錦百合(ヒヤシンス)
花の色によって異なる花言葉…赤は『嫉妬』。白は『悲哀』。
しかし、ヒヤシンスとしての言葉は…
──競技・遊技・勝負
そして…控えめな愛
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8月のBlue Sapphire -5-
〜怪盗KIDからの挑戦状?〜
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──土曜日、午後7時…
「…コナン君? コナン君ですよね?」
結局迎えに来た服部の引き摺られ、コナンが美術館に入ったその時。
ホール中央で図面らしき紙を広げ指示を出していた人物が声を上げた。
その声に、面倒臭そうに表情を顰めていたコナンが顔を上げると…
「やはりそうです。…僕のこと、覚えていらっしゃるでしょうか?」
と、言いながら近づいてきた1人の青年。
「……白馬、さん……」
不自然にならない程度に区切られた言葉。
思わず呼び捨てにしそうになったそれを、内心慌てて修正したのは…どうやら気付かれなかったようだ。
「覚えていてくれましたか!」
「う、うん…まあ…」
──忘れる訳もない。
小五郎に扮していたキッドが千間探偵を救出し、そのまま逃走(?)した『黄昏の館』での事件。
あの時、キッドの変装に気付いていたのは…解っているだけで3人。
警察の到着と共に連行された千間探偵とは、当然話をする事も出来ず…残ったのは何処から見ても小学生の子どもであるコナンだけ。
しかし、そのコナンが千間探偵に認められる程の観察力と推理力。そして素早い頭の回転力を持っていたら…
「(ヘリポートに降りてすぐ詰問の連続。こっちが子供の振りしてはぐらかしても問答無用。蘭が呼びに来てくれなきゃ止まらなかったぞ、アレ…)」
…つまり、かなりしつこいアプローチをかけられた、と;
にこやかに話かけてくる白馬に、コナンが内心で溜息を付いていると、
「おいくど…やなかった。コナン? 知り合いなんか?」
と、白馬にとってはアウトオブ眼中。コナンからすればすっかり思考から追い払われていた(つまり忘れていた、と・爆)服部が声をかけてきた。
その声に、コナンへの挨拶を喋り続けていた(笑)白馬の口が漸く止まる。
「ああ…、前に1度会ったことがあるんだよ」
げんなりとした表情を全く出さずに答えるコナン。
対し、会話を遮られたと思っている白馬は、服部に視線を向け、
「…貴方は?」
「わいは服部。西の名探偵・服部 平次や!」
「服部…では貴方が、大阪の服部本部長のご子息ですか…?」
「そんな大層な言い方せんでええ。確かに息子やけどな」
白馬の問いにそう返した服部に白馬は軽く頷き、
「申し遅れました。白馬 探と申します」
と、本当に遅れながらも自己紹介をした。
「白馬って警視総監の…?」
「ええ」
「そぉか…、でもなんでコナンと知り合いなんや?」
右手を出した白馬に同じく手を伸ばし、握手を交わす。
そこで思い出したように(否、そう見せかけて)コナンとの関係を尋ねる。
「前にキッドの事件でお会いした事がありまして…」
「キッドぉ?」
そんな話は知らない、とばかりにコナンに視線を向ける服部。
普段から「泥棒には興味がない」と、キッドの事件に関わろうとしないコナン。
その割には何度か「偶然」と言う名の邂逅を繰り返している2人である。
…コナンに気のある服部としては、自分が知らなかったその出来事に過敏に反応してしまう(笑)。
しかしそんな服部の心中など解るはずもないコナン。
既に会話にも参加しておらず、館内をきょろきょろと見まわしている…;←無反応。
そして…
「…ねぇ、白馬さん」
このフロアの観察(点検確認)が一通り終わったのか、丁度会話の途切れていた白馬へ話しかける。
すると白馬はにっこりと笑い、
「探で良いですよ?」
「へ? ……あ、うん。じゃあ、探…兄ちゃん」
さりげなく(もないが)はっきりと呼び方の訂正を促す。
それにコナンが同意し言い替えると、白馬は益々表情を緩める。←莫迦だよな(爆)
「あのさ。僕、今日キッドが狙うブルーサファイアが見たいんだ!」
「キッドの…? 服部君から聞いたのですか?」
「うん。それでここに連れてきて貰ったんだ!」
どうして来たのかなどと聞かれる前に、適当に理由を言っておく。
…本当は無理矢理強引に連れて来られたのだが(笑)。
「そうですか…。まだ予告時刻まで時間もありますし、構いませんよ」
「わぁい、やった! ありがと、探兄ちゃん!」
ここぞとばかりに子供らしく。
2,30匹くらい猫を被って(笑)お礼の言葉を口にする。
しかしその心中は、
「(どうせここまで来たンなら、アイツが狙っている宝石でも拝んでいくか)」
…ぐらいにしか思っていないのだ;
ブルーサファイアの展示されているフロアは4階。
その中にある第5展示室の中央に、その宝石は置かれていた…
「ほー…、これがその宝石ねぇ」
展示室を見張っている警官に「ごくろーさん♪」と声をかけ、服部がどうでも良いように呟く。
その服部に抱きかかえられ、件の宝石をその瞳に映すコナン。
そうしなければ、展示されている宝石が見えないせいなのだが…全くもって不本意である(笑)。
「…これがキッドの狙ってる宝石?」
「ええ、そうです」
「でも…なんだか小さいね」
確認の為に解り切っている事を尋ねた。
そして思った事を『小学生のコナン』として口にする。
当然、その事に気が付いていた白馬も頷きを返し、
「そうなんです。これはキッドがいつも狙うビッグジュエルではない…」
しかし、普段とは異なる犯行のその理由までは解っていないらしく、首を傾げる。
その様子を横目に、コナンは服部を促し床に降ろして貰う。
「宝石はこれだけなんか?」
「はい。この美術館に展示されているブルーサファイアはこの1つだけです」
探偵2人が話を続けているその足元で、展示室の中を見渡したコナンは、
「ふ〜ん…」
と、意味ありげな呟きを漏らした…。
──午後8時10分前…。
「さて。ご招待したお2人の探偵はおいでになっているのかな?」
美術館から500m程離れた処に建つ、高層ビルの屋上に降り立ったキッドはからかうような口調で呟き、前もって仕掛けておいた盗聴機が拾う音に耳を傾ける。
そこから聞こえるのは、中森警部の相変わらずの怒鳴り声と白馬探偵の部下への指示。
そして…
「おや? 服部探偵も館内に入られているのですか…」
てっきり中森警部から閉め出しを食らうと思っていた。←さり気に酷。
現に白馬の事すら追い出そうとしているのだ。
まあ、親が警視総監という立場故、しがない中間管理職では太刀打ち出来ない命令というものもある。
…と、言う事は…?
「服部探偵も、同じ手段を使ったという訳か」
つまり親の権力を使った、と…
もっとも、キッドの予告状が直接送りつけられた2人だ。
ここにいるのはある意味正当な理由なのだが…
「それでも中森警部が良い顔する訳がないってね(笑)」
──予告時間まで10分を切ってかなり余裕なキッド。
それもそのはず。
彼の手元には、月光りに輝く蒼い宝石が既に置かれているのだから…
「ではそろそろ…ご返却に参りましょうか…?」
…名探偵は、気付いてくれたかな? あのメッセージに…
to be continue….