたコナンの口から出た言葉に、キッドは心底情けない声を上げる。

 ポーカーフェイスも何もあったものじゃない。

「……仕方ねぇ。馬鹿の為に1度だけ言ってやる。2度目はねぇから、しっかり聞いとけよ」

 はあ…と溜息を付きつつ、目の前にいる世紀の大怪盗を真っ直ぐに見つめる。

「オレとお前は、立場は違えど目的は同じだ。その上で、こうしてお互いの利益になる情報を交換し合っている…言わば協力関係にある。そうだろ?」

「ええ…、その通りです」

 コナンの問いかけに神妙な面持ちで頷くキッド。
 そんな怪盗に探偵はにやりと笑い、

「だが──オレの中では違う」

と、それを否定した。


「オレはお前を、共犯者だと思ってる。これ以上にない最高の共犯者だ」


 2人の位置は始めから変わっていない。
 キッドはコナンの前で跪き、2人の距離は50cmにも満たない。

 だからこそ、コナンには息を飲む怪盗の様子が解る…

「その最高のパートナーを、みすみす逃して堪るかよ」

 最後にそう言って、コナンは不敵な笑みを浮かべる。


 それは勝気で推理の最中に良く見せる表情──


「……どうやら、私は思った以上に評価して頂いていたようですね」
「文句あるか?」
「滅相も…身に余る光栄ですよ」
「なら、下らないことに時間割いてるんじゃねぇよ」
「申し訳ありません。──それでは…」

 横柄な態度のコナンに、キッドは苦笑を浮かべながら手にしていた宝石を渡す。

「元々、本日の予告状は貴方を呼び出す為だけのものでした。それにはお気づきで…?」
「…現場に行ってから…」
「そうですか」

 キッドから問いかけに少々悔しそうな表情を浮かべ答えるコナン。
 そんなコナンの素直な反応に、ポーカーフェイスを外した心からの笑みを浮かべキッドは話を続ける。

「女神をお返しするのは、そのついでのようなものです」
「どーせ、騙されたかなんかで贋物とは知らずに展示してたんだろ?」
「ええ…その通りです」
「それを知ったお前が、オレを呼び出すのに好都合だとそれを利用した」

 コナンの言葉に、キッドは何も言わずただ微笑む。
 それだけでコナンにはそれが正解だと解ってしまい、深々と溜息を付いてしまう。

 実際に本物と贋物を入れ替える、という作業はあったのだが…
 今回の予告状は、言わばコナンを呼び出す為だけに届けられたようなもの。

 …警察関係者の苦労を思うと、なんだかとっても申し訳ない;

「……メッセージには気付かれましたか?」
「メッセージ…?」

 徐に尋ねてきた怪盗に、コナンは素直に首を傾げる。

「予告状の中に、メッセージを入れていたのですが…」
「はぁ?!」
「それが、本日の本題です」

 完璧に解いていた筈のものの中に、まだ隠されたメッセージがある…

 そう言われて頭の中に“招待状”を思い浮かべるコナン。
 なんせ彼は事件の次に暗号…謎解きが好きである。そんな事実を知らされて、黙っている筈がない(爆)。



「──おや。意外にも早いご到着ですね」
「は?」

 ブツブツと考え込むコナンを愛しそうに見つめていたキッドだったが、下から感じた覚えのある気配に口元を歪める。

「迷探偵お2人ですよ」
「…呼んだのかよ」
「まあ、それが目的でしたし」
「?」

 会話を交わしている間にも、その気配はどんどん近付いてくる。コナンにも解るほど…

「予告状に記した『稀代の名探偵』。これが誰を指しているかは、お解りですよね?」

 時間がない為か、キッドがメッセージの解説を口にし始める。
 本当は自分で解きたいコナンも、近付いてくる気配に渋々ながら頷いた。


 ──『名探偵』。

 それをキッドが口にするのは、唯1人。特定の人物に対してだけ…


「本日はたまたま貴方が宝石をお持ちになっていたので、なんの違和感もなく進んだように見えましたが…」
「…違うのか?」


 バタバタと騒々しい足音が下から響いてくる。


「はい。私は元々、貴方を攫うつもりで参りました」


 探偵の右手に収まっている本物のブルーサファイアが煌く。


「攫う…?」
「下準備は整いました。これから本格的に、戦いの為の準備に入ります」


 探偵の左手収まっているイミテーションが鈍く光る。


「『稀代の名探偵が守りしBlue Sapphire』……貴方のその瞳の輝き。この怪盗めに盗まれて下さいませんか…?」


 …コナンだけが持つブルーサファイアが、月光りに輝く…


 跪いたままコナンを見つめるキッドと、そのキッドを見つめ返すコナン。
 徐々に近付いてくる足音など耳に入っていないかのように、2人は唯お互いだけを視界に入れる。

「私が持つブラックベリーを共に口にしませんか?」
「……それが、今日の目的か?」
「ええ…本題はこれだけです」

 静かに交わされる言葉のやり取り。
 ここに来ても、まだ具体的な事は口にしない2人。

 それでも今日から……今この瞬間から、何かが動き始める…


 すぐそこまで気配が近付いてきている。

「時間切れ、ですね」

 そう言ってコナンから離れる為に立ち上がろうとしたキッドの腕を掴む。

「…名探偵?」

「──Nemesis…」

 一言。吐息と混ざるようにして出された単語に、キッドが目を見開く。
 それと同時に、屋上への扉が大きな音と共に勢い良く開かれる。

「見つけたで、キッド!!」
「コナン君を放しなさいっ!」

「…ある場所へ入る為の、合言葉だ──」

 掻き消されそうなほど小さなコナンの声。
 しかしキッドはその呟きをしっかりと耳に入れ…

「解りました」

と、騒がしい2人には見えない処で微笑む。
 その微笑みに、コナンも満足そうに笑みを浮かべた後、ゆっくりと目を閉じキッドの腕の中へと倒れ込んだ…。

「コ、コナン君!!」
「おい、どないしたんや?!」

 急に力が抜け、大人しくキッドに凭れかかったコナンに慌てる2人の探偵。
 しかしピクリとも身体は動かず、ただその身体をキッドへ預けている。

 そしてコナンの右側には…何時の間にか置かれている本物のブルーサファイア…

 その存在に気が付き、キッドはポーカーフェイスの裏側で苦笑を浮かべた。

「なにしたんや、キッド!!」
「…予告通り『稀代の名探偵が守りしBlue Sapphire』は頂いていきます」

 服部の叫び声など全く無視し、そう言うと共に人工の羽根を広げる。
 そして慌てる2人を余所に、キッドそのままある方角へと飛び立った──







to be continue….


【桜月様後書き】

【言いわ…】←皆まで言うな;

 ……………あれ?
 なんでこんな中途半端なんでしょうか…?
 予定ではこの回で終りだったはずなのに…;
 こんなんじゃ消化不良(?)で『終りでぇすv』なんて言えないじゃんっ!!

 …ってことであと1回だけ続きます(爆)←結局それかよ;
 今回が異様に長い(…)ので短くなってる事請け合いでしょうけどね♪←マテ。
                                         NEXT→Epilogue




素敵!コナンさんが…もう…vvv(うっとりv)
やべえ…やっぱり雪花姉のコナンさんは格好良いねvもう薫月さんメロメロよ〜vvv
『共犯者』の響きにノックアウトですv
はぁ…vvvv(感嘆の溜め息らしい)Epilogueが待ち遠しいわvvv

BACK NEXT

top