「時間はどうやって「はじまった」のか」
「現在の標準的な宇宙論の立場」として
「ビッグバンを宇宙のはじまりとみなすなら、それは同時に時間のはじまりでもあるとする」という考えと、
「ビッグバンの前にも時間が流れていた」
の二通りが紹介されている。相反しているようだが、ある観点からすると、まったく同じ流れのものである。
ビッグバン宇宙論は、宇宙は1点から大爆発で始まって膨張して今日に至っている、という論である。われわれの住む宇宙の星や光だけでなく空間や時間まで、1点から始まって膨張しているという理論である。先の、「宇宙全体を考えれば、やはりエントロピー増大の法則はなりたっている」というのも、ビッグバン宇宙論から考えているのであろう。
それはさておき、宇宙が広がっているということはその外側があるということになる。P30とP31にビッグバンのいろいろな図があるが、どれも、この宇宙の外側に何かが広がっている図である。このわれわれの宇宙のすべては、もとからある他のわれわれの宇宙ではない謎の宇宙空間に風船のように膨らんでいく図といえる。
1600年に教会によって火あぶりにされたブルーノという人がいる。刑の理由は、宇宙は無限大であるという宇宙観を提唱したためということだ。
それが火あぶりに値するほどの罪であったのだ。
キリスト教では星が入っている天球のかなたに、天国があるという考えである。無限の宇宙では、この宇宙が全てになり、天国の場所がなくなってしまうことになる。これが神を否定することになったので火あぶりにされたということだ。
ビッグバン宇宙論は、このキリスト教の宇宙観とそっくりである。人間などの住むこの宇宙(天球)と、そのかなたにこの宇宙と関係ない、人間には触れることのできない異質の空間(天国)が広がっていということは、現世と、神のすむ国がそれぞれにあることを矛盾なく示していることになる。
まず、神の住む国があり、その中に、この宇宙がビッグバンを始まりとして広がっていったということになる。
灼熱の火の玉からはじまったことも、光あれにぴったり一致する。また、ダークマターや、ダークエネルギーのように、人間にはわからない、超自然のエネルギーや物質がこの宇宙の大部分を占め、この宇宙を支配しているということも、神の力、神の存在をうかがわせるには最適である。
400年前までは、地球も太陽も神が作ったものであった。ところが観測技術が進歩するにともなって、それではつじつまが合わなくなった。神は太陽系からも、銀河系からも神通力を失ってしまった。観測技術の進歩とともに、神は遠くへ追いやられてしまった。今は、137億年前、137億光年の遠くの宇宙にまで追いやられてしまった。そこはまだ人類が観測できていない場所である。神空にしろしめる場所である。
ビッグバン宇宙の時間を考えてみよう。
ひとつは、時間はビッグバンとともにはじまったという考え方である。これはこの世界のすべてを神が作り出した、という考えに無理なく一致させられる。
また、それ以前から時間はあったという考えにしても、それ以前はこの世界はなかったが、神の世界はあった。すなわちそれ以前は神の時間である、と考えれば無理なく神の存在に一致させることができる。
このように、ビッグバン宇宙論は、ニュートンが無限の宇宙を理論化して以来、非常に危うくなっていた神の存在場所をもう一度取り戻させたことになる。そればかりではなく、天地創造というキリスト教の教えにも一致する。このように、ビッグバン宇宙論は、キリスト教の考えに科学的な根拠を示したということで、キリスト教会にとっては待ち望んでいた宇宙観であろう。